休日:水都に来た日の話

「失礼ですが⋯⋯マシロさまにお聞きしたいことがありますので⋯⋯お時間を少々頂けますでしょうか?」


 今日の事態(まつり)で城が騒然となり、その隙をついたセっちゃんは「原因を究明してきます」と言って城を脱出(だっそう)していたらしい。

 それを迎えにきたメイド達がセッちゃんとの会話を終えるとマシロの元へと近づき、少し不安まじりに恐る恐る質問をした。


「ん〜、君達は〜どこかで会った様な⋯ないような? まぁいっか、聞きたいことってな〜に〜?」


 蜜のかかった果物を頬張っているマシロ。


「えっと⋯⋯あの日ーー私達のお城を取り返された時に起こった事は夢だったのでしょうか? それとも現実だったのでしょうか?」


「ん〜? ああ、にゃるほど⋯にゃるほど。あの時の犠牲者君かぁ〜。うんうん。特に異常はなくて何より。ウチとしては夢でも現実でもどっちでもいいし『どちらがいい?』と、聞き返してもいいんだけど。聞きたいなら教えてあげるよ。ただ、聞いて後悔はしないかい?」


 その言葉にビクッと反応をするが、静かにコクリと頷いて意思表示をする。


「ん? あの時ってもしかして城奪還の話か。なら、俺も興味があるな。街に忍び込み、やっと手がかりと合流できたと思ったら既に終わってしまっていたからな」


「しょうがにゃいのぅ。あの日、この水都に到着した時、森の中でレオ君が私の口を押さえ込んで、その太い指で私の口腔内を弄る時から物語は始まる⋯⋯」


「ちょっとまてぇぇ! マシロ⋯⋯お前は俺を殺したいのか」


 レオ君の首の周りーー小さな黒い槍がアクサセリーみたいに回っている。だれがやったかは明白(レイ)であり、そのレイは無表情のまま次の行動に移すためにマシロの言葉を待っている。


「⋯⋯⋯⋯いいアクセサリーだね」

 とりあえず、親指をたててグッとした。


「いや、本気(マジ)で冗談はやめような。これ、お前らには分からんかもしれんが、意識をしっかり保っていなければ一瞬で刈り取られるほど圧がやばいんだぞ? 死がすぐ隣にあるような⋯⋯ちなみにコレ⋯攻撃された場合どうなるんだ?」


「良い質問です。その黒い槍が首に刺さった瞬間に、全て血流の中へと溶け込み、そこから血液の温度を上昇し続けて、周りのお肉を半生のまま焼くことができます」

 レイは淡々と答える。

「そうですね。しいていうなら、その後に黒くなった血と生命果実(アンブロシア)を混ぜてソースを作れば『愚者(おろかもの)の黒血と生命果実(アンブロシア)ソース仕立て』が、完成いたします」


「は⋯⋯半生にそのソースは⋯⋯ヤバス、それ絶対に美味しいやつやん」

 マシロは『はわわ⋯⋯』と期待な眼差しと共に涎を垂らす。

「ありがたき御言葉。私としても至高の一品になると確信しております」

 マシロに一礼をする。


「いやいやいや、至高の一品とか冗談でもよそうな? しかも、いかにもありますみたいな名前もつけんな⋯⋯お前らがいうと洒落にならん。そもそも、あの時は興奮して大声を出そうとしたから口を塞いだだけで指なんていれてないぞ?」


「⋯⋯ふむり。まぁ、私が知らない箇所だったから、サービスで盛っただけの軽い冗談よ〜」


「そうですね。私としては冗談でもマシロ様がお喜びになるのなら現実にしても構わないと思いますが⋯⋯残念です」


 レイが指を鳴らすと回っていた黒い槍は霧となって飛散する。


「マシロさま、そんな中年より私の方がその料理にあってると思います! マシロさまが望むなら是非!」


 セっちゃんが、おかしな事を言っているが⋯⋯目は至って本気(マジ)なのである。


(この子⋯⋯命を捧げる事に抵抗ないのよね⋯⋯この城で巫女として『そう』育てられてきたのだからしょうがないかもしれないけど⋯⋯)


「姫様。先程『マシロ様の隣は〜』と言っていらしたのに食べられてもいいのですか? もう二度マシロ様に会えなくなりますよ?」


「そうですね。確かに喋ったりはできなくなりますが、それ以上にマシロ様と一体化するのです! これ以上の役目はありませんわ」


「⋯⋯そうですか⋯⋯。ですが、マシロ様の許可がない限り、私は手をかけるつもりはありません」


(っていうか、セっちゃんの右手がウチの細胞からできているわけで、本人は気付いてないだろうけど⋯すでに全身に浸食してるんだよね)


 食事などみたいに少しの細胞であれば再生を促したり悪性ウイルスを除去するだけで、あとは自然に吸収されるのだが⋯⋯食べた腕の代わりに⋯⋯自分の細胞を片腕分⋯⋯それだけの量は吸収よりも浸食の方が早く血流と一緒に全身へと流れていき、すでにセっちゃんの半分以上の箇所はマシロ細胞に変異している。


(まぁ、本人には自覚もないし、生命危機に陥ることがない限りはどうにもならないだろうけど⋯⋯)

 ん〜っと少し考えるが、やはりそうなると⋯この想像が外れる事はなさそうと確信する。

(セっちゃんを料理しても⋯⋯正直、自分で自分を食べてるとしか思えれないだよねぇ)


「マシロ様はどうですか?! 今の食べてみたいと仰られた料理に是非私を起用してみては!」


「ん〜やめておく〜」


「なぜですか?!」


「ん〜、蒼龍様の為に命を投げる覚悟が備わっているのがウチは嫌なんよね〜。それにセっちゃんは、この世界であった最初の人間(ともだち)じゃん? だから、もし何かで命を落としたのなら、その時は食べてあげる〜」


「マシロさま⋯⋯」

 ブワっと感涙するセっちゃん。


「さて、そろそろ話を続けてくれ。これ以上、この話が進むと本気で俺が料理されそうだ」


 セっちゃんと話している最中にも、レイやマシロにチラチラと見られる視線に気づいたレオが話を進める。


「ちぇっ。まぁいっか。そのまま地面に浸透して水脈に入り、城に向かったよ。そこで広い空間ーー蒼龍の住処とされていた地下空洞に出た時に面白いモノも発見したんだよね」


「面白いもの?」


「うん。ホレ」


 マシロがんべっとベロをだすと、その先っぽに真紅色の小さな球体があった。


「⋯⋯⋯⋯これは⋯⋯『叡智の塊』ですね」

 奇妙な違和感を感じたレイが、すぐに解析すると結果に驚く。


「なんだ? その叡智の塊って? 小さな赤い玉にしか見えんが」


「いわゆる人為的に作った『賢者の石』です。賢者の石は神が創ったとされるのが神話の話ですが、これはその賢者の石を模倣した物です。ですが⋯⋯だとすると、蒼龍がコレを?」


「確かな事はしらないけど、地下空洞の湖の底に徐々に溜まっていたものだよ。作っているかどうかは分からないけど、知らない訳ではなかったと思う」


「溜まっていたってことは、まだあるのか?」


「うん。なんとなく美味しそうだったから全部飲んだけど無臭無味だった⋯。まぁ、蒼龍が人為的に創っていたのなら、セっちゃんが何世代目の巫女と考えて、相当時間をかけて精製してたんだろうね〜」


「だとすると⋯⋯龍達は何かしら計画的な何かがあるのかもしれません。だとすると、蒼龍がいなくなったとされた水都が襲われたのも納得がいきます」


「ん〜興味はないにゃぁ〜。まぁ、ついでに赤玉(あめだま)出しちゃったし、面白いのみせてあげるん」


 地面にポトンと落とすと、即座に溶け出す。

 そのまま赤い魔法陣が描かれていき、その上に建物も人も森もまったく水都と同じ形が造られた。


「コレはあの日か?」


 時間は夜、小さな模型はまるであの夜を再現しているかの様に、人々は行動をしている。会話は聞こえないと思っていた一同だが、その会話を聞きたいと思えば自然と頭の中で再生されていた。


「これは想像以上にすごい⋯ですね。世界の記憶を読み取ってしまいますか⋯⋯」


「てか、なんでマシロが魔法をつかえるんだ?」


「ん〜これは魔法じゃないよ。なんか、こう、自然と思ってた事ができるというか? そんなかんじ」


「⋯⋯そうか」


「で、話は戻して、その後に地下空洞から城に水が汲み上げられていたから、それに乗っかっていくと、屋上の庭園に十数人の男達と裸で倒れ気絶している者、弄ばれる者、身体中にアザができて呼吸困難になっている女性が数人いたのよね」


 マシロがその模型を指でなぞると、城の内部が拡大され、その自分達の無残な姿をみたメイド達が顔を蒼ざめてビクッと反応する。


「そうだよ。コレが君達。まぁ、この時はこのまま全員を食べようと思ってたんだけど⋯⋯何やらいい匂いがしてたから、そっちを優先にしちゃったんだよね」


 城の屋上から、下階の調理場を現すと調理場はフル稼働で動いていた。


「そしたら、調理場で⋯⋯なんと! 豚の丸焼きが丁度出来上がってた所だったから、私を一雫ほど蓋を閉められる前に侵入さして『いただきます』した訳さ」


 そして、そのまま侵入されたのに気づかないメイド長がソレを自ら持ち上に運んでいく。


「うんうん。この時、調理されたお肉を食べるのが初めてだったから本当にめちゃくちゃ美味しかった。そして滴のまんまじゃ勿体なかったから、人型になってかぶりついたんだよねぇ。巨大な肉の海は泳いでいて楽しかったぜぃ」



 屋上ーー庭園の扉を開けると、むわっとした重い空気に倒れている女性、意識がないまま使われているのを横目に見ながら悔しく唇を噛み切る思いで男たちのいる場所まで運ぶ。


「ほんっとに、ここは楽園だな。この城の中にいるの全部初物だぜ? まだ、やる事があるらしいから、まだ数人程度しか食えてねぇが、雇主が戻ってきた時が楽しみだ」


 わざとメイド長に聞こえるように言うが、それを無視しているとお尻を掴まれる。


「そんな美人なのにアンタも処女か?」


「だったらなに?」


「そんなツンツンするなよ。周りのメイド達はお前しか料理ができないと言って庇ってくれたんだぜ? 本来ならお前がこの姿になってたのによ!」


「⋯⋯⋯⋯っぐ」

 自分の命がどうなろうと今すぐ殴りたいぐらいに嫌悪感が振り切っているが、姫様がもどるまでは⋯⋯と託された、この子達の想いを無駄にはできなかった。


「まぁまぁ、雇主が帰ればお前たちも楽しみにしてろよな!」


 パンと尻を叩く。


「⋯⋯⋯肉を所望されていたので、豚の姿焼きです」


 蓋を開けると、豚の焼けたいい匂いが香ってくるが、白いスープに肌色のまるっとした塊が鎮座していただけである。


「なんだこれ? これが豚の姿焼き? どう見ても焼けてねぇじゃねぇか?」


「どういうこと? 私は確かに⋯作ったはず⋯⋯」


 メイド長が焦りを見せる中、白い塊がもそりと起き上がると白いスープだとおもっていた髪がサラサラと流れる。


「んお?」


 口の中でモゴモゴとさせると、バレないようにそのまま飲み込んだが、一雫だったマシロは、ぶたを食べることにより豚の大きさまで成長していた。


「あなた! どうやってこの中に!」


 男が蓋が叩きつける。


「そんなこたぁ、どうでもいいんだよ! 俺らを舐めてんのか!」

「落ち着けよ。ちょうどいい玩具がきたと思えばいいだろ? おい、無くなったものは仕方ないから、もう一度、同じモノを作ってきてくれ」


 男はイヤな笑みをしながらすんなりと許した。


「新しいのができるまで、この子と遊んでいるからよ? 出来るだけ早く頼むわ」


「なっ! 待ってください。そんな小さな子まで⋯⋯」


 料理ができるまで、この子と遊ぶ意味に寒気が走る。


「小さな子とか関係ないだろ? お前さんができるだけ早く料理をもってくればいいだけのことだろ?」


「ま⋯⋯まって⋯⋯」


 私が身代わりに⋯⋯そう言おうとしたが、小さな女の子に言葉を遮られる。


「よし! なら、次に持ってくる料理はもう少し多めにお願いします!」


 目を輝かせながらそう言ったのを聞くと、男たちはゲラゲラと笑っていた。


「だ、そうだ? 出来るだけ多めに頼むわ」


 ニヤニヤとする男達に何も言わずに部屋を追い出される⋯⋯あの輝かせた目は、次に見るときは虚になっているだろうと思うと胸が締めつけられた。ただ、それと同時にあの子はどこの子なのかは、いくら考えても分からなかったのである。




「おいおいマシロ⋯⋯この場面で普通いわないだろ?」


「何言ってるのさ。これがあったからこの部屋にいたメイドは食べないようになったんだよ」


「そ⋯⋯そういうものなのか? 俺には繋がりが見えん」


「まぁ、見てれば分かるよ〜」




「さてっと」


 男達はマシロを見る。


 少女は一矢纏わない姿であり、透き通る肌に銀蒼色長い髪は将来性を感じさせ、幼女には関心がない男でも思わず生唾を飲み込んでいた。


「こいつ、ここで壊すのは勿体なくねぇか?」

「おれもそう思ったが、どちらにせよ雇主が帰ってくれば俺らの物にはなんねぇだろ?」

「まじか⋯⋯今のまんまでも金貨数百枚か千はいくかもしんねぇのに勿体ねぇ」

「まぁ、諦めろ。それよりも誰にも触れさしたことのないような無垢な少女と売る前に楽しめるんだ。究極の贅沢じゃねぇか」


「ねぇねぇ、おっちゃん達。面白い物みせてあげるから、倒れているメイドさんを中央に運んでほしいな」


「あ? 面白い物だって?」


「うん。たぶん満足するとおもうよ〜」


 疑問に思いつつも、余興としては楽しめるかもしれないと思い、女の元へ向かう。

 ただ、女の身体は男達のモノでベトベトに汚れてしまっているので、髪の毛を強く掴むとズルズルと乱暴に中央に運んでいった。


「ほら。で? なにを見せてくれるんだ? しょうもなければわかってるよな?」


「マ〜シ〜ロ〜水〜!」


 指先で天を指すと、プクリと水滴が膨らむ。


「なんだこれ? 水滴じゃねぇか?」


「ううん。これはマシロ水と言ってね。とにかく凄い一品なのよ」


 目の前で倒れているメイドにチョンとつけると、一度だけビクンっと跳ねる。


 すると打撲の後はみるみる内に消え、男が出した白い液体は身体に染み込んだものすらも絞り出しているかのように外に溢れていくグジュグジュと地面に溶けていき、メイドは元の綺麗な姿に戻っていた。


「すげぇ⋯なんだこれ? 魔法か?」


「魔法じゃないよ。マシロ水の効能です」

 えへんと言いながら、他のメイド達にも綺麗になっていく。


 その間に男達は綺麗になったメイドを調べている。


「なんだコレ⋯⋯元の未貫通のままになってやがる⋯⋯どうなってんだ? まるで時を巻き戻しているかのように⋯⋯だが、わかんねぇが最高だ!」


 我慢出来なくなり、再び挿入しようとするが、仲間に止められる。


「やめとけ。楽しむにしては違和感だらけだろ。このまま入れたら魂をごともっていかれるかもしれんぞ」


「そんな事はないんだけどねぇ。マシロ水は基本無害だし。おっちゃん達も舐めてみれば分かるよ。身体中の細胞が活性化していくのが」


「それが信用できねぇっつってんだよ。ガキかと思ったが、その奇妙なワザは警戒に値する」


「そうは言ってもなぁ。出来るもんだからしょうがにゃい。そもそも、このマシロに戦う力は備わってないんだよ?」


 信じられない男は、荷物の中からスクロールを取り出し、ステータスを鑑定するが、その弱すぎるステータスに驚愕していた。


「⋯なんだコレ⋯⋯ 弱すぎる⋯⋯偽造? 隠蔽か?」


「ん? よく分かんないけど、それをするのも何かしないといけないんでしょ? だったらマシロには無理だよ」


「ふと思ったんだが、こいつ⋯もしかしてステータスを犠牲にした特殊技能(ギフト)持ちじゃないのか??」


「ふむ⋯⋯」


 結論はどう考えてみても、この目の前にいる少女が何かをできるとは到底思えれなかった。


「どうする〜? マシロ水堪能する〜? それとも面白い事する〜?」


(⋯⋯時間稼ぎ⋯⋯)

 もしかすると料理を作らせるまでの時間稼ぎをしようとしているのではなかろうか? ふと、頭にその考えが表れる。


「いや、いい。十分楽しいものは見せてもらったから、次は俺達がお前と面白い事をしようか」


「え〜? いいの〜? もういいの〜? 若かりし頃に戻るのも楽しいとおもうんだけどなぁ」


「そういう魂胆はもういい。時間稼ぎだろ? だからたくさん作ってきてくれと言った。それはお前達の中で、こちらで時間を稼ぐから早く持ってきてくれみたいな暗号だったのだろう」


「そっか〜。そう考えるのもまた一つかぁ。まぁ、んじゃ、もういいね。じゃあ、【遊ぼ】っか」


 そう言ったマシロの言葉に突如、おぞましいほどの寒気が走り間合いをとろうとしたが、全員が既に動けなくなっていたことに動揺する。


「てめぇ⋯⋯何しやがった!」


「ふふーふん。別に〜何も?」


「何もしてない訳が無いだろうが!」


「くはははは! ならワシは実は魔王じゃ! 蒼龍とやらを見にきたのじゃがいなくてな。だからこうして遊びにきたという訳じゃ!」


「ま⋯⋯魔王?! あれは昔にとうに滅んだはずでは!」


「あ、そうなんだ⋯⋯? ノリに乗ろうとしたけど⋯⋯なんかめんどくさくなっちゃったからやっぱやめようと思う」


 ごめんねといいつつ、マシロ水のついた人差し指で白髪混じった男の唇に塗る。


「ぐああああ、熱い⋯⋯なんだコレは⋯⋯?! 身体が! 身体がぁぁあついぃー!」


 身体から蒸気が勢いよく吹き出ると同時に身体が潤いを取り戻すように若返っていく。

 

「はぁ⋯⋯はぁはぁ、すげぇ! 身体中から力が漲ってくるようだ! なぁ! この拘束といてくれよ!」


 それをみた男たちもマシロ水を求めた為、全員に分け与える。


 動けないがその身体に漲っている力に酔いしれて、マシロに仕えようと懇願する者まであらわれはじめていた。


「さて、拘束を解く前に聞いておきたいんだけど? 「元の姿にもどってこの城から去るか」「苦痛を受け全てを蹂躙する力を手にするか」どっちがい〜い?」


 答えを聞くまでもなく、男達は力を求めた。


「おっけ〜。じゃあ、頑張ってね!」


 男達の身体がゴギっバキっと激しい音が鳴り響く。


「ぐおぉおぉ! がぁぁぁ! くそが! こんなの屁でもねぇ!」


「〜〜♪」

 マシロは、鼻唄を歌いながら、男たちを見つめている。


 数分後、激しい音はなくなり、男達は膝をつき肩で息をしている。


「はぁ⋯⋯はぁ、これだけか? これだけで若さが入るなんて簡単すぎるぜ」


「ふふ〜ふん。何を言ってるのかな? まだ何もはじまってないのに」


 ニヨニヨと笑うマシロ。


「あぁ?! ならさっきの痛みは⋯⋯?」


 男達は違和感に気づく。


「なんだよこれ?!」


 頭はそのままだが、身体は女子の身体になっていた。


「どうしてか、この倒れている子達の身体は治っても心が戻ってきてないのよね。虫の息だったとはいえ死んではなかったし? なら心が死んでいるのかもしれない」


 ニッコリと微笑みながらマシロは言う。


「この子達に残っている記憶部分を貴方達で再生してみようかと。勿論、この子達の記憶は消えるわけでもなく残りはするんだけど、人の脳って『何回も体験する』と感覚が慣れるというか変わってくるのよね」


 何を言っているのかは詳しくは理解できないが、とてつもなく嫌な予感だけはしていた。


「まて! 元の身体に⋯⋯」


「無理だよ? もう行き先は決めたでしょう?」


 クスクスと笑う姿は悪魔に見えたが、それも一瞬、それ以降はマシロの事を気にする余裕はなかった。



「うわ⋯⋯これは⋯⋯お前らは見ないほうがいい」


 レオが、ルイスや姫様みたいな戦闘をしない者には見せないよう促す。


 模型の中で再生されているシーンにメイド達はよく知っていた。それは自分達が受けた行為であり、顔は違えどその身体の造りは自分達のものだと言わずとも確信していた。


「そうなのですね⋯⋯。夢か現実⋯⋯そういう意味だったのですね」


 何回も繰り返す残虐な再生。幾度も何度も感じればその感覚は麻痺をしていく。


 男達は私達数人分を何度も何度も繰り返しされていく内に壊れていってしまっていた。そうすると痛覚をあげてさらに再生。その何度も繰り返した結果、身体はピチピチな女体であるが、男たちの顔は、過労死寸前かのように若い顔のまま老人の様な白髪まじりにシワシワとなり虫の息になってしまっていた。


 同情はする気はない⋯⋯する気はないのだが⋯⋯いつ終わらしてあげるのだろうと感じてしまっていたが終わりは突如訪れた。


「も⋯⋯もう、殺してくれ⋯⋯」

 男達が生きる気力を無くし、懇願し始める。

「知っている事⋯なんでも話し⋯⋯ます⋯⋯から、もう殺して⋯」

 依頼主だろうが、この度の襲撃による知らされている範囲を全て話すとも言うが、マシロは首を傾げるだけである。


「ん〜そういう事はどうでもいいんだよね〜。そもそも、次の料理が来るまでの暇つぶしだもん」


「はぇ⋯⋯?」


「えっと? 分かる? 暇つぶし。貴方達がこれから私にしようする事の前に、自分がしていた事を身をもって精算してもらってただけよ? 今は辛いけど、選んだ通りに終わったら先程の若い身体にもどすし、蹂躙できる程度の力も手に入る。ウチが住む水都には効果はないようにはするけどねぇ」


「⋯⋯あ、あぁぁ」

 本当にただの暇つぶしなのだと悟った。少女(コレ)に常識は通用しないということも、力を渡すのも本当のことだろう。

「ひ⋯⋯一つ聞きたい」

 信用ではないが、コレが言った通りなら耐えれば力は入るということになる。その希望という細い糸がどれだけのものか確認をしたくなる。

「あと⋯⋯どれだけ耐えれば終わるのですか?」


「今は単体のみだから、あとはーー数人同士で責められて、お酒の入った瓶などもやってるし、ん〜もう少しかな?」


 自分達が面白がってやった事を今更思い出す。ただ、それが自分に返ってくるだけの事であるが、それを想像するだけで耐えれるという未来への扉が閉ざされていくという感覚だけはハッキリと感じた。


「りょ⋯⋯料理がきたら、終わりにして⋯⋯ください」


「力はいいの〜?」


「はい⋯⋯。⋯必要ありません⋯」

 激痛と苦痛を感じつつも、男達は倒れている女性に向けてか自分達の行っていた行為なのかは分からないが、最後まで『すみません、すみません』と永遠に繰り返していった。


 その後、マシロが料理が届く気配を感じると同時に両手をパンと叩くと、裸の女性以外すべてドロリとした液状化と化し、庭園の汚れを吸収しながらマシロの元に吸収され元の美しい庭園になっていた。



「あ、けど記憶は残ってるけど、君達の身体は間違いなく元の綺麗なままだよ? 痛みも恐怖もすべてあのおじさん達が持っていってくれたから安心してね〜」


 マシロから回想を聞いたメイド達はそのまま一礼をして、姫様と共に城にもどる。


「姫様⋯⋯マシロ様は何を考えていらっしゃるのでしょうか?」


「マシロ様は食べ物の事を考えていますよ? レイさんも仰られていましたが、人の心をどこかに落としているのかもしれません」


「それでは、私達がもし死んでい⋯⋯」


「それは気にする事ではないでしょう? 戦いというものはいつ命が無くなってもおかしくはありません。マシロ様がもし水都を潰すことがあればそれは天災だと思えればよろしいのです。それに側からみれば、あの映像では貴方達の恐怖を和らげる為に助けたとも言えます」


「そ⋯うですね」

 確かに、最初に『後悔しないかい?』と言われていたのを思い出す。知らなくていい事を知ろうとしたのは私達だ。


「まぁ、どちらにせよ。マシロさまに食べてもらうのは私が一番ですからね!」


「⋯⋯姫様⋯⋯残念ですが、マシロ様は姫様のその食べてもらおうとする心意気にかなりどん引いていますよ」


「⋯⋯え?!」


 そんな事はないだろうと思っている顔をしている姫に、何故かそこらの非常識を指摘しなければいけないという考えが浮かび、姫様に指摘をしながら城にもどっていった。

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