枯れたひまわり畑<6>

 「ああ、構わないでくれ」

 私が優しく答えると彼女は和やかな表情に変わり一礼してまた奥の部屋に歩いて行った。

 「あの年寄りに何か言われただろう。全く愚痴ばかりで困る」

 男は茶色の器に入った茶を飲みながら言った。

 「そりゃ人手不足であんな広い畑の面倒を見るように言われた文句を言いたくなるだろう。それが自然さ」

 「はっきり言う奴だ。この土地は先代が流行り病で死んでから私が面倒を見るようになったが思ったように管理が行き届かなくてな。仕事を怠ける者や引っ越す者が沢山出て大事なひまわり畑も見ての通り枯れ切ってしまった。領主を継ぐ者として情けない気持ちだ」

 「でも畑に水が引かれた事だし良かったじゃないか。礼はいらない。それじゃ邪魔したな」

 愚痴が長くなりそうだったので私は手を軽く挙げながら言うと男は「ああ、よい旅を」と苦笑いを浮かべて言った。

 屋敷を出て小道を歩いていると片方が白くもう片方が紫色の羽根の蝶が数匹飛んできた。

 蝶の羽ばたきから鈴の音がリンリンと聞こえた。柔らかい布で巻いた木槌で鈴を叩くような音色が骨だけの私の体に響いて心地良かった。屋敷を出て畑を眺めるとまだ幾多のひまわりがうつむいていた。

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