13日目 探索4

 見下ろしてるマシロに対し、その下に四つん這いになっているベンジャーは、今から自分が何をされるのかと怯えている。


「本当にお、お前⋯⋯いや、貴方様が蒼龍なのか⋯⋯なのですか?」


「う〜ん。まぁ隠すようなこともないし、ぶっちゃげると蒼龍じゃないよん」


「?? なら、お、お前は蒼龍ではないと?」


「うん。そうだねぇ」


「⋯⋯なら、王女は俺たちを騙していると?」


「だねぇ」


 徐々にベンジャーが元気を取り戻していく。


「ほら見ろ! お前達は王女に騙されているんだぞ?! 蒼龍がそもそもこんなチビ助な訳がないだろう! こんな化け物を水都に入れて見ろ。今はいいかもしれないが、その内ここはこいつの餌場になるぞ!」


 そう熱弁するも、ベンジャーの言葉には誰も届かない。


「お前達どうかしてるぞ! さては洗脳か、既に洗脳されているのだな!」


 諦めの悪い物言いを永遠と繰り返していくと、マシロの横にいたおっちゃんが、ため息をつきながら呟いていく。


「あのなぁ〜この食べてる顔をみて、誰がこの街の餌場になると思うんだ? 今日一日ほど見てきたが、畑の手伝いも水路に困っていたら掃除もしてくれた。普通に考えて見ろよ⋯⋯上から威張り散らしている貴族と『共存』と言いながら、俺たちの行動を見て評価してくれる子。どっちを取るかなんて言わなくても分かるだろ? 結局の所、お前は自分の地位を守り抜きたいだけのクソみたいな発言にしかきこえねぇんだよ」


「⋯⋯はぇ?」


 何が悪いのか、ベンジャーは分からず気の抜けた返事をしてしまう。


「ん〜⋯⋯けど餌場っていうのは、正しいと思うよぉ。ウチはあくまで共存だからねぇ。この都を守る気はあるけど、攻めてくる人間や都を危険に晒すような人間はいらないし、選択肢あげて決めてるつもり〜」


「せ⋯⋯選択肢?」


「さっき、銃を発砲した人にもチャンスはあげたよ? 右手の無事をとるか、破壊をとるかってね。昨日の傭兵達にもチャンスはあげたよ?」


「あ⋯⋯あぁ⋯⋯」

 咄嗟に理解する。アレが境界線なのだと。その選択肢がこの化物(マシロ)が動く状態なのであると。


「さてと、先に聞いておくけど、君はどうするん? 街を『去る』か『食べられてから、この街の畑で栄養になってでも街に残る』か。選択肢は自由よん」


「去ります! 去りますが、数日だけ猶予を下さい!!」


 即答で答えていた。


「数日じゃなく適当でいいよ〜。財産とかは持っていってもいいけど、その代わり店や店内とかはそのままにしておいてね〜。そのまま使うだろうし〜」


 数日の間で財産をどうするかなどの計算をしていたベンジャーだが、思わぬ言葉に喜ぶ。


「わ⋯⋯わかりました! ありがとうございます!」



「うーん⋯⋯。あとは〜、オウカーちょっときてぇ〜」

 

 奥からオウカが料理を中断して出てくる。


「蒼龍様、何かご用でしょうか?」


「⋯⋯蒼龍じゃないからマシロっていってよね。まぁ、どうでもいいけど。ちょっとしゃがんでもらえる? ご飯のお礼じゃないけど、本来の形にしておかないとなんかムヤムヤするから」


「は⋯⋯はぁ?」


 そう言われて、疑問になりながらもしゃがむと、マシロが人差し指を前に出すとプクリと水が膨らむ。


「指を口にいれて舐めて貰える?」


「え、えっと⋯⋯分かりました」

 少し周りを見渡し恥ずかしながらも、髪を耳にかけながら口に含む。


 

 以下省略。(8話セッちゃんと同じ)



 結果から言えば、男達は赤面をして目を逸らすが声だけははっきりと聞いていた。


 指を舐めたオウカというと、萎んでスレンダーになっていた身体は、胸とお尻はハリと膨らみが元の体型から3年間の成長を加えた姿になっており、着ていた服は胸のせいでヘソが見える状態までたくし上がり、スカートはミニスカートみたいに際どいラインまで上がっていたのである。


 そして、その傍らにはルイスが気絶をしていた。


 先程、萎んだ身体でも、久々にオウカと出会ったルイスは誰よりも愛してくれると抱きしめてくれた。その事がとても嬉しくおもっていたのだが⋯⋯。


(ルイスはカッコよくなったのに、自分は⋯⋯)


 そう思っていた矢先、マシロが気持ちを知っていたかのように動いてくれた。そして、自分の姿が昔のような姿になった事に知り、ルイスに改めて、こちらから抱きつこうとしたのだが、ルイスに拒否をされてしまう。


「ルイス! なぜ! わたしのこの姿は嫌いですか?!」


「い、いや⋯⋯待ってくれ⋯⋯。オウカの事は誰よりも愛している⋯⋯愛しているが⋯キャパオーバーなんだ。その身体を抱きしめる度胸は⋯⋯」


 話している最中に、オウカは問答無用に抱きつく。正確にはルイスが逃げようとしたが、なぜかその一瞬、身体が動かなかったらしい(本人曰く)。結果、容量の限界を超えたルイスはその場に気絶したのであった。


「よし、今日の仕事は終わったから、そろそろ帰ろうかぁ」


 食事を終えたマシロは、レオンから魔法の解除を終えたペンギンスーツに着替えると出口に向かってペタペタと歩き出す。


「あ、ご飯美味しかったのでまた近いうちに来るよん。畑に関して、何かあったらいつでもコレに呼びかけてね」


 と、マシロの分身体を置いていき、キリッと決めながら去ろうとしたのだが、出口に辿り着く前には、歩くのが面倒くさいのか、レオンに肩車をされて出ていった。


「最後の最後で締まらない人だ⋯⋯すげぇのか、怖いのか、可愛いのか。よく分かんねぇ⋯⋯」


 全員がそう思った。


 右手が重症なゴロツキ以外は全員無傷で無力化。余談だが、首から動かなくなっている胴体は時間と共に接続され動くようになっていくとの事。右手が重症なゴロツキは右手が破裂している状態から、既に傷口だけは綺麗に塞がっており最初からそうであったような不気味な手になっているらしく、魔法でもその修復は不可能とされた。


 敵には容赦はしないマシロだが、クズ野菜で作ったものでも美味い美味いと涙を流しながら食べ、更には畑の事も考えてくれて困っていた水路を瞬く間に綺麗にしてくれた優しさ。


 そして最後に、マシロを逃げたと言っていた姫様が傭兵に渡してくれた正装(ふく)だ。普通に考えれば、城で使われている装束になるはずが、なぜか動物スーツである。それをあたかも着こなすマシロ。普通ならば笑いが出てもおかしくはないのだが、あまりに似合いすぎて笑いを通り越し可愛い一言につきたのであった。


 その後、ベンジャーが管理していた店などは全てルイス・クレナイとオウカ・クレナイが、新たな責任者となって再出発する。


 元の名前を戻さなかった二人は貴族を名乗るつもりもなく、街の為にこの3年間で感じた事を話し合い色々なアイデアを出していく。

 そして、どちらにせよ平等にするのは時間がかかるため、貴族用の店などもそのまま残しつつ、ドレスコードも必要もなく低価格で食べながら、礼儀作法を学ばせる店など様々な店を出し、位置や場所なども考え、少しずつ共存していけるように考えていった。


 それから毎日、マシロが色んな店に出没していき、その度にマシロ分身体を置いていく。

 それがたちまち噂になっていき、いつのまにか水都のマスコット的な存在になってしまい、皆がマシロに餌付(さしいれ)けをするようになっていた。


 

 ※ここからはレオンに肩車をされながら帰る最中の裏話。(導入部分が見つからなかったので⋯⋯)


「そういや、確か⋯⋯あの分身体はマシロ自身が入らなければ意味をなさなかった気がするんだが?」


「あ〜うん。そうね。たぶん、初めて人間を吸収しちゃったからかな? 脳が指令を出す伝導率が並列化できるようになったのよ」


「そうか⋯⋯まだ成長しているんだな⋯⋯まぁ、俺からにしてみれば、そんな事より、まず歩いてほしいんだけどな」


「気持ちはわかるけど⋯⋯だが、断る! ちなみに無理やり歩かせようとするならナメクジみたいにヌルヌルと滑りながら移動すると宣言しよう」


「⋯⋯⋯⋯」


「そうはいっても、今日は仕事中に畑で走ったよ? 他の移動はおっちゃんに肩に乗せてもらったけど。こう見えても働く時は働くんだぜ」


「まぁ、あれだけ感謝されてるなら、それもありなのか⋯⋯。俺がいなくなったらどうすんだ?」


「他の足(あっしー)を雇う?」


「あっしーってもろ言ってんじゃねぇ。それに雇うという考えなら、今の俺にも給金を払うのが筋じゃないのか?」


「⋯⋯⋯⋯」


 寝た振りかと思いきや、既に分身体になっていた。


「ってか、逃げ足早すぎるだろ⋯⋯」


 また、探さなければいけないのかと⋯⋯すこし迷っていると、


「マシロ⋯⋯すでに城のナカ。今日はゴクロウサマ」


 そういうと、分身体は液状化し地面に消えていく。


 ペンギンスーツだけは残されており、それを持ち上げると銀貨がチャリンと落ちた。


「⋯⋯⋯⋯どうしろっつんだよ」

 冗談で言ったつもりが、銀貨を渡された形となる。無論、運ぶだけで給金として銀貨は正直ありえない金額である。

 額が冗談なのか本気なのか、それともコレを渡すことによって俺がどう行動をするのか楽しんでいるかのようにも感じてしまい、結果的に冗談を言ったことに後悔することになったのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「お待たせしました。ベンジャー・スカー様」

 薄暗い部屋の中、至る箇所に包帯を巻いたメイドが入ってくる。


「貴様のつまらん挨拶などはいい。あいつは何処にいる! 仕事があるといっただろう!」


「その事なのですが、ご主人様より言伝を預かっております」


『仕事の関係上、これまではいい関係を持たせてもらっていたが、君とはこれまでにしてもらうよ。それにしても馬鹿なのか君は。どうやってあの少女が街の情報を知り得ているのかも分からない中、迂闊に姿をだそうとするわけがないだろう。はっきりいって迷惑だ。さっさと消えてくれ』


「だ、そうです」

 目すら包帯で覆っているメイドが軽くお辞儀をする。


「ふざけるな!! 舐めくさってんじゃねぇぞ! しかもこんな使用済のメイドなぞ寄越しやがって! 腹いせに殺しても気がおさまらねぇ!」


 ググッと、メイドの首を両手で握りしめるが、メイドは一向に抵抗をする気配はない。


「くそ! くそ! くそ!」

 そのまま地面に押し倒すと、そのまま顔面を殴る。


「あのクソ商人め! 次に街にいったらすぐに後悔させてやる! 覚えてろ! ネ⋯⋯⋯⋯」


 名前を言おうとした瞬間に、不自然に身体が吹き飛ばされる。


「先程も言いましたが、どこが情報源かわからないうちは迂闊な言葉を発せないようにとの命令を頂いております」


「メイド風情が偉そう⋯⋯⋯⋯ひっ!」


 メイドは殴られたせいで、目の包帯が解けていた。


「そ、その目は⋯⋯⋯⋯そうか⋯⋯お前があの『最高低傑作(パンドラ)』か! 噂なら聞いてるぞ! ならお前達(・・)を助けてやるから、今すぐ俺様につけ! それに今すぐ水都の奴等を殺せば、全力で貴様を助けると約束しよう!」


「⋯⋯…ッ⋯⋯」

 何かを小声で言うと、ピリッと空気が凍りつく。


「なんだ? 勿論、その後もじっくりと大切にすると約束するぞ?」


 右眼から赤い涙が流れる。


「ほんっと、くだらないですね。どいつもこいつも言うことは同じ。本当にこの世界は腐りきってる。けど⋯⋯まだよ。まだ⋯⋯全てを曝け出すにはやい⋯⋯けど⋯⋯そうね」


 血の涙が特殊な文字となり飛散していく。


「この涙の憎悪ぐらいは貴方にあげましょう」


 赤黒い黒炎が、瞬時にベンジャーを炭に変えた。言葉を発する事もなく、何かを感じる暇もないまま炭となり、空間自体が時間差で忘れていたのを思い出すかのように辺りが激しく燃えあがる。


「どうでしたか? 私の憎悪(ほのお)⋯⋯」


 何も答えれる訳がないが問おうとする。これは、自分の意識を爆発させない為の儀式みたいなものであるがゆえ。今まで屠った相手にもしていたが⋯⋯。


【いいね】


 ふいに耳を通過した声にハッとベンジャーを見ると、炭になった口がパクパクと動いている。


【なら、君に選択肢をあげる】


 そう告げると同時にベンジャーの身体は耐えきれなく崩れ落ちた。


「⋯⋯⋯⋯ふふふ、あはは! こんな事は初めて⋯⋯」

 笑いながら彼女(メイド)は、崩れ落ちる部屋を後にした。




「おかえり、どうでしたか?」


「えぇ、やはり私を引き込もうとしました。それと貴方様の名前を出そうとしていましたので、そのまま処理いたしました」


「そうですか。ご苦労様。もう、下がっていいですよ」


「はい。では失礼いたします。憎悪主(ごしゅじんさま)」

 憎悪とは裏腹に、綺麗な声と美しい会釈をして部屋を後にした。

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