月の目<2>
居間の椅子に座って町長の話を聞いた。町の上に浮いた月は遥か昔からあって人々から守り神のように崇拝されてきたらしい。空を遮られて暗い上に大きな目で見られて不気味だが特に人々に害を及ぼす事もなく浮かんでいるだけなので住民達は大して気にせずに日常を過ごし祭りの時には盛大に祝って今に至っているそうだ。
「結局、何であの月がここにあるのかわからないって事かね」
私は老人に訊くと、
「ああ、そうだな。でも我々を見守っているのだろう。それがなぜか私にもわからんがな」
と茶を飲みながら老人は答えた。しばらく老人と世間話をして私は家を出た。
外を歩く人々は確かに空に大きな月があるのを気にせずに歩いていた。私はまたその月を見上げた。
「何だろう。あれは」
私がそれを見て呟いた時、
『知りたいなら人間の時間で今から25年と3日後に来るといい』
と男と女が混ざったような声が私の頭に響いた。それが月からの声だとすぐにわかった。
(なるほど喋れるのか。わかった。気が向いたら来るとしよう)
私は言葉に出さすに答えて月を見た。月の大きな目が動いてこちらを見た。
「おい、月の目が動いたぞ」「初めてだ」「どうしたんだ」
人々が月の異変に気付いてざわついた。
「あんた、あの月を見ていたな。何かあったのか」
若い男が私に話しかけてきた。近くにいた人々が私を見てざわついた。
「別に。ただ変わった月だと思って見ていただけさ」
無駄な事を言うと騒ぎが広がると思い私は淡々と答えたが、
「お、お前は死神だな。あの月と悪事を企んでいるのだろう!」
と男は怯えながら言った。死神呼ばわりされるのは慣れているが難癖をつけられて少しばかり鬱陶しかった。人々が声高に「出ていけ疫病神!」と叫んだ。町長の老人が家から出てきた。
「みんな落ち着きなさい。その人は旅人だよ」
町長が大声で言うと辺りは静まり返った。私は面倒臭くなって、
「そういう事だ。それじゃ」
と私を死神呼ばわりした男に軽く言って歩き始めた。町長は「悪かったな。どうか良い旅を」と答えた。私は振り向かずに「ああ」と軽く手を挙げて歩いた。
空を見上げると月の目が笑っているように見えた。
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