白馬の森<1>

 暗く青い森の中を私は歩いていた。

 木々は高く伸び枝には葉がなくまるで飾り物の木々が並んでいるかのような森の中で私の歩く足音だけが小さく鳴っていた。

 「おい、お前」

 野太い男の声が私の背後から聞こえた。私はゆっくり振り向いた。

 そこには大きな白馬が立っていた。

 「何だね。お前の事は馬と呼んでいいのか」

 喧嘩を売られた気になったので皮肉交じりに答えた。白馬はフンと鼻息を荒くした。

 「まあ好きに呼べばいい。それよりお前はどこから来たのか」

 「さあどこから来たのかな。歩いているうちに気がつけばこの森に入っていた。まあ私の旅はそういうもんだがな。突然どこかの世界に入ったり出たりするから」

 「ほお、面白い力だな。骨の旅人ってところか、まあいい。そうだな。馬と呼ばれるのは嫌だからクレイとでも呼んでくれ」

 「そうか、クレイ。ここはお前の住み家なのか」

 「ああそうだ。ずっとここに住んでいるよ」

 ちょうど森の暗さに慣れてきて私は辺りを見渡した。暗く青い光の漏れる森の遠くに白馬が3頭群れていた。反対方向にも2頭いた。青い森の中に佇む白馬の姿はとても神秘的だった。

 「とても美しいな。まるで童話のような景色だ」

 私が呟くとクレイはフンと鼻息を立てて、

 「何だ、随分としゃれた事を言うな」

と太い声で言った。

 私はムッとして「お前が何も喋られなければもっといい景色なのにな」と答えて青い森を見渡した。

 「おや、向こうからお客さんが来たな」

 クレイの言葉に私は振り返った。人影が見えた。女だった。裸の金髪の女が私の通ってきた道を歩いてきた。

 「面白いものが見られるぞ。あの木の近くの奴を見てみな」

 クレイが言った先に見える白馬が女に近づいた。その白馬はいきなり人の姿に変わった。

 髪からつま先まで全身が真っ白い肌の男だ。

 「ほお、姿を変えられるのか。どうするんだ」

 私の問いかけにクレイは「まあ見てろよ」と小声で答えた。

 男が女に近づいて声をかけた。女が振り向くとすぐに男に抱きついた。男は女の背中に手を回して口づけをすると女が抱きしめた手を下ろした。二人はそのまま道端に横たわり交わった。女の甲高い声が森の中で響いた。


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