第3話 生きててほしい……

「死ぬため?」


『そうだよ』


「バカなのか?」


『そう思う?』


「思う」


『私、死ねると思う?』


「……思わない」


『みんなそう言うよね。だから証明するんだ』


「意地張ってるだけじゃん」


『そんな低レベルじゃないもん』


「最低レベルだよ」


『逃げ出した君には言われたくない!』


「逃げたのはお前、僕は逃げてない」


『妹さんの死に顔を見たくなかっただけよね』


「違う!」


『違わないわよ』


「僕は妹の代わりに海を――」


『その行動に意味あるの?』


「……ないとは、言わせない」


『自己満足』


「……」


『低レベル』


「……お前もな」


『……』


「……」


『最初から理解されるとは思ってないし』


「初対面だしな」


『うん』


「少しずつ理解していくか」


『うん』


「あのさ、死ぬ必要あるのか?」


『それしか方法がないもん』


「死ぬ必要あるのは虐める方じゃないか?」


『それは――』


「放火すれば解決じゃん」


『嫌だ』


「本当は憎いんだろ?」


『違う。そうじゃないよ』


「何が違うんだよ」


『……元通りに……仲良くしたい』


「そうなのか……ごめん」


『あ。その言葉が欲しくて』


「ごめん?」


『うん……え?』


「いや、励まそうと思ってね」


『そんな風に肩を叩かれたの初めてかも』


「謝らない奴、結構いるよな」


『うん』


「僕の親なんて、僕が何か失敗したら目の色変えて怒るくせに、自分がミスっても笑うだけだし」


『ふふ。先生もそうだよね。プライドが高いからなのかな?』


「わかる! 黒板の誤字を指摘したら逆に叱られるやつ!」


「『もっと意味のある発言をしなさい』」


「『ふふふ』」


「……」


『……』


「あのさ」


『なに?』


「……相手が謝れば、死ぬのやめる?」


『……わかんない』


「死んだらさ」


『うん?』


「何も残らないよ」


『私のこと、本気だったって、勇気ある――』


「思わないね」


『なんでよ』


「バカな奴って思われておしまい」


『でも、後悔や反省はさせられるでしょ』


「そんなの一瞬だよ。すぐ忘れ去られる」


『なんでわかるのよ』


「生きていても忘れるのに、死んだらさ……家族でもね」


『……忘れちゃうんだ』


「思い出は、埋もれていくから」


『……』


「それに、お前は死なないよ。僕が守るから」


『それ、女の子が男の子に言うセリフ』


「バレたか」


『ふふふ。私は死ぬよ。決意は変わらない』


「どんだけ死にたいんだよ」


『他人がどう思うとかじゃないんだ。ここまで来たら、自分で自分の勇気を試したい』


「あ、そう。薬は無さそうだね」


『バカバカうるさい』


「僕はね、奇跡って起こせると思うんだ」


『唐突ね』


「うん、奇跡は思わぬ所で起きるから」


『狙って起こせるなら、もはや魔法だね』


「本気で信じれば何か起きるはず」


『君の努力や苦労は無駄にならないって?』


「神様なんて信じていないけどね」


『私もだよ』


「奇跡は生きてる人にしか起こせない」


『幽霊も信じないんだ』


「死んだら終わりだからね」


『何も残らない?』


「骨も、魂も、思い出も」


『どれだけ悲観的なのよ』


「死んだら全部終わる」


『私のことも忘れちゃうんだ』


「まぁ、初対面だし」


『そういうもの、かな』


「そういうもの、だね」


『ねぇ、妹さんは病院にいるんだよね』


「うん」


『もし元気になったら仲良くしたい?』


「したい」


『ふーん、好きなんだ』


「変な意味に取るなよ」


『ごめんごめん。方法はあると思うよ』


「え?」


『私の命をあげれば一石二鳥じゃん』


「はぁ……期待して損した」


『とりあえず、奇跡を信じて前進あるのみだね』


「ボロボロになっても辿り着くよ」


『そんな姿、妹さんが見たら気絶しちゃう』


「そしたらまた海を目指すさ」


『その時、私はいるのかな』


「わからない。でも、生きててほしい」


『生きててほしい、か。初めて言われた言葉』


「まぁ、それだけ世の中が平和ってことだろ」


『確かに、平和ね』


「毎日何人も死んでいくのにな」


『いらない人が消えて、新しい命に代わるの』


「そんな、皮膚の新陳代謝みたいに言うなよ」


『だってそうでしょ』


「いらない奴なんていないよ」


『は? 犯罪者も必要なの?』


「家族、友人、恋人……きっと誰かに必要とされてる」


『死刑制度反対派?』


「積極的に賛成する奴こそ危ないって」


『よく言うわ。放火を提案したくせに』


「それはほんの冗談だし」


『私を必要としてくれる王子様、現れないかなぁ』


「冗談だろ?」


『ちょっと本気』


「まぁ、海に行けば見つかるんじゃないか?」


『ふふ、そうならいいけどね』


「よし、行くか」


『うん、行こう』

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