第6話巫女の頼み
翌日、目が覚めるとすっかり外は明るくなっていた。
外に出て大きく伸びをすると自警団のテントに行ってみることにした。
昨日何故彼女が僕のことを見つめていたのかがとても気になっていたのだ。
テントの中に入ると珍しく誰もいなかった。まだ配給も来ていないし、モノノケが襲撃して来ればもっと騒がしくなる筈だ。
「今日今後の予定を決めるんじゃなかったっけ?何故誰もいないんだ?話し合いってここでやる筈だけど……」
「……あ、貴方は」
テントの奥からひょこっと覗き込む白い目があった。少し薄暗いテントの中でもよく目立つ。
「やあ、カンザキ・レイナ……だっけ?正教の巫女の」
「はい。……あの、少し話しを聞いてもらえませんか?……なんだかあの人達には話しづらくて」
「話しづらいかな?ヤスアキさんとか話しやすいと思うけど……あーシライさんは別だけどさ」
「いえそういう意味ではなくて、なんと言えばいいでしょうか、……言いたいことを簡潔に言えば私は一刻も早く広島に戻りたいのです」
「おいおい……昨日の話聞いたでしょ?それはこれから決まることだよ」
「私がいるとなれば間違いなく進みは遅くなります。全てを私に合わせ、難民の皆さんに迷惑をかけるわけにはいかないのです。……そこでなのですが」
僕はなんとなく嫌な予感がして体に震えが走った。
「自警団にバレないよう、私と共にここから逃げてはくれませんか?」
予感的中。
僕はすぐさま無理と言いたかったのだが、真っ直ぐ視線を合わせて真剣にお願いする彼女にいきなり言ってもゴネられる決まっている。
こういう時は何故そうしなければならないのか、理由を聞くのが一番だ。
「とりあえず一つ聞きたいのだけど、なんで僕にそれを言うのかな?」
「一つは貴方が私をモノノケから助けてくれた人で信用してもいいと思ったから、もう一つは、ヤスアキさんから自警団に入団できるくらい腕が立つと聞いたから、そして最後の理由は、私の感覚的な話なのですが、なんとなく貴方に似たものを感じたのです」
「似たもの?」
「はい、それが何かはわからないのですけれど、確かに昨日感じたんです」
昨日、僕の方を見ていたのはそういう理由だったのかと理解した。
しかし、またヤスアキさんは余計なことを言ってくれたものだ。
「成る程成る程。よく分かったけど、難しいんじゃないかな?とてもじゃないけどモノノケのウヨウヨしている道を歩いてここから広島まで2人で行けないよ。自警団もいるんだからこの難民達と移動すべきだよ」
「……私もそれは重々わかっているのです。ですが……」
レイナは神妙そうな顔をした。
「……はあ、なら自警団の決定を待ってからまた話そう?それで良い?」
「はい、すみません。それで良いです」
「じゃあ、また後でね」
テントを出ると僕は頭を抱えた。
どう考えても無茶だ。広島なんて歩いて何十日掛かるかわからない。モノノケにいつ襲われるかもわからないから常に見張らないといけないし、確実にそれは僕一人でこなす必要がある。
「絶対無理だ」
僕は少し頭をさっぱりさせるために関門海峡に向かった。
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