らせんの町<1>

 そこはとても摩訶不思議な町だった。建物も道もらせん状にねじれているのだ。

 どうやってそこに人が住んでいるのか想像できなかったが、町角で見かけた全身が石造りの人を見て何となく納得した。石の肌が堅そうな小柄な人に聞いた。

 「この町は不思議だな。みんなそういう石の姿をしているのかい?」

 私の問いかけに小柄な石の人は低い声で答えた。

 「ああ、私達はみんなこの姿をしているよ。十年ほどの短い人生を毎日だらだらと生きているのさ」

 顔の輪郭はあるが開かない口で喋る声は男だった。恐らく男なんだろうと勝手に想像した。

 舗装された茶色混じりの白い石造りの道はねじれて両脇に建つ家もまたねじれていた。重力の法則を無視したような作りだが脆くは見えなかった。その道をぽつぽつと石の人々が歩いていた。道に沿って横向きになったり逆さまになったり歩く姿は見ているだけで酔いそうな気分だ。「それじゃ帰るか」と私と話した男が立ち上がって近くの家に入って行った。私は捻じれた迷宮のような道を歩く気になれずにその場に座ってしばらく様子を見ることにした。意外と見慣れてくると私でも歩けそうな気がしてきた。

 「おや、お客さんか。珍しいね。この町は初めてかい?」

 若い石造りの女が話しかけてきた。体形がさっきの男と違うのでこれは女だと思った。

 「ああ初めてだ。ここの人達はどんな暮らしをしているのか?」

 「まあどうって事もなくただふらふら歩いているだけだよ。祖先達はもっと働いていたらしいけどね。今はだらだら歩いているだけさ」

 「そんな事で暮らしていけるのかい?」

 「ああ、どうせ十年で死ぬからね」

 「たった十年しか生きられないのにだらだら過ごして寂しくはないのか?」

 「寂しい事はないね。私たちは先人たちの記憶を引き継いでいるのさ。だから寿命は十年でも記憶は何百年前もあるのさ」

 「ほお、記憶が……」

 私は少し驚き興味を持った。私も長く生きているが記憶を受け継ぐ生き物など見た事も聞いた事もなかったからだ。

 「私はこうして骨になっても随分長く生きているが、あなた達は生まれ変わりながら記憶を持っているのか」

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