月の目<1>
白い石造りの家が並ぶ町。広い道を行きかう人々。子供たちが声を上げて外を走る風景はありふれていた。しかし空には町を覆いつくす程の黒い球体が目を開いてこちらを見ていた。そのせいで町に陽は当たらず昼間でも薄暗かった。
通りかかった中年の女に、
「あれは何だね」
と空を指差して訊いた。
女は「ああ、あれは月だよ」と微笑んで答えた。
「あれが月……大きな目があるな。生きているのか」
「さあね。私が生まれた時からあったし良くわからないね。町長に訊いてみたらどう?」
女に町長の家を教えてもらって私は礼を言って歩き始めた。
昼間の通りは賑やかだが薄暗さが気になった。月は今にも落ちそうな位に町の上のすれすれの高さに浮いていた。やがて町長の家の前に着いた。他の家と同じで質素な二階建ての石造りの家だった。
私は家のドアを開けて「すみません」と呼ぶと老人が出てきた。老人は私を見て驚いたがすぐに「何だね」と答えた。
「あなたが町長ですか。あの月の事に訊きたいのですが」
私の不躾な問いに町長は微笑んで「ああ、いいとも。さあ中にどうぞ」と案内してくれた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます