第7話 試験の合否
俺が待っていると、闘技場の方から声が聞こえてきた。
「受験者スレイド! 前へ!」
これが合図のようだ。俺はゆっくりと歩みながら、闘技場にでていく。
「へえ……」
そこで、数人の騎士達の目がこちらに注目する。新人を見に来た者達という訳だろう。
「試験官ゴガッサ! 前へ!」
審判の合図で、反対側からゴガッサさんが出てくる。これで、試験という名の試合が開始されるのだろう。
『さあ、始まりました! 注目の対決!』
そこで、女性の声が響いた。恐らく、魔法によって、会場全体に聞こえるようにしたものだろう。しかし、これは一体なんなのか、俺にはさっぱりわからなかった。
『実況は、私セイカ。解説は、騎士団四番隊隊長ファラエスさんでお送りします。ファラエスさん、よろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
何故か、ファラエスの声まで聞こえる。これは、一体なんなんだ。
「こいつは、実況さ。俺達の戦いを、面白おかしくするためのな……」
「じ、実況!? どうして!?」
「普段、騎士の戦いは、市民にも放映されることがある。その時に、わかりやすくするためにつけられたのが、これだ」
なんなんだ、その文化は。まあ、さほど気にはならないから、いいのかもしれない。
『さあ、今回の受験者は、なんと、ファラエスさんの推薦! 記憶喪失! 経歴不明! スレイド選手!』
実況は、俺の紹介を始めた。あまり、いいイメージのない煽り文句だな。
『対する試験官は、ゴガッサ選手! 騎士になって三十余年! この男の実力を知らぬ者はおりません!』
次は、ゴガッサさんの解説だ。ここで、ゴガッサさんが三十年くらい騎士をやっていることがわかった。つまり、経験値がすごいということだ。
『さあ、今戦いが始まろうとしています! 審判が手を上げました! この手が振り下ろされた時、試合が開始されます!』
そうだったのか。そういうことは、先に言っておいてほしかった。
「試合開始!」
そう思っている内に、審判は手を振り下ろす。つまり、試合開始の合図だ。なら、まずはこちらから行くとするか。
『さあ、試合が開始されました! さらに、それと同時に、スレイド選手が駆け出した!?』
『恐らく、先手必勝といったところでしょう』
俺は刀を引き抜き、ゴガッサさんの首元を狙う。相手の実力はわかないが、これで斬れる程の実力ではないだろう。
「ふん!」
『おおっと、ゴガッサ! その攻撃をなんなく受け止めた!』
『あの程度の攻撃なら、当然です。あれを受けきれないくらいでは、試験官なんて務まらないですからね……』
実況の通り、俺の攻撃は簡単に受け止められていた。そうでなくては、困るくらいだ。
「その程度の攻撃で、俺を倒せるとでも?」
「思っていませんよ……」
俺は言いながら、刀に力を込めるがびくともしない。
『おおっと! ここで、両者硬直状態だ! 力が均衡しているのか!?』
『いや、ゴガッサさんの方は、まだ全力ではないでしょう。スレイドの攻撃を、推し量っているところだと思います』
『なんと! それでは、スレイド選手が圧倒的不利かあ!?』
確かに、力を全力で入れている俺と違って、ゴガッサさんは余裕そうだ。
「ふん! それで全力か? なら、こちらから……いこうか!」
「ぐっ!?」
ゴガッサさんの剣に、一気に力が入る。
「ぬわっ!」
『ああ! スレイド選手の体が、大きく吹き飛んだ!』
俺の体は、その衝撃で宙を舞った。なんという馬鹿力だろうか。
『ゴガッサさんの異名は、剛力……その力は、あの年でも衰えることなく、健在です。スレイドにとって、あれは脅威となるでしょう』
『ああ!? スレイド選手が地面に叩きつけられます』
さらに、俺の体は地面に落ち、そのまま仰向けで倒れてしまう。
「ワン!」
そこで、審判の声が聞こえる。そうだ、これはテンカウントルール。倒れたままじゃあ、いられない。
『おお! スレイド選手、ワンカウント目ですぐに立ち上がった! まだまだ、勝負はこれからのようだ!』
「お、まだ寝ていてもよかったんだぞ?」
「そうも言っていられないんですよ……!」
ゴガッサさんは、余裕そうにそう言ってきた。だが、俺の戦士としてのプライドが寝ていることを許さない。
「まだまだこれからですからね……」
「どんどん来るといい。いくらでも、返り討ちにしてあげよう」
とはいえ、ゴガッサさんを力で押すのは、中々難しいだろう。ならば、スピード勝負といこうか。
『スレイド選手、今度も正面から向かっていた!? それでは、結果は変わらないぞ!?』『いや、何か考えがあるようです』
俺は、ゴガッサさんとの距離を一気に詰めた。まずは、一刀目。
「うおおっ!」
「ふん!」
『やはり、受け止められた! このままではさっきの再現だ!』
『いえ、違います。これは……』
刃同士が、重なる音と同時に、俺は刀を引く。そして、別方向から、斬撃を入れる。
「おおっ!」
「ぐっ!」
「まだ、まだ!」
二刀目も受け止められたが、俺はすぐに三刀目を放つ。これが、俺の連続攻撃。相手に返させる隙を、与えるつもりはない。
『スレイド選手、猛攻撃だ!? 二発、三発、四発、五発! どんどんと攻撃を重ねていく!』
『スレイドは、力勝負をせず、手数で攻めることを選択したようですね。これは、悪くない手です』
俺は、何度も攻撃を重ねて、ゴガッサさんの隙を探る。何回も攻撃していく内に、ゴガッサさんの防御が数秒遅れていくのがわかってきた。これは、チャンスだろう。
「今だ!」
「ぬうっ!」
『ああっと! ゴガッサ選手、大きく後退した!』
『これは、戦略的撤退ですね。どうやら、ずっと大きな一撃がくるのを待っていたようです』
俺がタイミング見て、下方向から一撃を入れようとしていたが、ゴガッサさんは大きく後退していた。俺の攻撃が空を斬り、大きな隙が生まれてしまう。
『ああ! スレイド選手、空を斬ってしまった!』
『勝負を焦ってしまった結果ですね。これは、大きな隙となります』
「もらったぞ!」
そこに、ゴガッサさんの攻撃が振りかかる。なるほど、確かに少し焦ってしまった。だが、隙がどうしたというのか。
「何!?」
『なっ!? スレイド選手が倒れ、ゴガッサさんの剣が虚空を斬った!? 何が起こったんだ!?』
『スレイドが、一瞬の内に倒れたんです。この場合は、カウントにはなりませんが、ゴガッサさんの攻撃が外れてしまいましたね』
俺は体を倒し、その攻撃を躱した。ここが、俺の逃げられる唯一のもの。だが、逃げられればそれでいいのだ。
「おらあっ!」
「ぐうっ!?」
さらに、俺は地面を手で押し、足でゴガッサさんを蹴り上げた。
『おおっと!? スレイド選手!? あの体勢から蹴りを放った!?』
『なるほど、剣士があれを放つとは考えにくい。ゴガッサさんも隙をつかれてしまいましたね』
俺の一撃は、ゴガッサさんの顎に当たり、その体が飛び上がる。その内に、俺はそのまま宙で回転し、体勢を立て直す。
『スレイド選手、なんという身体能力だ!?』
『ですが、あれなら、一気に相手と向き合えます』
俺が構え直す頃には、ゴガッサさんも立ち直っていた。流石に、あの一撃くらいでは倒れてくれないか。
「強烈な一撃だったぞ……見事だ」
「それは、どうも……」
互いに向き合い、構える。ここから、また戦いが始まるのだ。
『おおっ!? お互いに向き合ったぞ!?』
『先程までの戦いで、ファーストコンタクトは終えました。ここから、第二戦といったところでしょうか……』
俺の体も、かなり昂ってきている。ゴガッサさんの実力もわかってきたし、これは面白くなりそうだ。俺が、そう思っていた時、ゴガッサさんが、ゆっくりと口を開き始めた。
「スレイド……お前に、知らせなければならないことがある……」
「うん? 一体なんですか?」
「正直に言おう。お前の実力は、先程の攻防でわかった。つまり……」
「つまり?」
「合格だ」
「えっ……?」
そこで出たのは、衝撃の一言である。
合格というのは、どういうことだろうか。
『あーあっと! ここで合格宣言だ! これでこの試合の終わりが宣言された!』
『まあ、今の一撃がヒットした状態なら、その判断も正当だと言えますね』
実況と解説も終わりの雰囲気が出ている。なんだか、拍子抜けだ。俺はもう少し、戦ってみたかったのだが、これも仕方ないことだろう。
「だが……この戦い、俺はもう少し、続けたいと思う」
「なっ……!」
だが、そこでゴガッサさんは、衝撃の発言をしてきた。続けたいというのは、どういうことだろうか。
「この戦い、お前は合格だが、続行しよう。俺とお前の決着が着くまでな……」
「なるほど、おもしろい……ですね」
『おおっと! ここで、ゴガッサ選手から意外な提案だー!』
『なっ……! 一体、何を言っているんだ!?』
こうして、ゴガッサさんの意外な提案で、俺の戦いは続くことになったのだった。
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