17日目(おまけ) ノーコメントと言われた戦闘秘話

「逃走は不可能と思って下さい。どこまでが本気かは今から試さしていただきます。途中、降伏し服従するならすぐに申して下さい」


「いつでもいいよん。人の強さがどれくらいで、どれくらい通用するか測ってみたかったし、私が満足する程度までは遊んであげる。そもそも、こんな事は始まる前から終わってるのよねぇ」


 目つきの悪い熊さんスーツの姿をしているマシロは、両手を上げて「がうがう」と言いながら威嚇ポーズをした。


 そこから始まる本当の戦い⋯⋯。


 になる筈だったのだが⋯⋯結果は思わぬものになった。


 獣人、鳥人、精霊、魚人、竜人、悪魔(魔物)、幻獣(霊種)の全てをベースに融合された生物が、最高傑作と言われる私自身であった。


 

 まずは小手調べに精霊魔法を使ったのだが、マシロ様の前に出された水の壁みたいなモノに全て吸収されると球体となりフワフワと浮く。


 それも、全属性⋯⋯全てである。浮いた球体をじ〜っと見つめながら、じゅるりとしているのは気のせいだと思っていたのだが、次の瞬間、飲み干すかのように吸うと「ふぅ〜」と、喉が潤ったのか満足気にされていた。


 次に身体能力を様々な種族へ変化させ能力を向上する【エボルヴ】を使う。


 どの獣人や鳥人、竜人、魚人になろうが、マシロ様に辿り着く前には元の身体に『解体』され、不要な部分だった肉体は地面に散乱し、部位ごとに残されては地面に吸収されるように消えていった。


(なぜ部位ごとに残している?)

 そう思ったのだが、竜人の時に残した部分で、その理由がハッキリと分かった。


 竜人部分で残したのは丸々とした尻尾である。獣人はモモ肉、鳥人は手羽肉⋯⋯。


 それをじ〜っと再びじゅるりと見つめながら、かぶりついていくマシロ様⋯⋯。


(これって戦っているはずでは⋯⋯)


 自分達が何をしているのか⋯⋯次第に分からなくなるほどの違和感がそこにはあったが⋯⋯美味しそうに頬張る姿になぜか邪魔をするきは起きなかったのである。ここで邪魔をしていたらどうなっていたかなんて想像するだけで恐ろしい。



 魔法も肉体向上も何も役に立たないまま、最後に残された切札は【黒炎(ぞうお)】である。


 正確には、竜言語魔法とよばれる失われた魔法の一種であるが、この種の魔法は全て名前は無い。自らの肉体すら蝕んでいるこの魔法の威力は絶大であり、流石の彼女も焦るはずだろうと確信をする。


 その結果⋯⋯。


 彼女の周りに巨大な黒い水の塊が浮いていた。


「⋯⋯⋯⋯」


 言わずと分かる。


 目の前の小さな女の子は、じぃ〜と塊を見ているのだから⋯⋯ただ先程の精霊魔法より中は気泡が出ているが⋯⋯。そもそも黒炎(ぞうお)って飲めるの⋯⋯?


 流石に怖いのか、一口だけ含む姿を「いっちゃった⋯⋯」とハラハラしながら見ていたが、すぐにかがみ込む。


(でしょうね⋯⋯)


 そう思って少し観察していると、「ぷはぁ!」と目を輝かしていたあと、次はゴクゴクと飲みはじめ最後に必ずぷはぁ! と言っていた。


「⋯⋯⋯⋯」

 さすがのドン引きである。それに気づいた彼女はこちらを確認する。


「あ、ごめん。ちょっとコーラみたいな飲み物に感動しちゃってた」


 何の事を言っているのかは分かりませんでしたが、満足気な顔をしているのは確かであった。


「私達は戦っているのですよね?」


「そっちは⋯⋯かな? ウチはそんなつもりないからねぇ」


「ですが、この後の事を考えると、戦った痕跡がないと宜しくないのでは?」


「あ〜そっか⋯⋯確かに演出は大事よね。しょうがない、コレ使おう」


 そういって飲んでいた黒い球体を左手に持ち、右手でデコピンをする様にその球体を弾くと、黒い水飛沫が目の前にある全てを崩壊させた。


 地面という地面はボコボコになり黒炎が舞い踊り、館はまるで大砲でも当たったかのように崩壊しながら燃えている。


 そして⋯⋯私自身も痛みはないが、水飛沫により館まで吹っ飛ばされており、下半身が消えているのに気づく。


(⋯⋯⋯ですよね⋯これが黒炎(ぞうお)の威力ですよね)

 使うたびに恐怖し苦しんでいた人を思い出す。中にはベンジャーのように炭になるのもいたが、苦しめていた人もいたのは確実であった。まさか⋯⋯自分に喰らうとは夢にも思わなかったのだが⋯⋯。これも因果応報なのだろうか。


「⋯⋯思ってたより凄かったね〜。とりま、これで痕跡の方はオッケーかな? あとはウチが汚れてないとおかしいとおもうから、向こうで倒れることにする〜」


「⋯⋯ふふ、ふふふ」


 思わず笑ってしまう。彼女が言った通り世界を燃やすはずだった炎も飲み物であり、最高傑作だったはずの私は食材。これは笑わずにはいられなかった。


「大丈夫? 頭には当たってないように見えるけど」


「ふふ、大丈夫ですよ。新しい身体になったらよろしくお願いしますね」


「ほい」


 そのまま、向こう側にいくと残りの黒い液体を地面に溜池のように置き仰向けに寝る。


(主人(ドレイク)がくるまで飲むつもりなんですね。


 そもそも⋯⋯戦いとは一体なんなのだろうか⋯⋯。精霊魔法を吸収されたあとから彼女を調べた結果、彼女は物凄く小さい生物である事が判明した。それこそ全ての生物の中で生きている微生物とでも言えばいいのだろうか⋯⋯。


 まるで生命を支えている意志の無い生物が、意志を持ってしまったように思える光景。生命の在り方をその根源から理解し、存在する全てのモノを支配できるのではなかろうかと想像をする。


 エボルヴにより肉体を進化させたはずの肉体を元の形へと誘導し引き剥がす。元に戻すではなく、余った肉を引き剥がすのが何よりの証拠である。


 彼女が一体何者なのか、目的は? いつも何をしているのか? この後の事が楽しみになりつつある自分がいる事に驚きながら、確実にもうすぐ死ぬこの本体ともいえる身体の余命を肌で感じることにした。



 後日、マシロ様がコーラといった黒炎(のみもの)は水都限定品として、とても美味しくシュワッとするMPポーションとして改良され販売されていくことになったのは更に後の話である。

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