ガラスの町のカーニバル<2>

 「どうだね。驚いたかね」

 年老いた男の声に私は振り向いた。顔のないガラスの人が立っていた。

 「まるで男と女の交わりの光……と言ったところだな。驚いたよ」

 「そうだろう。この町の人々はカーニバルの時だけ恋人と交わるんだ。普段は感情がない人形みたいに毎日ずっと同じ事を繰り返しながら過ごして生きている。どうしてそうなったのか誰にもわからないがこうして祭りの時だけ生気を取り戻すんだ」

 「そういう習性なのか。それじゃこのカーニバルで子供が出来るのか」

 「ああ、そういう事になるな。子供が出来たらすぐに体の外に出して安全な場所で成長させているよ」

 「ああ、そういう事……」

 私は驚かずに淡々と答えた。男は「それじゃ、楽しんでくれ」と言い残して広場を出て行った。日没の深く青い闇の中で輝いていたカップル達は「あっ」と甲高い声をあげると途切れた電球のように体の輝きを失った。あちこちで光がパッと消えやがて全ての輝きが失った時に花の車は先ほど来た方向へ戻って行った。子供達は帰って音楽だけが鳴り響く中、果てた恋人達は立ち上がって家路についた。愛のカーニバルは終わった。

 ある男の誘いで空き家に泊めてもらう事になった。久しぶりにベッドで横になり何の夢も見ずに朝を迎えた。

 翌朝、家を出ると人々はカーニバルの後片付けをやっていた。空き家を紹介してもらった男の家に入ると男はぼんやり立っていた。

 「昨日はありがとう」

 「……」

 私の言葉に男は黙ったままだった。男は無造作に床の掃除を始めた。

 外に出て見渡すと飾りを片付ける人々も無言で作業していた。人の声が聞こえずにただ物音だけがあちこちで響いていた。まさに感情のない人形だった。大きな通りを歩いて行くと花の車がポツンと置いてあった。人々が黙って車に火をつけた。花飾りは勢いよく燃えて土台となった車が真っ黒に焼け残った。それを数人で煤を払い布で拭くと透明なガラスの車体が姿を見せた。まるでガラスのゆりかごのような形だった。

人々が黙ってカーニバルの後片づけをする中を私は通り過ぎて町を出て行った。

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