月の目<1>

 白い石造りの家が並ぶ町。広い道を行きかう人々。子供たちが声を上げて外を走る風景はありふれていた。しかし空には町を覆いつくす程の黒い球体が目を開いてこちらを見ていた。そのせいで町に陽は当たらず昼間でも薄暗かった。

 通りかかった中年の女に、

 「あれは何だね」

と空を指差して訊いた。

 女は「ああ、あれは月だよ」と微笑んで答えた。

 「あれが月……大きな目があるな。生きているのか」

 「さあね。私が生まれた時からあったし良くわからないね。町長に訊いてみたらどう?」

 女に町長の家を教えてもらって私は礼を言って歩き始めた。

 昼間の通りは賑やかだが薄暗さが気になった。月は今にも落ちそうな位に町の上のすれすれの高さに浮いていた。やがて町長の家の前に着いた。他の家と同じで質素な二階建ての石造りの家だった。

 私は家のドアを開けて「すみません」と呼ぶと老人が出てきた。老人は私を見て驚いたがすぐに「何だね」と答えた。

 「あなたが町長ですか。あの月の事に訊きたいのですが」

 私の不躾な問いに町長は微笑んで「ああ、いいとも。さあ中にどうぞ」と案内してくれた

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