第9話 旅路
管理の行き届いていないアスファルトはひび割れていてそこから雑草が生えてきている。
ろくに車も通らなくなって数十年。ただただ広い道路は寂しく開けていて、遠くに見える民家に人の気配はない。
「この辺りは完全に無人なんだな」
「殆どの方々は正教が安全を確保している大きな町に移動していますからね。この道路沿いの方達は下関に移動したのでしょう」
「そういえばこの辺の方言使うおっさんが難民キャンプにいた」
「そうでしょう。安全が確保されている場所にいなければいつもの中に襲われるかわかりませんから。……でもこの辺りはまだ被害が少ない方です。山側の町はモノノケの巣窟になっています。実際に見たのでよくわかります」
「成る程、その巣窟を突っ切って下関まで」
「ええ、でもそうするしかないんです。あまり私たち巫女は目立ってはいけないので人目につかない山道をいくら危険であろうと進まなくてはならないのです」
聞いたことはある。巫女は教会から出てくることは滅多になくて、大衆の前に姿を現すことは原則ないため正教の関係者以外にその姿を知る人物は殆どおらず、白髪白眼というのも正教のお偉い方がそう言ったから信じていたというだけで実際目にしていた人が話をばら撒いたとかそういう事ではないらしい。
ただ、巫女に危害を加えた場合、極刑に処されるということはどうやら事実らしいことは昨日のヤスアキさん達の反応でなんとなく理解していた。
しかし、今の話で一番気になるのはなぜわざわざ危険な山道を進むのかということであった。
「でもさ、見られるのが嫌なら馬車とか方法は幾らでもあると思うけど……なんで山道を通るの?万が一があるから?でも正教としては巫女が危険な間に合うことは本意じゃないんじゃないの?」
「ええ、それはそうなのですが……。すみません、私にも詳しい事はわからないのです。私たち巫女は教祖様のお言葉に従って行動する事しかできません。というよりは教祖様の言う通りにしなければ巫女の立場にはいられません。巫女は教祖様の代弁者でもありますから、教祖様に逆らう事はたとえどんな些細な事でも許されはしないのです」
「ややこしくて鬱陶しいことだね。僕は絶対そんなの嫌だよ」
「それが神に仕える"巫女"という役職なのですよ」
「教祖様は神様じゃないんじゃないの?」
「教祖様は神に等しい方です。正教の教えではそうなっています」
「そうなのか」
僕はそこまで正教のことに詳しくはない。なんなら正教の教えなど特に聞いた覚えがない。というか、九州地方に正教の教会が果たしてあっただろうか?単に地元になかっただけで長崎とかにはあったのか?福岡は通ったが正教の教会は見ていない。まああまり考えても仕方がない。今は宇部市たどり着くことを考えよう。
今のところ順調に国道2号を進めている。地図によると途中で国道190号に入らなければならないらしい。標識は古びて所々掠れているがまだ読誠は可能だ。迷う事はないだろう。
ただ、かれこれ3時間は歩きっぱなしで水分も食事も取っていない。流石に喉も乾いてきたしお腹も空いた。どこかしらで休憩するべきだろう。
「どこか座れそうなところで休憩しないかい?」
「そうですね。ではあそこはどうですか?」
レイナが指差した先にあったのは大きなショッピングモールだった建物であった。
「そうだね。行ってみようか」
疲れていた僕はよく考えずにそう答えた。
ショッピングモールの中は荒れ果てていてカートやカゴが散乱していて、店内の棚やテーブル、ショーケースなんかもボロボロにされている。
「これは酷いな」
僕はテーブルも椅子を起こすと埃を手で払い除けた。
トラベルバックから水の入った水筒と乾パンの缶詰二つを取り出してテーブルに置くと、どかっと椅子に座った。
「レイナも座りなよ」
「はい。そうしたいのですが、その前に少しやらなきゃいけないことがありそうです」
「え?」
レイナの目線の先を見つめると薄暗い建物内ではよくに目立つ赤く光る目玉がこちらを向いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます