狂人の種蒔き

東屋猫人(元:附木)

狂人の種蒔き


カタカタ、カタカタ。キーボードの音だけが響く、僕だけの世界。いつだって少し薄ぐらい、僕の小部屋。


「にぁお」


そうだ、君もいたな。正しくは僕とこの茶トラの猫と文字の世界。これですべてだ。

僕はウェブライターと小説家を兼業している。おかげで一日のほとんどをこの黒いノートパソコンと共に過ごすようになった。それというのも数年前・・・・・・いや、やめておこう。ただの苦い過去話なんて、せっかく心地好いこの気分に水を差すだけだ。


朝、日の光に目を覚まして風呂に入る。

茶トラに餌をやり、自分も飯を食う。そうしたらたっぷりのアイスコーヒーを入れて、仕事開始だ。まずはウェブライターの仕事をする。次に、自分の小説を。

昼飯を食べて、茶トラと遊んだらまたウェブライターの仕事を。それが終われば、再び小説だ。

そして後は茶トラに飯をやり、夕飯を食って、本を読んで一日が仕舞いだ。だいたい、本を読みながら寝潰れる。


僕は文章というものが好きだ。愛しているといっても良い。生涯を文字に捧げる覚悟もできている。


「君は、この本をただの紙だと思ってかじるし爪を研ぐけど、これは人の魂なんだよ。」


僕はいつもこの茶トラにそういっている。相性の悪いことに、この茶トラは爪研ぎに本を使うのを好んでいるらしいのだ、全くけしからん。

あぁ、話が逸れたね。それで、あぁそうだ。僕が文章を愛している、その訳を話そうとしたんだった。もう少しの間お付き合い願おう。


そもそも、君は文章を何と心得る?ただの文字の羅列、欲望の発露。様々な欲望のこねてこねてこね回したもの。

・・・・・・うん、そういうものもあるであろうことは否定しない。だが、僕の文章に対するそれはちょっと、いや、ここはあえて大仰に言わせてもらおう、全っ然違うと。


まさか、僕がその程度でこんな日がな一日中パソコンに向かってられると思っているのかい? 見当外れもいいとこだ。


そう、それで僕はさ、文章を魂の一辺と思っているんだだってそうだろう⁉ その人間の経験に思想に感情に本能に全て繋がりをもつその人個人の、その人でしか書き得ない文章というものがあるんだこれは素晴らしいとは思わないかい、唯一無二の世界にたった一つの詩であり文章であり小説であり、これは僕たち個人の遺伝子と同じだ、その人個人の生きた証左だ! こんな素晴らしいものが他に何があるというのか!


・・・・・・っと、ごほん。我ながら少々ヒートアップしすぎてしまったようで、お恥ずかしい。まぁ、でも今のが僕の文章に対する愛であり姿勢なんだよ。理解していただけたかな。


そう、とどのつまり僕は世界を畑にして種まきをしているのさ。僕の種を世界中に撒く。そして読んだ人間に僕という存在を取り込ませ新しいその一個人を生むのさ。

こう言うと、少しセクシャリティだったかな。まぁ、最後まで聞いてくれてありがとう。

きっとこの会話を通じて何か心に残るものがあったなら、僕は嬉しいよ。僕は君という存在に価値を見出だして話をした。種を撒いた。それがどう芽を出してどんな果実を実らせるのか楽しみでならないよ。


僕は僕でこれからも生きた証を作りつづけ、「我が子」を増やしていくつもりさ。なぁに、本になるかどうかなんてさして特別な意味はない。まぁマネーが発生するのはでかいけど、目的はそれじゃあないんだから。今は、ネットで読んだ「我が子」がそれを拡散してまた「我が子」が出来るのが楽しみでしかたがないのさ。僕は、僕の「我が子」たちは、世界中に種を撒きつづけるさ。・・・・・・あぁ、そう引かないでおくれ。悪かった、もう終わりにするよ。


それではご静聴ありがとう。またどこかで会えますようこの茶トラと一緒に待ってるよ。

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