第10話 逃走
僕としたことが迂闊であった。完全にモノノケに囲まれてしまった。見渡す限り廃墟ばかりなのだからモノノケが潜んでいたとしても不思議ではない。
「レイナ、下がって!」
僕は咄嗟に刀に手をかけ臨戦体制を整える。
目の前に見えるモノノケは、二足歩行で身長は1mほど。尻尾が生えている。恐らく猿がモノノケと化したのだろう。
(1.2.3……合計6匹か……敗色濃厚だねこれは。となると逃げる方向で考えるべきだけど、走って逃げてもモノノケの方が体力があるだろうからいずれ捕まる。どうにかして動きを止めるか見失わせるしかないか)
僕はモノノケに注意を払いつつ辺りを見る。
散乱した机と椅子、商品棚、劣化したカートにカゴ。使用期限が切れて錆びついた消火器。
(消火器……これだね)
「カザミさん……」
レイナは不安そうな顔で僕の服を掴んでいる。先日襲われたばかりだ。仕方がないだろう。
「大丈夫、算段は今ついた。ここから逃げるよ」
「はい」
「少しずつ後退して。僕が合図したら全速力で建物から出るんだ」
「わかりました」
不安を完全には拭えなかっただろうが少しは落ち着いてくれただろうか?
モノノケは少しづつこちらに迫って来る。手には鉈を持っている。こちらとしてはありがたい。
横目に赤い物体が見えたところで僕は叫んだ。
「走れ!!」
同時にレイナは外に向けて走り出した!モノノケ共も走ってくる。
僕は消火器を持ち上げて投げつけると振り返って全速力で走った。
後方で鈍い金属音が響き、その直後に破裂音と白い煙が巻き上がり僕の視界が少し遮られる。
光が差し込んで視界が開けた。少し前にレイナが走っているのが見える。
「レイナ!大丈夫?」
僕が追いついて話しかける。
「は、はい。でも、もう、はぁはぁ……。足元が、ふらついてきて……」
脇腹を抑えている。どうやら本当に限界らしい。
後ろを振り返るとモノノケが建物から出てきている。こんな所でモタモタしている訳にはいかない。
「レイナ、僕の背中に」
レイナが頷き、足を止める。僕はすぐさまレイナの前でしゃがむ。
レイナをおぶるとすぐさま駆け出した。しかし、いくら何でも重い。荷物を詰め込んだ鞄に刀、さらにレイナを抱えている。
後ろを振り返るとモノノケが猛スピードで追いかけて来る。
「くそ、追いつかれる!」
あれよあれよともうあと2m程の距離まで詰められた。
レイナを降ろして応戦するしかないという決断をしかけた所でレイナがボソボソと何かを呟き始めた。
(な、なんだ?この不思議な感じは)
暖かい、それだけではない。何か神秘的なものを感じる。
「アスカ、今のうちに……」
後ろを振り返るとモノノケ共は先程までの威勢が嘘のようにたじろいで後退りを始めている。
「何だかわかんないけど、わかった!」
僕はショッピングモールの敷地から国道へ出て宇部市方面へ走った。
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