ガラスの町のカーニバル<1>

 そこは半透明のガラスの町だった。建物もそこに住む人々も飴細工のように柔らかい曲線に包まれ青空を身にまとったように映していた。地面にガラスの粒が敷き詰められた広場に入ると子供と思われる小柄なガラスの住民が「ようこそ、旅人さん」と話しかけてきた。

 私は「にぎやかだね。今は何をしているのか」と訊くとその子は無邪気な声で「カーニバルの準備だよ。もうすぐしたら始まるよ」とはしゃいで人だかりに走っていった。

 透けたオブジェの塔にいくつもの花の輪がかけられ、その前を通る人々の体を透けて一瞬だけ見える歪んだオブジェは美しさと醜さが混ざり合っていた。

 「カーニバルだよ。カーニバル。恋を実らせるカーニバル~」

 子供達が歌いながら道の脇に鉢植えの花を置いた。ガラスの街灯には色とりどりの旗が隣の街灯と繋がって風になびいていた。そろそろ向こうの景色が透けて見える人々の姿に慣れた頃に鐘の音が響き花火が青空にポンポンと割れた。オルゴールとバンドネオンの混ざったような音楽に導かれて大きな花の形をした車が近づいてきた。車の上で人々が踊っていた。ガラスの人々が踊っている姿は奇妙だが軽やかな音楽にのって楽しんでいるように見えた。車が広場の真ん中に止まって音楽は鈴や太鼓が混ざってさらに賑やかになった。集まった人々は歓声を上げた。子供達は「恋を実らせるカーニバル~」とはしゃぎながら歌った。

 やがて人だかりが少しずつカップルに分かれていった。カップル達はそれぞれ手を握り抱き合った。ガラスの体からまるで電球のように黄色い光が輝き始めた。私は思わず驚いて凝視した。次々と明るく灯る人々……これは何なのか。一種の性行為だろうか……そう思いながら明るく輝く人々を眺めていた。音楽は更に賑やかになり子供達は歌い続けて抱き合った人々の体はゆっくり赤色に変わり始めた。恋を実らせるカーニバルとはこの事だったのかと私は納得した。日が暮れると抱き合った人々の体が夕闇の中で眩しく真っ赤に輝いた。この営みと思える行為を見続けていいのか戸惑った。

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