第4話 山に居たもの

 山の中は荒れに荒れていて斜面も急で登るのは困難であった。

 本来こんな使い方はしてはいけないのだろうが脇差を地面に突き刺して登って行く。

 あれ程大きな音がしたという事はモノノケが何かやっているに違いないと直感的に感じていた。僕は気になった事はそのままにしておけない人間なのだ。ヤスアキさん達自警団の到着を待っていられるほど僕は大人ではない。

 10分ほど登っていると坂が緩やかになり歩きやすくなった。

 すると近くからモノノケの鳴き声が聞こえてきた。


「予想的中」


 僕はモノノケの声の方向に走った。

 木々の間を縫うように抜けて行くと1メートル程の身長で痩せ細った人間もどきのモノノケが3匹、何かを囲んでいる。鞘から脇差を抜き一気に詰め寄ると1匹のモノノケの心臓を一突きし、そのまま木に押し付けた。

 ここでようやくこちらに気がついたモノノケ共は何が起きたかまるでわかっていないようだ。

 僕は脇差を引き抜くと一気に近づいておどおどしているモノノケ2匹をすり抜けざまに切り裂き絶命させる。

 脇差を一振りしてから血を布で拭き取ると鞘に納めた。

 振り向いてみるとモノノケが囲んでいた何かが見えた。

 そこに居たのは気を失った白髪の少女であった。

 僕は少女に近づくと肩を掴んで揺さぶって目を覚まさせようとしたが、まるで起きる気配がない。

 肩から手を離してよく少女を観察してみると服には破れた跡があり、顔や腕に擦り傷が数カ所確認できる。どうやらずっとあのモノノケから逃げ回っていたようだ。


「さて、どうしよう?1人じゃキャンプまで安全に連れて行けそうにないしなぁ……」


 そうして悩んでいる間に息を切らしてヤスアキさん達自警団がやってきた。


「あ、来た」


「あ、来た。じゃないんだよ!どうして俺の言うことを守らないんだこの馬鹿!」


「でも、こうして無傷だし、何よりもう少し遅れていたら彼女どうなってたかわからないよ?」


 僕は少女の方を指差した。


「それは結果論だ!偶々偶然上手く行ったに過ぎない!……ったく、こんな事じゃたとえ18歳になっても自警団には入団させられないな」


「悪かったとは思ってるけど……」


「ならちゃんと改めろ。そんでだな……」


「まあまあヤスアキさん。その辺にしましょう。それよりあの女の子を助けないと」


 マサトさんが説教をするヤスアキさんを諫めて少女のことを話題に出した。


「……説教はここまでにしてやる。とりあえずこの子をキャンプまで運ぶぞ」


 ヤスアキさんが少女に近づいて背に乗せようとした時、少女の背中部分が見えた。そこには海から登る太陽のマークがあった。


「ヤスアキさん。その子の背後に暁正教のマークがある!」


 僕が叫ぶとヤスアキさん達の顔に焦りが見えた。


「なに?それじゃあ…….」


 白い髪をしていて正教のマークが描かれた服を着ているような女性は巫女以外にいない。巫女と言えば正教の中でも特別な存在である。その巫女を助けられなかったとなれば正教からどのような処罰を与えられるか分かったものではない。


「ヤスアキさん。なんとしても助けないと!ま、まずいですよ」


 体をガクガク震わせてシライさんがそう言った。


「急いでキャンプに戻る。怪我の治療に、食料確保もしなければ」


「とにかく、この山を降りましょう」


 僕たちは急いで山から下山してキャンプ地へと戻った。

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