第13話 夜戦

 音のする方向に走って行くと人型のモノノケが20体近く群がってビルを破壊している。手に持っている金属製のハンマーはかなりの重量がありそうだ。


「おうおう、これは随分な数だ」


「ええ、アスカにも来てもらって良かったわね。二人でやるには数が多かったわ」


 二人は敵を目の前にしてゆっくりとストレッチをしている。武器ももっていないように見えるし、何故ここまで余裕なのだろうか?

 僕は既に刀に手をかけていつ襲いかかってきてもいいよう備えているというのに。


「さぁて……と、やろうかい」


 ポンチョに隠れていてわからなかったが、背中に長さ20cm程の棒が6本取り出した。そのうちの一本には先に刃が付いている。キムツジさんは手早く繋げて槍を組み立てた。


「そうね。手早く片付けましょうか。眠いし」


 ナギサさんは背から折り畳まれた片刃細身の刃を開き、弓のような形にした。闇の中に細く光るのは弦であろう。


「仕込み武器ですか?」


「……仕込み武器というか、モノノケ跋扈するこの国を歩く以上多目的な利用を考慮した持ち運びしやすい武器。……だから何といえば良いかな?ナギサくんよ」


「多目的武器とかでいいんじゃない?別に名称なんて何でもいいでしょ。……ていうか敵、きてるわよ」


 話し声でバレたのかハンマーを振りかざしてモノノケがこちらに走ってきている。


「もう少し準備させてくれたまえよ。躾のなっていない者どもだ!」

 

 槍を振り回し一人突撃する。槍を大きく振り回しモノノケと距離をとりつつ的確に急所をついていく。


「あっ!ちょっ!おっさんが一人で突っ込まないでよ!」


 すかさずナギサさんはポンチョを脱ぎ捨てて、背に背負っている矢筒から矢をとってつがえた。引き絞って放つとまっすぐ飛んでいきモノノケの頭を撃ち抜いた。

 真っ暗で殆ど何も見えない中というのに凄まじい精度と技術だ。


「うおっと!ナギサくんこちらに当てないでくれよ?」


「当てないわよ!距離取れたら体制整えるわよ」


「ふむ、そうだな。そうしよう!」


 さらに大きく、大袈裟に槍を振り回すとモノノケは少しずつ後退し、距離をとった。


「ふむ、警戒することはできるらしい」


「とりあえずどうにかなったけど……いつもいつも一人で突っ込まないでよ!お陰で矢が不足してるんだから!」


「すまんすまん。いや咄嗟のことになるとついなぁ」


「ついじゃないわよ!3人で協力しないと本当に死ぬわよ?」


「そう怒るな戦闘中に」


「いい加減反省って事を覚えろってこと言ってんの!……まったくもう」


 完全に置いていかれている。この人達は明らかに戦闘慣れしている。それに、咄嗟の事であったのに瞬時に連携を図っている。


「凄い……」


「感心してる場合じゃあないわよアスカ。刀を抜いて構えて!またあちらからくるわよ」


 脇差を引き抜いて構えた。

 モノノケはゆっくりと間合いを詰めてきている。


「アスカ、君は目の前だけに集中して。私たちでカバーするわ。大丈夫、心配しなくても矢はもうないから」


「それは、大丈夫っていうんですか?」


「大丈夫よ。この弓、刃がついてるから折り畳めば曲刀になるから近接戦闘もできるわ」


「とにかく死なぬよう戦えば良いのだ。できるだろう?アスカくん」


「はい、大丈夫です」


「よしならばゆくぞ!」


 モノノケが走り出したと同時にこちらも動いた。モノノケがハンマーを振り下ろす前に僕はすれ違いざま切り抜ける。

 一撃でも喰らえば致命傷になる。やられる前に全部片付ける他ない!

 前進を続けていると突如背後に気配を感じ振り返る。なんと先程斬り伏せたはずのモノノケが立ち上がり、ハンマーを振りかぶっている!


「しまった!」


 回避行動は取れない!受け止めれば刀を折られ、致命傷を与えられる!どうすればいい……。


「おっと!そういう不意打ちは好まんぞ!」


 モノノケの頭上からキムツジさんが槍を突き立てた。脳天を貫かれたモノノケは血を噴き出して人形のように倒れた。


「あ、ありがとうございます」


「礼などしている場合ではないぞ!そらアスカくん前に集中するんだ!来てるぞ!」


 振り返ると2体のモノノケがすぐそばに迫っていた。

 足を大きく開いて前傾姿勢に、そのまま勢いよく飛び出して2匹の隙間を通り抜けて、背後から首を切り裂いた。


「よくやったぞアスカくん。素晴らしい戦いっぷりだ」


「あれ、今の2匹で最後ですか……」


「ええ、モノノケの気配はもうしないから、隠れ潜んでいる奴もいないでしょう」


 あたりを見渡すとモノノケの死骸で埋まっていた。服には返り血がこびりついている。


「さあ!引き上げようではないか」


「そうね。いい加減眠いわ」


 僕たちはキャンプ地の明かりを頼りに来た道を戻った。

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