拡散する種 ~バーサーカー~

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

 真夜中、1㎝先も見えない密林の中、銃撃音が響き渡る。

 赤外線スコープ越しに見える景色は昼の様に明るい。

 飛び回る虫も地面の小石も何もかもが見える。

 見えてしまった。

 我々8人が弾丸を撃ち込んだ場所、土煙に覆われた『ソレ』も見えてしまった。

 「○○!○○○○!○○○○○○○‼」

 メッシーが何かを言っているが、銃撃音に掻き消されて聞こえない。

 しかし、何を言いたいかは解る。

 理由は簡単、俺も、ジミーも、カリルもベンもアリダンもゲリーもミミオッサも同じ事を考えているからだ。

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ………………………………………

 弾が尽き、銃撃音が止む。

 「隊長!ダメです!銃が効きません‼」

 死線を潜り抜けて来たメッシーの泣き出しそうな叫びがやっと聞こえた。

 当然だ。


 「危ないのぉ、晩飯に中ったらどうするんじゃぃ?」

 弾丸を撃ち込んだ場所から男が出て来た。

 別に弾丸を撃った場所から何かが現れても驚きゃしない。

 ただそれは、『核シェルターやら戦車の中に閉じ籠っていたなら』という前提が有ればの話だ。

 細い木の棒二本と食べ物の入ったスープボールの様な深皿が両手に有るだけの老人が木の棒で弾丸を器用に摘まんでいたら驚く!

 一体、どんなカラクリだ?

 「お前らかのぉ?この辺で悪さしとる不良とやらかは?」

 シュルシュルと木の棒を回しながらそう言った。

 「軍から抜けて、山賊紛いとはのぉ。村人が怯えとったわぃ。

 灸据えるぜ。」

 男がゆっくりと歩いて来る。

 この暗闇の中、舗装もされていない足場の悪い中、手に持ったモノを微動だにさせずに歩き、その上で俺達を捕捉している。

 「殺せェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 懐の拳銃を引き抜いて撃つ!

 パン パン パン!

 パシッ パシッ パシッ

 木の棒二本で摘ままれた。

 「かの武蔵は箸でハエを掴んだらしいが……今の時世、弾丸位摘まめんとのぉ。」

 目の前に迫るハシのロージン!











 「アイエァ‼」「ハーシ!コワイハシ!」「ハーシコワイ!アクマ!」「カナボー、ハーシカナボー!」「モーシマセン!ユルシテ!」「カンニンカンニンシテ!」「オジヒヲ、オダイカンサマオジヒヲ!」「ジューガキカナイ!!!!!」


 ある日、森に投げ出されてボロボロになった8人の山賊が言い始めたハーシの悪魔。

 銃弾の効かない、悪い者を懲らしめるその悪魔はその地域では今も崇められている。

 その地域では今でも、悪魔が使うとされる木の棒二つを魔除けとして使っている。


 はい、コレが私こと八坂八華の祖父です。

 じーじ、自重しろよ!


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


 「ファイッ!さぁ始まりました。武器の使用以外何でもありの『フルファイトトーナメント』。

 柔道もムエタイも空手も合気道もカポエラも関係無し!

 ただ、相手より強い者こそ勝者!そんな問答無用な戦いが始まったぁァぁぁァ!」

 うわぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!

 「今年もこの日がやって来たぁ!」

 観客の歓声の中、ゴングが鳴り、闘いが始まった。

 「赤コーナーは拳の切裂魔、マンティーズ=カーマ!

 今まで沈めた相手は血で染まっていた!その拳は正にマンティス螳螂!」

 「拳を相手の皮膚ギリギリを掠めて切り裂く超高等テクニックの持ち主。

 『血が見たいから』と笑う男はここでしか殴り得ない!」

 俺ことマンティーズ=カーマは笑っていた。

 他人を傷付けたい、血を見たい、そんな欲望からここに来た俺にとって、相手は10年間待ち続けた恋人の様に愛おしい存在だ。

 笑わずして如何する?

 相手は東洋人。虎のマスクをした男だった。

 俺の知る限り、あんな奴は見たことが無い。だが、体を見た所、中々鍛えている。つまり……

 「裂き甲斐が有るってもんだ。」

 ペロリ

 舌なめずりをした。

 「対する青コーナーの選手は……トラのマスク?」

 「名前はブシドー=タイガー…で登録されていますが…表でも裏でも見たことが有りませんね。」

 実況も解説も知らない…まぁ良い。

 「切り裂く!シャー!」

 飛び掛かり、拳を交差させるように殴りつける!

 「出た!マンティーズ選手の必殺、1/16秒で繰り出される最速の刃、蟷螂之斧マンティス=アックス‼」

 観客がそれに歓声を上げる。

 出たーッ!「相手の首筋に向けて拳を交差する様に掠める技。

 普通の選手であれば掠り傷で済みますが、マンティーズ選手に限っては首ごと落とされる可能性も有ります!」

 最速にして最凶の切れ味。

 頸動脈を一発で切り裂く!

 さぁ、華を咲かせろ!




 「んー…………これで終わりか?連続攻撃的なモノじゃ無いのか?」

 「オーッとコレは?」

 「無傷です!あのマンティーズ選手の攻撃を受けたブシドータイガー!なんと無傷!」 

 お前達が言わなくても解ってる!

 なんだ?何をした?

 確実に頸動脈を狙った、避けもしていない、掠めた時のアレは間違いなく人間の皮膚の感触。

 何より、この場所に防弾・防刃機能の有るものは持ち込めない。

 体内に何かを仕込んだテロリストだってここには刃物一つ持ち込めない。

 「螳螂野郎ならアイツよりもまぁまぁ強いかと思ったんだが、。」

 虎野郎はそう言った。

 そう言った気がした。

 寝惚けてんだろ?

 俺を相手に

 「おっとこれは、挑発!切裂魔相手に命知らずな挑発だーっ!」

 「いや、でもさっきのアレを見る限り、何か勝ち目が有るのでは?」

 ふざけるな!奴には勝たせん!

 「裂き殺す!」

 アドレナリンが分泌されるのが解る。

 踏み込み、

 「蟷螂之斧マンティス=アックス蟷螂之斧マンティス=アックス蟷螂之斧マンティス=アックス蟷螂之斧マンティス=アックス蟷螂之斧マンティス=アックス蟷螂之斧マンティス=アックス蟷螂之斧マンティス=アックス蟷螂之斧マンティス=アックス蟷螂之斧マンティス=アックス蟷螂之斧マンティス=アックス蟷螂之斧マンティス=アックス!!!!!!!」

 「おぉっとマンティーズ選手!怒涛の連続攻撃!目にも止まらぬ連続攻撃に手も足も出なぁぁい‼」

 「イヤ、待って下さい!あれは……………」


 「む!き!ず!Da!」「どぁ!」

 目の前で無抵抗だった男が俺の腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。

 3mほど吹き飛び、相手の全身を見て………

 「何故……?」

 「鍛えてるからだ。その程度、このコ……ブシドーには通用せん!」

 マッスルポーズで威嚇する。

 俺の技を喰らって倒れないマスクマンが気に入ったのかギャラリーがそれに絶叫する。

 「………クソガ………」

 ドタマに来た。

 脳が脈打ち、全身が灼ける様にカッとなる。

 「面白れぇ、解ったよ。

 お前は切り裂くなんて事しねぇ、ぶっ殺す!」

 握っていた拳を広げ、手を1枚の刃の様にする。

 「本気で殺してやる。

 お前、本気でやらねぇと、死ぬぞ?」

 世界が灰色になる。

 ゾーンに入った。

 「本気………か。

 良いぞ、やってやる。」

 ニヤリと笑い………

 「⁉⁉⁉⁉‼‼‼‼‼?」

 次の瞬間、俺は混乱して一瞬虚を突かれた。

 どんな構えをして来るかを窺っていた俺の目の前に、あの男は背中を晒した!

 「これは………!」

 「ノーガード⁉イヤ、待て、あの構えは…………」

 解ったよ。

 お前は俺を舐めてる訳か。

 お前の攻撃なんぞなんてことないって事か⁉

 背中なんて幾らでも見せてやるって事か!

 「後悔して…………死ね!」

 両手を天高く掲げ、右足を強く踏み込み、

 

 「蟷螂の剃刀マンティス・レーザー‼」

 

 両手でヤツの背中を思い切り斬った!

 蟷螂の剃刀マンティス・レーザー

 蟷螂之斧マンティス=アックスよりも明確に人を斬る為に作った技。

 上段から振り下ろされる鋭い両手の手刀。

 相手は三枚におろされる。

 手刀の余波で辺りに風が吹き荒れた。





 風が止んだころ、信じられない光景が広がっていた。


 ハラリ

 薄い何かが地面に落ちる。

 「何という事でしょう………?」

 「あれは………………」

 「何故………………」

 「あ、イケネ、マスクが……」

 落ちたのは虎のマスク。

 ブシドーのマスクが3つに切り裂かれて地面に落ちていた。

 「思い出した!あの構え!」

 「あの顔…!まさかあの………」

 「やれやれ、面倒だ。

 マンティス。残念ながら勝たせて貰う。」

 絶望していた。

 俺の一撃は奴の背にモロに当った。

 筈なのに…背中は無傷。

 そんな事を考えている内に

 『メリー・キル・エルボー!』

 グ

 腹にトラックがぶつかった様な衝撃が走り………

 俺の       意識          途切れ          タ


 「なんと、マンティーズ選手が一撃でやられたぁァぁ!」

 「そして、ブシドーの正体がここで判明!

 東洋で『怪異殺しの肘』と呼ばれる魔人がこんな所に来ていたぁァぁ!

 そいつの名は。」

 「「虎武士出 殺造ヤルゾーダァァァッ!!!!!!!!!!!」」

 「「「「「「ギャァァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」」」」」」







 これが私の親戚。

 都市伝説のメリーさんをエルボーで沈め、相手に背中を向ける大胆不敵な構えで並み居る怪物アスリートを仕留めて来たMr.エルボウ。

 『虎武士出こぶしで 殺造やるぞう』だ。

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