18日目 一段落 (前編)

18日目 一段落済みました。


「【シナプス】ですね」


 皆の前で唐突にレイが言った。


「ん? 『シナモン』?」

 口の周りがシロップでベチャベチャになりながらも、モゴモゴとパンを食べているマシロ。




 マシロ誘拐から数週間後、水都では街全体をフルに使っての大きな祭りが開催されていた。街を独断で私用していたベンジャーやドレイクが消えた事により多少の問題はまだ残っているのだが、それもすぐに解消され安定化した。そこで、姫様(セッちゃん)がマシロに対して慌ただしかった事(黒炎の壁)を都民に安心をさせる為に一言言って欲しいとお願いをしていた。


 嫌がったマシロだが、レイの協力(せっとく)もあり、マシロが皆の前に立ち発言する。


「あ〜あ〜、皆さまのおかげで、マシロはこの水都を無事に乗っ取り(?)が完了した事をお知らせ致します。知ってる人は知ってるでしょうがマシロは決して『蒼龍』ではありません。これはお姫様も了承しています。ただ、みんなとはこれからの共存生活を満喫していきたいのでよろりんです〜」


 蒼龍ではない事をあっさりとカミングアウトされたことにより、一瞬口をあんぐりとさせながら蒼ざめたセッちゃんだったが、都民の殆どは喝采をしていた事にホッとしていたのである。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 少し時間が遡り。


 誘拐された後、城に戻ってきたマシロはセッちゃんに迫られていた。


「こ・ここここの子供達は一体なんなのですか! そもそも! いつの間に、こここ子種を受け入れたのですか!」


 流石に子種の部分は小さな声だったので聞こえなかったが、なんとなく言うことは分かった。


「まぁまぁ、そんな事より今日は一緒に寝ようよ」


 マシロの無邪気なお願いに「ふぁっ!!」と、驚きを隠せないセッちゃんは即座に落城する。


「じゃあ、ここは使っていいから後は適当に任せたよ〜」


 レイと残された5人の少年少女を後に、マシロはセッちゃんに抱っこされ部屋に戻る。


(こればかりはウチが出る幕じゃないし⋯⋯レイがなんとかするでじゃろう⋯⋯)


 マシロとしては、レイの秘書(メイド)は決定事項なだけで後の事はどうでもいいのが本音である。あそこまで5人の命を思っていたのに見捨てる事なんてまず無いだろうし、その場合は逆に面白そうなルートに入るんじゃないだろうかと思ってはいるが⋯⋯ 。ただ、それをもし私の意思を聞くならお門違いであり、そうなった場合は5人を吸収(たべる)ぐらいしかなさそうなのでサッサと退散したという訳である。


 翌朝、セッちゃんがほっぺに滅茶苦茶チュッチュしてくるので目が覚めた。正確にはウチは寝る必要は無いので、深海のような深い場所の揺らぎに身を委ねてユラユラしていたのだが、あまりの感覚に咄嗟に意識を戻した。


「おはよう、マシロ様」


 なぜか初めて結ばれた朝、男性が女性の顔を見ながらいうような台詞を言われたので、何となくムカついたので仕返しする事にする。


「おはようセッちゃん。にしても、歯ぎしりにいびきにお腹の音が凄かったね」


「ふぇ?!」


 キリッとしていた顔が一瞬でくずれ赤面どころか泣きそうになっている。


「ふふ、嘘だよ。スヤスヤと幸せそうな顔で寝てたよ」


 泣きそうになっていたのはホッとしていたが、逆に寝顔を見られていたのに恥ずかしくなったらぢく布団の中に潜っていった。ちょろい。


 

 準備を終え、屋上の庭園にいくとレイと5人はすでに起きており、私を待っていた。


 レイは相変わらずだったが、5人の子供達は目が腫れていたので泣いていたのだろうと思う。


「マシロ様、もし宜しければこの子達に名をつけて頂けませんか?」


 元々、レイも含めて実験体として連れてこらえた為、A0〜6見たいに仕分け・種類分けされ記号読みだけで構成されており名前は存在しなかった。


 そもそもレイにも話はしていたが、レイ以外は自由に生きる道を与える事になっていたが、どうやら5人はレイと共に生きたいらしく、マシロの事を言うと、「盾として使っていいので一緒にいたい」と言い、レイが怒り気味に説得(おどし)しても信念は曲がらないことがわかった。


 説得の内容は⋯⋯正直に拷問一歩手前ぐらいとだけは言える⋯⋯。折角助かった命を盾代わりみたいに言ったことが怒りの原因らしい。で、結果的にこの状況になったと言う訳である。


「う〜ん。どうでもいいんだけど、戦力(たまよけ)とかいらないんだよねぇ。そもそもレイとの約束もあるし好きに生きたら? まぁ、説得すら意味ないようだし⋯⋯なら、冒険者にでもなったら?」


「冒険者⋯⋯ですか?」

 5人の少年少女は目をパチクリさせる。


「うん。だって現状、役に立つ事はほぼないだろうし。ウチは平穏に生きればいいからねぇ。水都で生きるなら好きな事をすればいいだろうけど、頑なにレイの側にいたいというなら。それに見合った存在になるしかないんじゃない?」


 5人は少し悩んでいる⋯というよりかは、計算している感じである。それを見兼ねたレイがため息まじりに喋る。


「そのあからさまに計算するような悩み方はやめなさい。それだけで己の価値を下げているようなものです。そもそも今の言葉の真意を即座に見抜けないとは⋯⋯」


 レイがくどくど言っている中、マシロは特に意味もなく言ったつもりだがひとまず『ふむ⋯』とだけいう事にした。


「要するに、冒険者になり己を磨きながら、ダンジョンに潜り、未知なる食材を持って帰る役割なら与えると言っているのですよ。そればかりは、常にマシロ様のおそばにいる私では、どうしてもできない仕事ですからね」


 未知なる食材を想像し、じゅるりとしていたマシロは『うむ⋯⋯』とだけ言った。


「というか、そんなグルメハンターみたいな事できるん?」


「グルメハンター⋯⋯いいですね。さすがはマシロ様です。分りましたね。今は弱くとも己を研鑽し、あなた達は立派なグルメハンターとなり貢献しなさい」


「は⋯⋯はい!!」


 納得し力強い返事だった。うん、まぁグルメハンター⋯⋯どんな食材を持ってきてくれるのだろうか⋯⋯。生命果実(アンブロシア)を食べたばかりのマシロはそれ以上の食材が想像できず楽しみにしていた。もちろん、なりたて冒険者がそれ以上の物を持って来れるはずがないのだが、マシロの頭にはその考えは無かったのである。


「では、そろそろマシロ様があなた達に名を授けてくれます」


 未知なる食材うへへ⋯⋯と、想像していたら無茶振りされた。だが、未知なる食材の為には名前ぐらいなら安いもんだ。


(さて、私の必殺技をだすしかあるまい)


 少し目を瞑っていると、5人がゴクリと喉を鳴らす。が、その目を瞑っているマシロというと、身体の中にいる数千億にもなるマシロ(微生物)と脳内会議ならぬ身体会議が開催されていた。人任せならぬマシロ任せであり、その殆どはマシロ同様興味を持たないものだったが、極一部の確率(0.001%)でアイデアを言うものもいた。


 それらの意見を統合させ、瞬時にそれに連なった名前を導きだすこと数秒、マシロはゆっくりと目を開ける。


「じゃあ、君からでいいや」


「は⋯⋯はい!」


「君の理想像は?」


「レイ姉ちゃんは僕たちをずっと守ってくれいたから⋯⋯み⋯みんなを護る存在になりたいです」


「イチゴ、君は今日から一護(イチゴ)と名乗るといいよ」


「ありがとうございます」

 そう言った瞬間に眩しく光る。

(この世界は名前つけたら発光すんのかな⋯⋯)

 眩しいなぁっと思いつつ、光りが治るとイチゴは獣人の姿になっていた。

(⋯⋯⋯ふむ⋯⋯若い獣人の肉⋯⋯うまいんかな)

 大人の肉と子供の肉じゃ旨味が違う。なら、もしかしてコレは美味いのでは⋯⋯。


 マシロは急すぎて理解が追いつかなかったが、レイ曰くどうやら本来の姿らしい。マシロが培養していたのはあくまで人間主体として捉えていただけらしく、名前をつけた事により本来の遺伝子が目覚めたとの事。



「私はみんなを癒したい⋯⋯。少しでも楽になってくれればうれしいです」


 2番目の子供は『ツユハ』と名付けた。この子も光り収まると、髪の毛はクリーム色になり腰辺りまで伸びていた。前髪も長く貞子みたいになっていたので、レイがピンで左右に分けると可愛らしい顔が出てくるが、それよりも気になったのが尖った耳である。どうやら『エルフ』だったようだ。



「私は強くなりたい! 敵に一番に向かって行ってすぐに無力化したい。そうすれば誰も怪我しなくていいよね!」


 3番目の子供は『ミィ』と名付けた。光りが治ると、猫のような姿になっていたが、レイ曰く元の種族は『ドワーフ』だったらしい。それをふまえて考えると、素早く動く獣人『猫人』の情報はレイの遺伝子から得たと考えるが、根本的な元の遺伝子はドワーフである事は間違いなかった。


(ハイブリットができたのは、あの子達の中にいるマシロ(微生物)が、未知なる食材の為に頑張った結果なのだろうか⋯⋯)


 考えてもしょうがないのでどうでもよくなり次に行く。


「俺は⋯⋯みんなの行動をフォローしたい。それこそ、敵の居場所や数など少しでも早く分かるように⋯⋯」


 4番目の子供は『ヨミ』と名付けた。彼は光り輝く事はなく、逆に自分の影が上に侵食し真っ黒い人間となった。眼を開くと同時に影は元の位置に戻ったが、髪の毛も目を輝きを失ったように黒くなっていた。


「『影人』ですね。正確には魔物というべきか魔族というべきか⋯⋯ただ、基本ベースは人間のようです」


(レイはそう言ったけど⋯⋯)

 マシロはヨミの中にいるマシロ(微生物)に移ると、どうやらヨミが二人いる模様。レイと出会う前だろうか、元々双子として産まれたらしいが、子供の時に片方が死んだ。その原因も森で逸れた時に見つけられなかった自分のせいだと思っており、その心残りがもう一人ができたものだと感じる。


(チッス)

 二人しかいないはずのこの真っ暗な世界に、気軽に乱入してきたマシロに驚きを隠せない二人。


『マ・マシロ様?! どうやってここに?!』


(そんな事より、弟君か兄君(あにくん)かは知らないけど、二人ともヨミじゃ分かりづらいから、影(キミ)の方はツイでいい?)


『な⋯名前をつけてくださるのですか?』


(そっくりだけど本質は違うからね〜。ちゃんとみんなにも後で言っておくんじゃよ)


 現実に戻ると、ヨミが涙を流している。片方の存在が認められた事がよほど嬉しいのだろうと思う。


「俺は⋯⋯ピンチに現れて助けれるようなヒーローになりたい!」


 最後にそう言った少年を『イツ』と名付ける。光りが収まると、長髪でウェーブが少しかかったロンゲの顔立ちの整った男の子になる。


「⋯⋯普通の人間ですね。ただ、憶測ですが、鳥人や幻獣の性能を取り込んでいるかもしれません」


 ふむ。まさかの最後で普通の人間か⋯⋯。しかも、どっちかというとチャラ男っぽい気もするけど⋯⋯ヒーローっていうかモテたい願望がおおきかったのではないだろうか⋯⋯。


『ありがとうございます!!』

 数字を使い名前をつけただけなのだが⋯⋯5人が元気よく言ってくれたので、どうやら満足はしてくれたようだ。


「んじゃ、昨日一緒にいた奴隷達の意思も聞きたいし動きますか」


 セッちゃんからレイに手渡しされ、そのまま奴隷を連れて崩壊しかけている館にもどった。


「さてと、基本は建物(コレ)を使うとして外見は⋯⋯見晴らしもいいしやっぱり木がいいね〜。レイ、生命果実が実ったような木って生やせるん?」


「はい。実さえつけなければ、巨大な樹を生やす事は可能です。では、マシロ様の思い通りに建物の内装を真似て木の中に空間を作るでよろしいですか?」


「うん。その前に一度綺麗に掃除はするから少し待ってね」


 マシロの足元から大量の水が溢れ出し、意思があるかのように建物の方に向かっていく。


「マシロ様」


「ん〜?」


「もしよろしければ、本気でマシロ様を解析してみてもよろしいでしょうか?」


 マシロと戦った時に負ける要素が無かったはずにも関わらず、戦闘にもならない戦闘を経験し、レイは解析してみたいと感じていた。


「いいよー。結果はあとで教えて〜」


 意思を持っているかのように動く水は地面に吸い込まれていく事もなく、建物の隠し部屋から隙間など一切見逃す事もなく掃除しはじめ、数分のうちに終える。


「じゃあ、レイ。あとはお願い」


「分かりました」

 一礼すると、10本の黒い槍が背中に現れ、内2本が間隔を空け地面に刺さると、巨大な樹が生えていく。


「さて、最後の問題を片付ける前に」


 奴隷達の方を見ると、昨日の戦闘を見ていたのかビクッと怯えている。


「君達のコレからについて選んでもらえる?」


 1:水都から離れて他の街に行き、再び奴隷になる。


 2:水都に残り、給金を貰いながら仕事をするか。


「あの、2番目の選択だと、私たちはアナタの奴隷となるのでしょうか?」


「うんや。そこらは興味ないから気にしないでいいんじゃない? 水都(ここ)でならそういう階級はあってもなくても一緒だし」


「ですが、奴隷の私どもで仕事に就けるなど⋯⋯」


「だから、ここで働かない? レイがお墨付きするぐらいだし、ここで子供達に習った事を教えてほしいのさ」


「子供にですか⋯⋯?」


「うん。ここのお偉いさん達は、どうも身寄りの無い子供達を安い金で眼の代わりに使っていたからね。安い金といえど手に入らなくなれば盗みをするしかなくなる。街から窃盗の苦情がおおくなったので、解決ついでにその後のフォローもついでにって感じ」

 後ろを見ると巨大な樹が蠢くように太く大きく生えているのが何よりの証拠でしかない。

「なので、ここに宿り木を建てて、君たちはここで子供と暮らしながら面倒を見つつ教育などを施していくのが仕事。給金もでるし、休日などは自由にしていい。自分のやりたい事があればそれに向かい勉強して目処が立てばここから離れてもいい。奴隷に関しては冒険者になるとか上書きになる事を考えればいいんじゃない?」


「分かりました。是非その話に乗らしてください」

 話を聞く限りでは、デメリットという部分が感じられず断る要素がなかった。


「おっけ〜」


「それで⋯⋯子供達はどうやって連れて来るのですか? 情報の眼としてつかってらっしゃるなら、捕まえるのも一筋縄ではいかないと思いますが」


「あ〜いま鬼ごっこ中だから、暫く待って〜。出現したら事業の説明をお願い〜」


「わかりました。勉強不足で申し訳ありませんが⋯⋯おにごっことはなんでしょうか?」


 マシロが答える前に、後方でベチョッと何かが落ちる音と共に水浸しの子供が地面に倒れていた。


 言われた通りに説明しようと向かったが子供は「喰われた! 死んだ」などと言いながらパニックに陥っていた。


 それから次々と子供達が出現するも、そのほとんどがパニックになっており、最初の子供が落ち着くと、一緒に子供達を落ち着かせていった。


 子供達によると、食べ物を盗み逃げようとしていたら、急にどの店にも置いてある人形が動き襲ってきたとの事。口が大きく開き、そのまま俺たちを丸呑みして水になって消えていく。他には、水路の近くにいけば水の手が掴みかかってきて水路の中に引き摺られて消えていくなどがあった。


 そこまで時間がかかることはなく、身寄りの無い子供達は全員捕獲され、マシロが子供達に近づいていくと声にならない程の声で叫んだ。


 マシロを見て再びパニックになった子供達が落ち着いた頃には、巨大な宿り木が完成していた。家具などはないが、それぞれの部屋も分けられており、奴隷から教育係になった者たちに、最初の仕事として部屋割を考えさせることにして、マシロ達は街に向かって行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る