第11話 弟子入り志願者
「スレイド、少し休憩にしようか」
「ああ、わかった」
俺は、ファラエスの手伝いをしていたが、仕事が一区切りついたため、休憩することになった。
「さて、外の空気でも吸うかい? 中庭なら、丁度いいだろう」
「それはいいな……」
「よし、なら一緒に行こうか」
そう言って、ファラエスが先導してくれる。どうやら、最初から連れて行ってくれるつもりだったらしい。
しばらく歩くと、中庭らしきものが見えてきた。
「なるほど、確かに良さそうな……うん?」
「うん? どうかしたのかい?」
「いや、誰かに見られている気がしてな……」
中庭に来る時、何者からか見られている気がする。
「む? ああ、彼女か……」
すると、ファラエスが後ろを見て、少し笑みを浮かべた。やはり、誰かいるのだろうか。
「そんな所で見てないで、出てくるといい。彼はいい人だから、安心してくれ」
「え……?」
ファラエスの呼びかけで、物陰から少女が飛び出してきた。
赤髪で短髪の可愛らしい女の子だ。
「あの……ボク……」
いや、男の子なのだろうか。しかし、胸が微妙に膨らんでいるし、腰も女性らしいし、何よりスカートだ。
俺が悩んでいると、ファラエスがその答えを教えてくれた。
「紹介しよう。彼女は、四番隊の一員であるセリアだ。こちらは、スレイド。といっても、セリアの方は、試合を見ていたはずだから、知っているね」
「四番隊の隊員だったのか。よろしく頼む」
そう言って、俺は手を伸ばす。しかし、セリアは震えており、俺の手をとってくらない。
よくわからないが、怖がっているのだろうか。
「そ、その……」
俺がそんなことを考えていると、セリアは両手で俺の差し出した手を握った。怖がっている訳ではないようだ。
すると、セリアはゆっくりと口を開き始めた。
「あの……」
「うん?」
「あの……スレイドさん……いや、師匠」
今、師匠と言ったのか。一体、何を考えているんだ。
「ボクを……弟子にしてくれませんか?」
「で、弟子……?」
まさか、俺に弟子入りしようということか。
「セ、セリア……急にどうしたんだい?」
「私、師匠の試合を見ていました。それで、その剣技に……惹かれたんです!」
どうやら、俺とゴガッサさんの試合を見ていて、俺の技に惚れこんだようだ。それは、嬉しいのだが。
「なるほど、スレイド、どうする? これは君の問題だね」
「ああ、答えは決まっている」
ファラエスは、俺の言葉に笑顔を見せた。恐らく、俺が弟子入りを認めると思っているのだろう。
だが、俺の答えは違うのだった。
「セリア、お前のその気持ちは嬉しい」
「し、師匠……それじゃあ!」
「だが、俺は弟子をとる気はない!」
「え!?」
「スレイド!?」
俺の言葉に、ファラエスとセリアは目を丸くする。やはり、二人の思っていた答えとは違ったようだ。
「ど……どうしてですか?」
「どうしても、こうしてもないさ。弟子はとらない、そう決めているんだ」
俺は今、弟子をとるつもりなんてない。そもそも、そう言われるとすら思っていなかったくらいだ。
「そ、そんな……」
セリアは、肩を落としてしまった。少し可哀そうだが、これは仕方ないことだ。
「悪いな、でも、師匠ならもっといい奴がいるさ……」
「……師匠以上に、弟子入りしたい人なんて、いません!」
そこまで言ってもらえるのは、とてもありがたい。だが、こちらにも事情というものがあるのだ。
「そう言ってもらえて嬉しいが、俺もこれを曲げるつもりはないんだ」
「……うう」
セリアは、悲しそうな表情をする。そんな顔をされると、罪悪感がすごい。
「駄目なものは、駄目なんだ。諦めてくれないか?」
「……い、嫌です! ボクには、師匠が必要なんです! 師匠がいいんです! どうしても駄目だと言うなら、せめてボクの剣を見てからにしてください!」
「何!?」
セリアが言葉とともに、中庭へと飛び出した。そして、セリアは腰に携えた剣を引き抜く。俺を誘っているようだな。
「スレイド、せめて、剣の実力くらいは見てやってくれないか?」
「……仕方ないか」
俺も、セリアに続き中庭へと出ていく。実力の確認くらいならしてもいいだろう。
「さあ、来い!」
俺は、刀を抜いて構える。セリアは、どのような攻撃をしてくるだろうか。
「いきます!」
「おうっ!」
「はああっ!」
俺の刀と、セリアの剣が重なった。
「おおっ!?」
その一撃に、俺は驚く。思ったよりも筋のいい攻撃だ。
「まだ、まだ!」
「くっ!」
続いて二撃目。これも悪くない。磨けば確実に光るものだろう。
「はあああっ!」
「おおっ!?」
これもいい攻撃だ。やはり、中々すごい剣士なのかもしれない。
これ以上は、俺も受けきれそうにないな。反撃するとしようか。
「おらああっ!」
「あっ!?」
セリアは、俺の攻撃に耐え切れず、飛び退いた。
俺はさらに踏み込み、セリアに刃を向ける。これで勝負ありだ。
「中々悪くない剣筋だったな」
「し、師匠……それじゃあ!?」
「だが、駄目だ。俺は弟子をとらない」
俺の言葉に、セリアは悲しい顔をする。
そんな表情をされても、俺は意見を変える訳にはいかないんだ。
「そ、そんな……」
「まあ、鍛錬を続けていれば、お前は普通に強くなれるはずだ。それで頑張ってくれよ」
セリアの肩に手を置き、俺はそう言った。
しかし、セリアの顔は晴れない。
「セリア、私とスレイドは、仕事に戻らなければならない。とりあえず、君も休んでいてくれ」
「……はい」
ファラエスの言葉に、セリアは従った。やはり、隊長の言葉は響くのだろう。
セリアは、肩を落としながら、歩いて行った。
「さて、スレイド。仕事に戻りたいところだが、一つ聞いてもいいだろうか?」
「うん? なんだ? 別にいいけど……」
セリアが去っていくのを見送った後、ファラエスがそう聞いてくる。
「どうして頑なに弟子入りを断るんだい? セリアの実力は中々のものだ。それは君も承知しているだろう?」
「まあ、それは……」
「だったら、弟子にしてもよかったんじゃないのかい? 彼女に、自身の技術を伝えてもらえる。剣士としては、悪い話じゃないだろう?」
ファラエスも、先程まで俺がとっていた態度に疑問を覚えているようだ。仕方ないから、理由を説明するとするか。
「違うんだ。セリアがどうこうという話ではなく、俺が今、弟子をとるつもりはないんだ」
「というと?」
「俺はまだ、言うならば修行中の身だ。つまり、弟子をとるレベルに至っていない。そんな状態で弟子ができても、どちらにとっても良くないと思うんだ」
これが、俺の出した結論だ。
俺が師となれるのは、恐らく三人の師匠と同等に達した時くらいからだろう。
だが、俺の言葉にファラエスは微妙な顔をした。何か間違っているのだろうか。
「……確かに、君の意見もわからなくはない」
「何か、問題でもあるのか……?」
「ただ、それなら君はいつ弟子をとれるのかな?」
「いつって……」
それは、わからなかった。いつかといわれても、俺が強くなってからとしか言いようがない。
「それに、セリアの気持ちも汲んであげて欲しいな。彼女は、今の君に弟子入りしたいと思っているんだ。今の君を見て、憧れているんだ」
「確かにそうかもしれないが……」
「まあ、君が決めることだから、私が口出しするべきではないかもしれない。ただ、この件においては、セリアの味方をしてあげたいね……」
そう言って、ファラエスは隊長室へと戻っていった。
取り残された俺は、一人考える。弟子をとること、師匠になること、それをどうすればいいのかを。
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