第17話 屍の町

 僕たちはヤスアキさんの地図通りに進み、特に何の問題もなく今日の目的地である防府市に到着した。町に入ってすぐに広い公園を探してそこにテントを張った。まだ日が落ちるまで時間はたっぷりある。昨日のようなことになったら面倒だということで、僕とレイナ、キムツジさんとナギサさんのペアに別れてあたりをくまなく散策することにした。


「暗くなる前にここに集合するとしよう。我々は町の西側、二人は東側を見てきてくれたまえ」


「わかりました」


「ああ、そうそう、薪になりそうな枝があれば拾ってきておこう。あって困ることはないからな」


「そうですね、ではまた後で」


 太陽の位置を見るにあと2時間は明るいはずだ。僕はレイナと並んで散策を開始した。

 どの町もそうだが、この町も人が住み着かなくなって久しいのだろう。全体的に建物は傷んでおり、中には今にも崩れだしそうなものまであった。スーパーだったであろう建物からは腐敗臭が立ち込めていてとても中には入れなかった。

 住宅街にやってくるとほとんどの一軒家は木や草に覆われてしまっているし、ボロボロなためどれも不気味に映った。そんな中でまだ綺麗な家を見つけて入ってみる。

 中は埃っぽく、家具や家電は人が住んでいた時のまま時間が止まったようにそこにある。


「アスカ、こちらへ」


 レイナの呼ぶ方へと向かうと、そこには白骨化した死体があった。僕は思わず目を背けた。


「……。この家の人なのかな?」


「いいえ、おそらく物取りでしょう。人がいなくなったのをいいことに金品を漁っていたのでしょう」


「どうしてわかるんだい?」


「死体の周りに固まった血液があります。ここでモノノケか同業者に襲われて亡くなったのでしょう」


 レイナは冷静にそう語り、手を合わせて祈りをささげた。僕もそれを見て手を合わせた。


「きっとこの町には骨がそこらかしこに転がっているでしょう」


「え?」


「なんとなく、そんな気がします」


 巫女というだけあって第六感が以上に優れているのかもしれない。そう思うことで自分を納得させた。


「とりあえずさ、ここはもう出よう」


「はい、そうしましょう」


 家から出て、注意深くあたりを見渡しながら散策しているとレイナの言う通り、白骨死体がそこら中にごろごろと転がっていた。人の死体は見ていて気分が悪かった。こうしてここで死んだ者たちにもきっと家族がいて、友人がいて、大切な人がいて、そう考えると何ともいたたまれない。


「アスカ、大丈夫ですか?」


「あ、ああ。大丈夫だよ」


「あなたは、優しすぎますね」


「そんなことはないよ。ただ、人が死ぬってことに敏感なんだよ。死体を見るのも嫌だ。人が死んでいくのはもっと嫌だ。それだけだよ」


 キムツジさんやナギサさんだってきっとそうなんだ。誰だって人の死なんて感じたくないんだ。


「……私は人が死ぬところを小さいころから見ていました。だから、今はアスカほど嫌悪感を抱きません。きっとこれはいけないことなのでしょう。でも、死に慣れないといけなかったのです。巫女としているためには」


「それってどういう?」


「……それは、今はなさない方がいいでしょう。あなたの気分が悪くなるいっぽうです」


 そういってレイナは僕の前を進んでいく。いったいレイナは正教の巫女としてどんなことを経験してきたのだろう。その答えをいつか知りたいと思った。

 空を見上げると少し暗くなってきている。


「そろそろ戻ろうか」


「はい」


 僕たちはテントを張った公園へと戻った。


 テントの戻ると、キムツジさんとナギサさんが焚火を焚いて座り込んでいた。


「今戻りました」


「おお、。お疲れさん。どうだった?」


「白骨だらけです。ずっと気分悪かったです」


「君たちもか。我々もそうなのだ。まったく驚いた」


「おかげでちょっとね。食欲までなくなっちゃったわ」


 そうなるとこの町中白骨だらけということだ。今日はこんな中で寝ることになるわけだが、ちゃんと眠れるのだろうか。きっと眠れないだろうと僕は思った。


「明日はどうします?」


「そうだな、最低でも岩国まではいきたいところだ。そうすれば明後日には広島の正教会まで行けるだろう」


「そうね。そうしましょうよ。今日はもう早く寝てさ」


「レイナはそれでいい?」


「はい、構いません」


「それじゃあそうしようではないか。とりあえず我々は寝る。いやなものというのはだな、寝てしまえば忘れるものなのだよ」


 そういうと、キムツジさんとナギサさんはテントに入って早くも眠ってしまった。


「アスカ、あなたも寝ますか?」


「まだ眠くないし、焚火が消えるまで見張ってるよ」


「そうですか。私は食事をとりますね。アスカ、何かありますか?」


「乾パンくらいならあったかな」


「じゃあそれを食べます」


 そういってレイナは荷物から乾パンを取り出して食べだした。

 僕は焚火を見ながらぼーっとして時間が流れるのを感じていた。

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