第5話 巫女、カンザキ・レイナ
自警団のテントの中に少女を運び込むと、救急箱から消毒液や軟膏を取り出して手当てをした。
「おいシライ!食料は?」
マサトさんが強い口調でシライさんに指示を出した。
「は、はい!缶詰があります」
「缶詰って何の!?」
「あ、えと、わなりまさん」
呂律が全く回っていない。これには流石にマサトさんが切れた。
「あっ?なんだって!」
「ひゃい!しゅいまぇん!」
あまりにもシライさんがテンパっているので仕方なく僕が動いた。
缶詰をシライさんから取るとサバ缶と書かれている。
「サバ缶だってさ」
「よし、持って来い!」
「はーい。……缶詰くらいでテンパらないでよシライさん」
「あ、ああ」
相変わらずおどおどしていてお話にならない。
僕は構わず缶詰をマサトさんに渡した。
「はぁ、悪いなアスカ。お前もいい加減な奴だがシライよりかは随分とマシだ。っとに、どうして自警団に入ったんだか……まあいい。お前は自分のテントに戻ってろ」
マサトさんはイラつくと口がとても悪くなる。普段はとても優しい人なのだが……まあシライさんがあんななので仕方がないだろう。
自分のやる事は特にないので僕は大人しくテントに戻って早めに寝床についた。
夜遅くに尿意を催して目が覚めた。
自警団テント近くにある仮設トイレに寝ぼけ眼で向かい、お手洗いを済ます。
トイレからでて少し自警団のテントを覗いてみるとヤスアキさんが干し芋を齧っていた。
「何食ってんの?」
「おつわ!ってなんだアスカか」
「おつわってなにさ。笑っちまうよ」
「で?なんだ」
「いんや。目が覚めてトイレに来たついでに覗いてみただけさ。そういや女の子目を覚ましたの?」
「少し前に様子を見たときには起きてなかったがな。どうだろう?」
そう言って齧っていた干し芋を口に詰め込むと数回噛んで一気に飲み込んだ。常人がやると喉に溜まりそうな事を平然とやってのけるのは流石元傭兵と言ったところであろうか。
「さて、様子はどうかな」
「あっ」
少女は目を覚ましていた。
やはり容姿は優れている。巫女という立場である以上それなりに容姿端麗でなければならないのだろう。
「やあ、目が覚めたかい?気分はどう?」
ヤスアキさんが優しく少女に声をかけた。
「大丈夫です。……あのここは?」
少女はキョロキョロと辺りを見渡す。それもそうだろう。山からテントに移動しているのだから不思議に思っても仕方がない。
「ここは山口県下関市の難民キャンプだ。君はすぐ側の山で気を失っていたんだよ」
「そうだったのですね。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
少女は深々と頭を下げた。
「いや、無事で何よりさ。お腹減っているだろう。これくらいしかないけど食べてくれ」
そう言ってヤスアキさんはサバの缶詰と割り箸を差し出した。
「……よろしいのですか?」
「いいさ。僕たちの食べ物はまだある」
「それではすみません、いただきます」
「食べ終わったら話を聞かせてほしいんだ。いいかな?」
「はい。構いません」
少女が食事を終えたところで早速話を聞くことにした。
「さて、まず君の名前を教えてほしい」
「私はカンザキ・レイナ。暁正教広島教会の巫女をしています」
「何故また広島から?」
「本当は京都の総本山に向かう予定だったのですが、途中でモノノケに襲われて、その際に護衛が皆私を守って倒されていき、結局私1人に……」
よくここまで逃れてこれたものだと僕は感心してしまった。
「逃げている間に真反対の山口方面に来てしまったわけか」
「そう……ですね」
「それ以前に方向音痴なんじゃねーの?」
僕は思った事を普通に言った。
「……はい実は」
どうやら思った通りであったようだ。でなければ1人になったとしても反対方向に向かう事はないだろう。
「……それで、何故京都に?」
「呼ばれたからとしか言えません。私にも詳しい理由はわからないんです。でも、とりあえず広島には戻らないと」
「うーむそうか。ならば少しの間ここで共に行動してもらおう。明日にどうするか決定する」
「わかりました」
「それじゃあ今夜は休んでおいてほしい。……アスカももう戻って寝ろ」
「へいへい」
僕はテントから出て自分のテントに戻る事にした。
その時少しレイナの顔が見えた。何故だか白い目は僕の方を見つめていた。
僕には理由がよくわからなかったのだが、その目に僕は何かを感じていた。
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