第6話 騎士団入団試験

 窓にかかるカーテンの隙間から、日の光が差し込んできた。どうやら、朝らしい。


「ふー」


 昨日は、よく眠れた。体的にも、いい調子だ。さて、朝の準備を始めるか。


 俺がそう思い、身支度をしていると、部屋の戸が叩かれた。


「スレイド、起きているかい?」

「ああ、今開けるから、ちょっと待ってくれ!」


 この声は、ファラエスだ。俺の様子を見に来てくれたらしい。


 俺が戸を開けると、そこにはしっかりと身なりを整えたファラエスがいた。流石は、騎士団隊長だ。


「おはよう、スレイド。昨日はよく眠れたかな?」

「おはよう。お陰様で、ぐっすりだったよ」

「それなら、よかった。準備ができているなら、食事にしようか」

「ああ、わかった」


 こうして、俺とファラエスは食事に向かった。




◇◇◇




「さて、食事も終えたところで、今日のことを話しておこうか」


 食事を終えた後、ファラエスがそう俺に話しかけてくる。ちなみに、クレッタの作った食事は、今日もとても美味しかった。


「今日のことか……確かに、それは聞いておきたいな」


 今日、俺は騎士の入団試験を受けることになる。騎士団の拠点に行くことになるが、何も知らないままではまずいだろう。

 そのため、大まかな流れを、ファラエスから聞くことにした。


「よろしく頼む」

「ああ。もちろんだ」


 ファラエスが笑いながら、説明を始める。ここは、しっかりと聞かなければならないな。


「今回は、私のスカウトという形になるんだ」

「スカウト? そうなのか?」

「ああ、推薦状を昨日書いておいた」


 そうだったのか。それは、なんというか嬉しいな。


「まず、騎士団への入団試験なんだが、これは実技試験で行われるだろう」

「やっぱり、そうだったのか。それなら、少しは安心できるな」

「ああ、だから私はあまり心配していないんだ」


 実技試験なら、問題ないと思いたい。俺の実力が、こちらの世界でどの程度かはわからないが、ファラエスの言うことは信用できるはずだ。


「しかも、試験官に勝つ必要もないんだ。実力を示せばいいだけだからね」

「実力を示すか……」


 どうやら、勝たなくてもいいらしい。まあ、相手の実力もわからないから、それも安心できる要素の一つか。


「まあ、こんなかな」

「ああ、ありがとう。大体、理解できたぜ」

「それじゃあ、拠点に向かおうか」


 こうして、俺とファラエスは、騎士団の拠点に向かうのだった。




◇◇◇




 俺はファラエスとともに、騎士団の拠点に来ていた。今は、ファラエスに連れられて廊下を歩いている。


「どこに向かっているんだ?」

「試験官の元さ」


 俺が聞くと、ファラエスはそう答えてくれた。試験官、つまりは俺と戦う者ということだ。どんな人なのだろうか。


「さて、ここだね」


 そう言って、ファラエスは、ある部屋の前で立ち止まった。どうやら、ここに試験官なる人物がいるようだ。ファラエスは、ドアを叩いて、中の人物に呼びかけた。


「ゴガッサさん、ファラエスです」

「はい、お入りください」


 ゴガッサという人物が、応えたため、ファラエスは戸を開けて中に入る。俺も、それに続き、中の人物が目に入った。これが、ゴガッサのようだ。

 ゴガッサという人物は、初老の男性だった。体は大きく、屈強な体格で、その顔には切り傷の跡が見える。


「ほう? これが、隊長の推薦する男ですか」

「ええ、スレイドといいます。スレイド、こちらは試験官のゴガッサさんだ」


 そう言って、ファラエスは俺に目で、挨拶するように促した。どうすればいいか、あまりわからないが、とりあえず、話しかけてみよう。


「俺は、スレイドだ。よろしく頼む」

「む? 礼儀がなっておらんな……目上の人物には、きちんとした言葉で接するべきであるぞ」

「あーあ」


 ゴガッサは、少し怒るようにそう言ってきた。そういえば、目上の人物には、それなりの言葉を使わなければならないのか。そういえば、師匠にも、そう言われた覚えがある。


 山奥で育った俺は、正直、一般的な常識に乏しいことは、ある程度自覚していた。そのため、相手が不快に思うのも仕方ないだろう。そういう話し方は、師匠に聞かされたことがあるので、すぐに改めることにしよう。


「ゴガッサ……さん、よろしくお願いします」

「ほう、やればできるようだな」


 そう言って、ゴガッサさんは笑顔を見せた。さっきまで怒っていたのに、どうしたのだろうか。


「いや、お前に悪気がないのは、わかっていたさ。だが、騎士団に入る以上、そういうことはきちんとしなければならんだろう」

「確かに……そうですね」

「だから、学ばせようと思ったのだが、できるのなら、それでいい。今度からは、そうするのだぞ」

「……ええと、はい」


 なるほど、試験官というだけあって、きちんとした人物らしい。まあ、確かに、これからは気をつけた方がいいかもな。


「ふむ、それなら、早速試験の説明をするとしようか」

「はい、よろしくお願いします」


 ゴガッサさんは、そこで話を切り替えて、試験の説明に入った。


「試験は、試合形式で行いたいと思っている」

「試合形式? なんですか? それは?」

「ルールは、簡単。相手を倒すことで勝利する。その基準は、テンカウントだ。相手が膝をついたり、倒れたり、戦闘が続行できない状態になったら、そこで審判がカウントをする。それで、十数えられたら敗北といった感じだ」

「なるほど……」


 どうやら、試験は試合形式で行うようだ。まあ、わかりやすいルールなので、特に問題はないだろう。


「無論、ギブアップすることもできる。後、試験の途中で、俺が合格を宣言しても、終了する。そんなところだな」

「わかりました」


 とにかく、戦えばいいということだ。それなら、俺の得意分野であるといえる。


「さて、それでは、早速闘技場に向かうとしようか」


 そう言って、ゴガッサは部屋を出ていく。俺が、それについて行こうとすると、ファラエスが話しかけてきた。


「スレイド、君ならきっと大丈夫だと思うが、頑張れと言っておこう」

「あ……」


 そこで、一つ思ったことがある。よく考えれば、ファラエスは隊長で、俺より目上の人物にあたるのではないだろうか。それなら、俺の今までの接し方は、間違いだったといえる。これは、正さなければならないだろう。


「はい、頑張ります」

「……スレイド、君にそんな喋り方をしなくていいよ」

「え?」

「なんだか、変な感じがするから、やめてくれないか?」


 俺が、丁寧な喋りに変えると、ファラエスは露骨に嫌そうな顔をした。そんなに変だったのだろうか。


「わかった。これでいいか?」

「ああ、その方が君らしいよ。では、行こうか」


 こうして、俺とファラエスも、ゴガッサさんに続くのだった。




◇◇◇




 俺とファラエス、ゴガッサさんの三人は、闘技場という場所に来ていた。ここは、試合などを行う場所らしい。


「ここが試験を行う場所だ」

「なるほど……いい場所ですね」

「そう思うか。わかっているじゃないか」


 ゴガッサさんは、闘技場に着くなり、そんなことを言ってきた。

 闘技場は、いい場所である。直感的に、俺はそう感じていた。ここにいると、何故だか気が昂るのだ。


「ここで、様々な騎士達の戦いが行われてきた。それが、ここの歴史なのだ。それを感じ取れるのは、立派な戦士であることの証明だ」

「道理で、気が昂るんですね……」

「そうさ……では、準備するんだ。俺は向こう側にいるから、合図があったら、出てこい」


 それだけ言って、ゴガッサさんは反対側へと駆けて行った。俺が疑問に感じていると、ファラエスが話しかけてくる。


「合図で、そこの入り口から出てくるのさ。だから、それがあるまで中で待機しておこう」

「そういうことなのか」


 そういう訳で、俺は、入り口の方に戻った。とりあえず、体を温めておくか。


「スレイド、この試験は、魔法によって記録されることになる。魔法はわかるかい?」

「ああ、知っているが……」


 魔法とは、なんというか、不思議な力だ。火を出したり、水を出したり、色々できるものである。


「記録とは、どうしてそんなことを?」

「大事な騎士の試合だからね。今後の参考になるし、記録する決まりなんだ」

「へえ……」


 まあ、後から見返してわかることもあるだろう。それに別に異論はないな。


「さらに、複数の騎士に見られることになるだろう。基本的に、試合や試験は、見られるようになっているからね」

「そうか、確かに観客席みたいなのもあったな……まあ、それも、別にいいな。見られて減るものでもないし」


 それも、問題にはならないだろう。人の目を気にして、全力が出せないなどあるはずもない。


「後は……まあ、闘技場に出ればわかるだろう」

「うん? まあ、なんでもいいさ」


 そんな話をしながら、俺は素振りをする。いつ試験が始まるかわからないが、頑張るとしよう。


「スレイド、私はもう行くよ。ちゃんと見ているから、頑張ってくれ」

「ああ、もちろんだ」


 そう言って、ファラエスも去っていた。恐らく、観客席に向かうのだろう。

 俺は素振りを続け、合図がくるのを待つのだった。

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