第16話道先にあったもの

 道なりにひたすら進んでいく。今日は昨日よりも暑いように感じる。遠くに見える景色はどこまでも続く廃墟の山だ。


「人が住まなくなると自然とこうなってしまうものだから仕方がないとはいえ、こうして見続けているとやるせない気持ちになるなあ」


「そうですね」


 キムツジさんは歩きながらでも常にしゃべり通しで全く疲れを知らないようだ。もう似たような話を何度も聞かされて返しに困ってきていた。


「……ナギサさん、キムツジさんっていつもこうなんですか?」


 とうとう耐え切れなくなって僕は少し後ろを歩いていたナギサさんに声をかけた。


「そう、最初は賑やかでいいと思っていたけど、今じゃ鬱陶しくて仕方がないわ」


「言ってもダメなんですか?」


「あのおっさんが言うこと聞くと思う?」


「どう想像しても笑ってごまかされそうな感じしかしません」


「ズバリ想像通りよ。私何度も行ったから」


「大変なんですね」


「本当にね」


 ナギサさんは大きくため息をついて、呆れたような顔でキムツジさんに大声でうるさいと言ってのけた。


「なんだナギサくん、賑やかだろう?」


「同じ話なんかい聞かされたと思ってるのさ!鬱陶しいから黙って!」


「なんだ、連れないなぁ」


 少ししょんぼりしたようだが、あまり気にしていないのか、今度は鼻歌を奏で始めた。まあ、話を止めてくれただけ良いことにしよう。


「レイナ、大丈夫?」


 最後尾を歩くレイナに声をかける。本当は中央に居てもらった方がいいのだが、レイナ自身がキムツジさんとナギサさんを警戒したままである以上仕方がない。僕が間に入ってフォローすればいいだけだ。


「はい大丈夫ですよ」


「疲れたら言ってね?」


「はい、そうします」


 レイナは大丈夫と言っているが顔はきつそうだ。本当は休むことを考えたいが、安全に休めそうな場所は今のところ見えない。つらいのはよくわかっているがここはもう少し我慢してもらうしかない。


「うん?これは困ったな……」


 突然キムツジさんが立ち止まった。特に何の変化もないように感じるが、いったい何に困っているのだ?


「ナギサくん!こっちに来てくれ!」


「どうしたのよ?」


 ナギサさんが呼ばれてキムツジさんが何かを指さしたものを見て深刻そうな顔をした。


「何があったのでしょう?」


「わからないけど、多分二人に任せた方がいいと思う。僕たちはモノノケが襲ってこないか見張っていよう」


「はい、そうしましょう」


 30分ほど見張りながら二人を待っていると、厳しい顔つきで帰ってきた。


「何があったんです?」


「これだよ」


 キムツジさんが僕たちの前に出したのは正教のマークが描かれた赤い宝石が輝くネックレスだった。


「これは……何故こんな場所に」


「レイナ知っているの?」


「はい。以前アスカには話しましたが、逃げてくる間に私が落としたペンダント。あれについていたものと同じ宝石です」


「炎晶石っていう宝石か」


「ええ、巫女くらいしかもっていないはずなのですが……」


「それがな、あの道のど真ん中の死体が握っていた。服装からして正教でも高位の地位にいる人間だ。既に腐敗して顔も判別できなかったがな」


「どんな服装でした?」


「黒い法衣を纏っていたけれどそれ以外に特徴はなかったわ」


「そうですか……それでは京都の正教本山の高官です」


「こんな場所に一人で来たというのはおかしいな」


「はい、何か理由がないとこんな場所に来ることは無いでしょう」


「遺体は近くに埋めておいた」


「そうですか。ありがとうございます」


 レイナはネックレスを握りしめて祈っているようであった。赤い宝石が淡く光り手から炎のような光が見えた。


「このネックレスは私が使わせてもらいます。これがあれば私でも役に立てます」


「それでは行こうか」


「はい、行きましょう」


 レイナはネックレスを首にかけた。僕たちはまた歩みを進めた。

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