第12話 誰もいない街
移動と休憩を繰り返しながら10時間。僕たちはようやく宇部市へとたどり着いた。僕は道が土砂崩れやモノノケの所為で通らなくなっている可能性を考えていたが、運良くそんなことにはなっていなかった。
市内に入って行くにつれてひび割れて歩きづらかった路面が綺麗に整備されて平坦な道となった。夕陽に彩られた街は茜色に輝いて綺麗に見えた。
しかし、どうしたことか。人の気配は感じられなかった。地図を頼りに宇部市難民キャンプ場に向かったが、テントひとつたっていない。
「一体、どうなっているんだ……」
「不思議です。モノノケ除けはしっかり張られていて安全な場所のはずなのですけど……」
この宇部市から出てメリットなどないはず。ビルの中に息を殺して潜んでいるのだろうか?
「……少し周りを探索してみよう。一人でもいれば何かわかるかもしれない」
「ええ、そうしてみましょう」
難民キャンプ場に重い荷物を置いて建物の中を順々に覗いていった。
どの建物も風化しており、朽ち果てた木の机や埃まみれのテーブル。壁には大きな蜘蛛の巣が張り巡らされている。
「これだけ埃が残っているということは建物は人がいないようだね」
「何件も回ってみましたが、どの建物も埃まみれでしたし、やはり人はいないのでしょう」
「うん。……さて、そうこうしていたらもう暗くなる。テントを立ててご飯でも食べよう」
「そうしましょう」
テントを広げて、その辺りから拾ってきた枝を組み上げて焚き火を起こした。夜の帳が下りて闇に包まれた街は異様な雰囲気を放っていた。人が全くいないというのはこのような感じなのか。
食事も余った支給品缶詰でなんとも味気ない。レイナは移動で疲れたのか缶詰を食べながらもうつらうつらとしている。
缶詰を食べ終えるといよいよ焚き火を見ていることしかやることがなくなった。レイナは既にテントの中に入って横になっている。
空は雲に覆われて星も見えない。ため息をついて枝を炎の中に投げ入れた。
「……お、あんなところに人が」
「本当ねぇ。すごいラッキー」
遠くの方から男と女の声が聞こえて来た。長い枝に火をつけて声のする方を照らすと、長身でポンチョ風のマントを羽織った30代程の男と、同じようなマントを羽織った華奢ながら鍛え上げられた肉体をした低身長の女性がこちらに歩いて来ていた。
「あの、あなた達は?」
「ああ、我々か。そうだな……この辺をふらついてる風来坊ってところかな?」
「そんなわけないでしょ?一応仕事しに来てるのよ。風来坊って、変なこと言わないでよね!」
「気の向くまま旅する風来坊というのはロマンを感じて良いと思ったのだがな。まあ、女性の君には男の中に流れるロマンというものはわからないか!はっはははは」
「ごめんなさいね。このおっさ……いえ、キムツジはいつもこんななのよ。私はカタヒラ・ナギサ。一応このキムツジのビジネスパートナーよ。よろしくね」
「は、はぁそうなんですね。僕はカザミ・アスカです」
「アスカね。わかったわよろしく。さて、出会って早々で悪いのだけどここで一緒に休憩させてもらってもいいかしら?」
「はい、構いませんよ。実は誰もいなくて少し心細かったので」
「ありがとう。助かるわ」
「ほう、そういえば確かにこの宇部市の難民キャンプ場は人一人いないな。どうりで静かなわけだ。不思議だなぁ」
キムツジさんとカタヒラさんは焚き火の前に腰を下ろした。長い距離を移動しているのか靴底はすり減っている。しかし、荷物小さなボストンバックのみでやけに少ない。食料などはどうしているのだろうか。
「あ、あのカタヒラさん」
「ナギサでいいわよ。なに?」
「仕事って言ってましたけど、なんの仕事をしているのですか?」
「うーん、それはちょっと教えられないかな」
「そうなんですか」
「ええ、特殊な仕事だから。ごめんなさいね」
「いえ……」
「……時にアスカくん。テントの中に誰かいるようだが?」
どきりとした。レイナは正教の巫女であまり人前に見せるわけにはいかない存在だ。教えていいものなのだろうか?
返答に時間がかかっていることを疑問に思われているように感じている。なんとか答えなければと思っていたところで、遠くで何かが崩れるような音が聞こえて来た。
「なに?」
「あららこれは。……ふぅん?人がいない理由はこれかしらね」
「そうであろうな。まあ、一つモノノケ退治と行くとしようか!なあナギサ」
「そうね。このままだとおちおち寝てもいられないわ」
「なら、僕も行きます」
「アスカくんもか?……おっと、自警団の刀。実力はあるわけか。よし、ならば共に戦おうではないか」
とりあえずレイナのことを話すかは戦いながら考えることにしよう。
「ようし!いざ参らん!」
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