第3話 異世界の世界事情

 俺は、ファラエス達とともにサールティンへと向かっていた。


「サールティンは、いい町だから、きっと君も気に入ると思うよ」

「そうなのか、楽しみだな」


 町に行く道中、ファラエスがそう言って、俺に話しかけてきた。


「サールティンは、この国で最も大きな町でね……おっと、君は国も覚えていないのかな?」

「まあ、そうなんだが……」


 ファラエスが色々と説明してくれるのは嬉しいが、記憶喪失という嘘をついているため、申し訳なかった。

 ファラエスになら、本当のことを話してもいいかもしれない。だが、今は周りに騎士団員がいる。頃合いを見て、二人きりの時に話すことにしよう。


「世界は、まあ主に、七つの大きな国にわかれている」

「七つ……」

「まあ、小さな国もない訳ではないね。だが、七大国家さえ覚えておけば問題ないよ。それで、この国の名前は、アルストスといってね。世界でいえば、三番目くらいに発展している国さ」

「へえ……」


 なんとなくだが、この世界の国家事情が理解できてきた。こういうのは覚えておかなければ、この世界で生きにくいだろうから、しっかり聞いておかなければな。


「私達、聖道騎士団でいえば、四番隊と五番隊が守っているね」

「四番隊とかってのは、なんの区分なんだ?」

「ああ、それは大まかに言えば、どこを守っているか、みたいなことかな。色々違いはあるんだけど、そのくらいの解釈でいいと思うよ」


 なるほど、何番隊とかいうのは、どこを守っているかか。だが、そうなると、新たな疑問が湧いてくる。


「騎士団ってのは、そんな各国に渡るものなのか?」

「ああ、騎士団は各国の連合といってもいいものさ。世界を蝕む、魔物達と戦うために、国家が共同で作り上げたものなんだ」


 国家連合ってことか、かなり規模が大きいようだな。そんな大規模な団体に誘ってもらえるのは、運がよかったといえるだろう。


「魔物っていうのは、わかるかな? 人を襲ったり、作物を荒らしたりする獣のような奴らなんだけど」

「ああ、それなら、なんとなく」


 俺の世界にも、そういう存在はいた。それは、こちらの世界でも変わらないようだ。


「ふむ。奴らは、どこからともなく現れて、この地を荒らす。一体その根源とはなんなのか……それさえ掴めれば、こんな戦いも終わらせられるのにね……」


 ファラエスがそう言って、悲しそうな顔になる。彼女にも思うところがあるようだ。


「まあ、そう悩むことはないさ。目の前に魔物がいたら倒す。それが今できる最善なんだろ? だったら、そうすればいい」

 

 しかし、なんだか、このままでは暗い雰囲気になりそうなので、ここは一つ、励ましの言葉でもかけることにした。俺は難しいことはわらないし、害があるなら倒せばいいだけだと思ってしまう。


「……そうだね。すまない、弱気になってしまったようだ」

「……別にいいさ」


 俺の言葉で、ファラエスの顔は少しだけ明るくなったように感じた。今ので、励ませたならいいのだが。


「さて、話している内に、そろそろサールティンが見えてきたようだ。前を見てごらん」

「おっ! あれが例の町か」


 そんな風に色々話している内に、町の近くまで来ていたようだ。数歩先に、サールティンが見えている。


「町に着いたら、私達の拠点に向かう。構わないかな?」

「ああ、もちろんだ」


 そう言っている内に、入り口である門の前までたどり着いていた。門番が立っているが、よく考えたら、俺は普通に通れるのだろうか。

 疑問に思った俺は、隣のファラエスに聞いてみることにした。


「門番とか、俺は、大丈夫なのか?」 

「うん? ああ、普通にしていていいよ」


 ファラエスは軽い調子でそう言ってくれた。ならば、普通にすることにしよう。少し不安だが、騎士団の隊長が言うのだから、大丈夫なはずだ。


「お疲れ様です!」


 俺は身構えていたが、門番は騎士達に対して、頭を下げてそう言うだけである。俺のことも目に入っているはずだが、あまり気にしていなようだ。


「私達と一緒だから、問題ないのさ」

「そ、そうなのか……」


 ファラエスが、そう教えてくれた。考えてみると、騎士団と一緒じゃなければ、大変だっただろう。これは、お礼を言っておかなければならないな。


「……色々ありがとうな。あんたと会えて、本当によかった」

「急にどうしたんだい?」


 お礼を言ってみたが、ファラエスは怪訝な表情をされてしまった。どうやら、タイミングを間違えたようだ。


 まあ、何はともあれ、無事にサールティンに入ることはできた。とりあえず、周囲を見渡してみるか。


「なるほど、大きな町だな……」

「そうだろう。いい町なんだ、ここは」


 町はかなりの広さであり、あちこちで店が開かれ、たくさんの人が歩いている。

 町の人々は騎士団を認識すると、歓声や拍手で迎えていた。


「人気なんだな……」

「まあ、騎士団といったら、ヒーローみたいなものだからね」


 ファラエスはそう言いながら、手を振って町の人々に応えていた。まあ、町を守っているのだから、人気があるのも当然か。特に、ファラエスやソーナなんかは華もあるしな。


「このまま、拠点に行くからもう少し歩いてくれるかな?」

「ああ、わかった」


 俺は、さらにそこから歩いて、騎士団の拠点まで向かうことになった。という訳で、俺とファラエスは再び雑談に戻る。


「そういえば、ファラエス達は何しに町から出ていたんだ?」


 そこで俺は、ふと思いついた疑問をファラエスに聞いてみることにした。


「ああ、魔物の討伐に行っていたんだ」

「そうだったのか……」

「まあ、特に負傷者も出ることなく終わったけどね」

「うん? 待てよ……」


 その話を聞いて、俺はあることに気づいた。


「ということは、俺との手合わせの時には、一戦交えた後だったのか……?」

「あ、いや、私は指揮を中心としていたから、そこまで疲れていなかったよ?」

「いや、いいんだ……」


 どうやら、俺は一戦後のファラエスに瞬殺されたらしい。自分よりファラエスが強いことはわかっているが、それを聞くとなんだか悲しくなるな。


「あ! ここが騎士団の拠点地だよ」

「うん? おお、大きな建物だな……」


 そんなことを話しながら歩いている内に、俺達は騎士団の拠点地まで辿り着いていた。


「ああ、とりあえず中に入ろうか」


 ファラエスからそう言われ、俺は騎士団とともに、建物の中に足を進める。


「おお……」


 建物の中もかなり広く、あちこちに騎士らしき人が歩いていた。俺が周囲を見渡していると、ファラエスが話しかけてきた。


「さて、スレイド。とりあえず、隊長室に来てもらおうかな」

「隊長室?」

「ああ、まあ、私の仕事部屋みたいなものかな。少し待っていてくれ、皆に言っておかなければならないことがあるんだ」

「ああ、わかった」


 そう言ったファラエスは、四番隊隊員達の前に立った。ここまで気にしていなかったが、俺のことで隊員達は暗い雰囲気だった。


「さて、皆、とりあえずお疲れ様。今日の任務は上出来だったよ。これからもこの調子でいこう」


 しかし、ファラエスの言葉で、隊員達は笑顔を見せ始めた。


「ただし、スレイドの実力を見抜けず笑ったりと、まだまだ甘い部分がある。これからも鍛錬を怠らないように」


 だが、次の言葉で再び暗くなった。わかりやすい奴らだな。


「何はともあれ、今日はよくやってくれた。各自ゆっくりと休んでくれ」


 それを最後に、ファラエスはこちらに来た。流石隊長だけあって、はきはきとしている。


「待たせたね。行こうか」

「あ、ああ」


 ファラエスに連いていくと、ほどなくして、隊長室に着いた。


「さあ、入ってくれ」

「失礼する……」

「さあ、座ってくれ」


 ファラエスは、俺を招き入れると、椅子に座るように促してくる。断る理由もないので座ってみると、ものすごくいい椅子だった。流石は隊長室だけあるな。

 ファラエスは、お茶を出してくれた後、反対側の椅子に座った。


「まあ、お茶でも飲みながら、話そうか」

「話す? 試験のことか?」

「いや、違う……君のことだよ」


 そう言いながら、ファラエスは微笑んだ。俺のこととは、なんなのだろう。

 俺がそう考えていると、ファラエスが言葉を続けてくれた。


「君は、記憶喪失ではないのだろう?」

「えっ……?」

「流石に、少し奇妙だったからね。良ければ、本当のことを話して欲しいんだ」

「え? ああ、そういうことか」


 なるほど、それを見抜かれていたのか。だが、その提案は、俺からしようと思っていたことだ。これ程、丁度いい機会はないだろう。


「見抜いていたのか……」

「もちろん、というか、とてもわかりやすかったよ?」


 まあ、そうかもしれん。俺は演技なんて苦手だからな。


「それでも、君を騎士団に入れたいと思ったんだ。君の強さは、魅力的だったからね。だけど、流石に本当のことを知っておかなければならない。それは、私の責任だからね」

「なるほど……わかった。元々話すつもりだったし、俺の話を聞いてくれ」

「ああ、もちろんさ」


 こうして俺は、ファラエスに事情を話すことになったのだった。

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