リリンが死んだ村<1>

 日が傾き始めた頃に小道を歩いていると道の両脇に黒い水晶を置いている男達がいた。

 独特の白い民族衣装のような服を着た男達は背丈ほどもある黒い水晶を二人で持って道端の丸い石の上に置いた。すると水晶はその場にふわりと浮いた。よくみるとその石は同じ間隔に並んであった。台車には沢山の水晶が山積みになっていた。男達はこの水晶をずっと置いていくのだろうか、その水晶はどうやって浮いているのか、などと考えながら彼らの横を無言で歩いた。道端には新緑の草が低く生い茂り田んぼには黄金色に輝く稲穂が風にそよいで波立っていた。川沿いに赤いレンガの水車小屋があり大きな木製の水車がコトコトと回っていた。空は赤とオレンジと青が混ざり、その色で染まった雲が果てしなく川のように流れていた。その景色はのどかさよりも季節感を無くした狂った色彩に溢れていた。

 村に入ると鮮やかな色の旗が石造りの家の屋根づたいに紐で繋いで飾られていた。村の住民は皆忙しそうに各々の作業をしていた。

 紺色の服を着た老人が目の前にいたので、

 「今日は何かの祭りかね」

と訊いた。老人は私を見て一瞬ハッと驚いたがすぐに微笑んで、

 「ああ、今日はリリンの葬式だからね。みんなで盛大に送ってやるんだ」

と答えた。私は「ああなるほど」と小さく呟いて辺りを見渡した。

 「それにしてもあんたは変わっているな。こんな何もない村に何の用だ」

 老人は不思議な表情で私を見て訊いた。

 「いや、別に何の目的もなく彷徨っている旅人だよ。ずっとね」

 「そうか、その身なりじゃ相当旅をしているようだね。それじゃ何もない所だがゆっくりしていってくれ」

 老人は微笑んで言うと近くの家に入っていった。

 ここの村では死人を明るく見送る風習なのだろう。珍しい風習だが他の土地にも無いわけではない。葬儀は悲しみながら遺体を見送ったり、遺体をひっそりと静かな場所に置いていくだけの風習もある。長い旅の間にいくつか死者を見送る場に立ち寄った事があるので目の前で行われている祭りの準備に何も思う事はなかった。

 私はぼんやりと広場の角で座って様子を見ていた。葬式が始まる時間が近いらしく時間が経つと共に人々が更に忙しそうに辺りを駆け回っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る