11日目 探索2
「みどり〜♪ みどりのおか〜♪」
テクテクと、ルイスに言われた道を真っ直ぐに進む。
進んでいくと綺麗な白いレンガでできていた街並みは木造建築へと変わっていき、更に進んでいくとテントや穴あけ建物などが目立つようになっていた。
「なるほどね。マシロには読めた」
きらーんとマシロは何かを閃く。
「これは一見さんお断り仕様の隠れ食事処ってわけやね」
更に進んでいくと、ボロボロの建物で沢山の人が座って雑談をしているのが見えてくる。
「すいませ〜ん!」
マシロの服装まではいかないとしても、その場にいる者達も似たような格好であり、一斉にマシロに目が向く。
「どうした、嬢ちゃん」
ゾロゾロと男ではなく漢達が寄ってくる。
「緑の丘ってどこですかぁ?」
「ふむ。緑の丘に何か用なのかい?」
「そこが美味しいよって言われたから向かっているの」
「⋯⋯⋯⋯ふむ。ちょっとまってな」
男たちが集合すると、険しい顔で何やら話し合っている。
「悪りぃな。ちなみに誰に丘の話を聞いたんだい?」
「ルイス君だよ。彼はなかなかいい人間だねぇ。コレでお腹いっぱい食べてきなって」
そう言われて銀貨を見せると、男たちは笑った。
「がはは! なるほどなぁ! 悪りぃな嬢ちゃん。おまえさんの見た目と服装から貴族からのスパイかと勘ぐってしまったよ。ここが緑の丘だ」
「え〜ぼろい〜⋯⋯」
「がはは! 正直だな」
「どうしたの? 皆さん。そんな大声で笑って⋯⋯」
お世辞にも店とは呼べないが、その奥から少し痩せ気味だが、この漢達の中では所作が綺麗な女性が出てくる。
「オウカさん。ルイスからですぜ」
「ルイスから?」
マシロの前までくると両膝を地面につけ目線を同じにして微笑む。
「初めまして、私の名前はオウカ。貴女のお名前は?」
「マシロの名前はマシロだよ。オウカはルイス君と知り合いらしいから、少し気になる部分はあるけど⋯⋯そんなことよりコレでお腹一杯食べたいよん」
そういって銀貨を渡すが、そのままマシロの手を包み返す。
「ふふ。この銀貨は持っていていいよ。たぶんルイスがこれから生きる為にマシロにあげたお金だからね」
「え?! なら、ここでは何も食べれないの?!」
あからさまにショックを受けている。
「いいえ。少し待っていて。いまからつくってくるからね」
奥へ入っていく。
「にしても、嬢ちゃんの格好でよくあっちの街にいけたな?」
「いけるもなにも、人が通る道があるのに行っちゃいけないとか意味分かんないよ」
「ふむ? 嬢ちゃんはどこからきたんだ? 街の事を知らないなら誰かに連れてこられたのか?」
「うん。セッちゃんに昨日連れてこられたんだよ」
「へぇ〜? そのセッちゃんと逸れたのかい?」
「え?! あ〜⋯⋯うん。ちょっと別行動かな⋯⋯」
「⋯⋯なるほどな。ただ貴族街にいくのは危ないからやめておきな。その格好じゃさらってくださいって言ってるようなもんだし、もてあそばれるぞ?」
「ん〜? それってお城の人が認めてるの? もし認めてるならなんか嫌だなぁ」
「ああ巫女城か。あれは蒼龍様が住まれる神聖な場所であって、街を動かすのは貴族の奴らがしてるんだよ」
「ふ〜ん。ならお城といっても街の発展に役立ってるわけじゃないの?」
「いや、お城の地下に蒼龍様の住まいがあり、そこから溢れ出る水源を城の頂上まで汲み上げて、この街の至る水路に流れて私達を助けてくださってる」
「ふむり」
「城の中は純潔な乙女以外は入る事が許されていない上に、蒼龍様がもしお力が必要な時、その身を贄として差し出す事から私達は敬意を込めている」
「そういうシステムだったんだねぇ」
「はい。どうぞ。ごめんね。あまり食材はないからそんなに豪勢にはいかないけど」
出されたのは、野菜のスープにパンと小さなステーキと野菜である。見た瞬間は正直かなりのショックを受けていたが、香りのよい匂いが、なんとも空腹を促進されていく。
「いただきます」
ハフハフと熱々のスープを口に入れると、薄めのコンソメだが、それを計算しているかのように、野菜の旨味が混ざり合っており、野菜は小さなクズ野菜でも丁寧な調理法により歯応えが心地よい食感を感じさせていた。
「次はパン」
パンを両手で引き裂くとパリッと音が鳴り、中から香りと共にふんわりとした生地がふんわりと溢れ出る。先程、ルイスがいたレストランの入り口から覗いた時にパンは少し固めだったこともあり、あまり期待はしていなかったが、オウカの作ったパンは、それとは比べものにならないぐらいに、パンだけでも十全な出来上がりであった。
最後に小さなステーキと野菜。マシロが食べやすいようにサイコロステーキが4切れあり、一つはそのまま口にいれると、『じゅわぁ〜』と旨味の肉汁がでてきると同時に肉がとろけていくように喉に吸い込まれていく。
次は、ステーキと野菜を同時に食べると肉の旨味が野菜の旨味と見事に融合され、新たな旨味を醸し出していた。
次はパンに肉と野菜を挟む。3つ合わしてもそれぞれが味の強調はせず、共存と調和を見事に表しておりマシロはおいしさのあまり身体をクネクネと揺らす。
が、事態はすでに起こりはじめていた。
「俺の肉がなくなっている!」
「俺のスープが!!」
「てめぇ! 俺の飯取りやがったな!」
「しらねぇよ! 俺の分だってねぇんだよ!」
マシロに近い席から徐々に食事が消えていく。
「なんだ⋯⋯食事が何かに吸い寄せられていっている⋯⋯?」
離れた席にいた男が人参スティックを指先で立たせると、ユラユラとブレている。
男が人参を離した瞬間に、まるで渦を巻くかのような動きをしながら、その中心部にいるマシロへと吸い込まれていく。
「あの嬢ちゃんか!!」
「俺⋯⋯聞いた事がある⋯⋯。これは『ゾーン』と呼ばれる技だよ。たしか剣聖が使う場合、相手が剣を振るう場所すべてが調整されて振らされているようになると⋯⋯この場合は何か特殊な技で食材をすべて口に運んでいるのでは⋯⋯!」
「おい、その嬢ちゃんを今すぐ止めろ!!」
離れた席にいた男が叫ぶが、マシロから近い男は『無理だ⋯⋯』と、そう言った。
「なぜだ!」と、そう言いたかったが、次の瞬間に納得してしまう。
「お〜〜い〜〜しぃ〜い〜〜ね〜!!」
とんでもないほどの幸せな笑顔で食べているマシロがそこにはいた。
奴隷のような服装でいままで苦労をして来ていたはずの彼女が、こんなにも幸せそうに食べているのだ。それを止めさすような無粋な男達はここには1人もいない。
ならば、やる事は一つである。
「盗られる前に食え!!」
自分の食事を食べている少女が、いかにして周りの食事まで手をつけているのかは分からないが、止めるつもりがないなら、その前に食べるだけなのだと男達は悟った。
「ご馳走様でした」
ペコリと食事に感謝をするマシロ。だが、盗られる前に食えと言い実行に移したはずなのにもかかわらず、7割はマシロに吸い込まれていたのであった。
「お⋯⋯美味しかったか?」
「うん!!!」
とてつもない笑顔でマシロがそういった。
「それはよかったな」
男達も自分たちの食事は取られたが、その笑顔で許さるを得なかったのであった。
「そういえば、野菜は地元で作ってるの?」
「ん? あぁ、そうだが?」
「それにしては、どうして傷があったりする野菜しかなかったの?」
「分かるのか? ちゃんとした野菜は貴族様に出荷なんだよ。で、傷がついて商品にならない訳ありが俺らの取り分さ」
「なんかそれっておかしくない?」
「あ〜⋯⋯それはだな⋯⋯」
男はチラッと、オウカの方を見るが、オウカも言いづらそうにしていた。
「⋯⋯ふむり。まぁ、それはひとまず置いといて、私も畑に連れて行ってよ」
「まぁ、俺たちはまた作業をする為に畑に戻るが⋯⋯どうしてだ?」
「そんなの決まってるよ。こんなに美味しい野菜が育つ畑を見てみたいんだよ〜」
「そ⋯⋯そうか。なら思う存分見せてやろう!」
自分達の作った野菜をここまで美味しく食べ、更には畑にも興味をもってくれるなら、それほど嬉しい事はないのである。
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「あいつ⋯⋯無事に着いてんのかな⋯⋯」
ルイスは青い空を見ながら、マシロの事を考えていた。
貴族ではないのに、ハキハキとした喋り方に貴族に怯える事もない態度。それに将来は誰もが振り返るぐらいに美しくなると思わされる整った顔に透き通るほど綺麗な肌、さらには一本一本が輝くかのような白い髪は、誰もが王族と言われても納得してしまうだろう。
「おっと、帰ってきたか」
ルイスは、すぅっと切り替えるように表情を変え、馬車から降りてくる主人にお辞儀をする。
「おかえりなさいませ。ベンジャー様」
ベンジャー・スカー。水都において商業を任された貴族であり、現状、水都の貴族においてトップの権限を持っている。
「ただいま〜。ルイスく〜ん。繁盛しているかい〜?」
「えぇ、今日も繁盛しておりますよ」
「そかそか。ルイス君とヴィーナの為にも繁盛してないと大変だからねぇ?」
「えぇ、今年で3年。あと2年の辛抱ですから」
「あはは〜。いいね〜いいね〜。その前にサイフちゃん出ておいで〜」
馬車の中から、露出が激しく出ている女性が2名出てくると、ベンジャーに向かい胸の谷間を差し出すように強調する。
「ご主人様、どちらでしょうか〜?」
女性2人は甘えた声でベンジャーに問い、ベンジャーは「グフフ」と、おもむろに谷間に手を突っ込む。
女性はわざと声を出しながらベンジャーを喜ばしていき、手を抜き終えるとその手には硬貨が握られていた。
「銀貨でございました〜♪」
ベンジャーが、その銀貨を女性に渡すと、馬車の持ち主である男にに優しい手つきでそのまま渡す。
「あ⋯⋯ありがとうございます!!」
男性は顔を真っ赤にしながら叫ぶように返事をしていた。
「⋯⋯⋯⋯」
「どうしたんだいルイスくん? このサイフちゃんにヴィーナを重ねてしまったのかい?」
女性2人がベンジャーの両手に腕を巻きつける。
「ご主人様? この方と仲がよろしぃのですかぁ? 妬いちゃいます」
「ん〜仲いいよぉ。なんていったって僕の婚約者を奪った元冒険者だからねぇ」
「⋯⋯⋯⋯」
「え〜ご主人様より他の方を選ぶなんてぇ、信じられませんわ」
「だよねぇ。だから余興として、5年の間婚約者は地位を剥奪し貧民街で仕事、元冒険者は僕の元でタダ働きにしてみたんだよね。ちなみに5年間は一回も会わさずに、再会したときに本当に相思相愛かどうかとても楽しみだよ」
「ベンジャー様には申し訳ないですが、ご期待にお応えできないと思います。私達は離れていても常に心は一緒ですので」
「いやん。妬ける〜!」
「だから、君達もルイスくん⋯⋯いや、『紅(クレナイ)』を沢山、誘惑していいからね。もし、彼と一緒になれたのなら、これからの人生は永遠に安泰を保証するよぉ〜」
歓喜する女性達の腕をほどき、腰から胸に手を回し掴む。
「ルイスくん〜? ヴィーナ⋯⋯いや、いまは『桜華(オウカ)』だったね。彼女は3年の間で随分と身体つきがおちたよ? 本来ならこのサイフちゃん以上の身体を持っていたのに、いまじゃ萎んだ風船だ。夜な夜な身体を見て泣いてるんじゃないかな? それか、貧民街では女日照りともいうし、あの身体を売ったから萎んでいったのかなぁ〜? どうだい? この子達を抱いてごらんよ。そうすれば⋯⋯」
「ベンジャー様。オウカはそんな事は気にしないですよ。貧民街であろうとどこであろうと、彼女なら困ってる人を助けてあげているでしょう」
そういう彼女が好きなんだと、遠回しに言う。
「そうか〜。まぁ、あと2年がんばって〜。それと今日ここに、変な格好をした子が来たんだって?」
一瞬ビクっと反応するルイスだが、すぐに平静を取り戻す。
「えぇ、来ましたよ。ベンジャー様が気にいるかと思っていましたが、顔に大きな傷がありましたので追い返しました」
「けど、顔以外は中々だったんだろ〜? ルイス君は知ってるよね〜? 僕がサイフちゃんみたいな大きなおっぱいも好きだけど、それ以上に幼女も好物ってことが〜?」
「えぇ、存じておりますが。ああいう素性不明な子供ではなく、正規で買い取った子だけで楽しんでいるものかと思っておりました。ベンジャー様に病気をうつされていてもお困りしますので」
「なるほど〜僕の健康を気づかってくれての行動だったんだねぇ。でも、ああいう拾い子は玩具のように遊べるからいいんだよ。顔の傷なんて反対の方向むかしていればいいんだし」
(反吐が出る)
が、グッと堪え淡々と平静に答える。
「申し訳ございませんでした」
「いいよ〜。ただ、白い髪は特徴的だったんだし、あとでオウカに会いに行くついでに探してみるよぉ〜」
「わかりました。手間をかけてしまい申し訳ございません」
そのまま女性2人と店の中へと消えていく。
(白い髪と一言も言ったないんだがな)
ベンジャーはこの街では腐るほど目を持っているのだろう。マシロの顔の傷は嘘だが、追求されていないのは、髪で見えなかったのだろうと思う。
「⋯⋯⋯⋯くっそ」
ベンジャーにオウカの身体つきが変わっていると投げかけられた言葉が心を抉る。
俺の愛は変わらないと言いたいが、俺の言葉じゃなく桜華の言葉が聞きたい。名前も身分も剥奪され貧民街に入れられ、苦労しているのが目に浮かぶ。
もし、おれが彼女と街を逃げなければ⋯⋯。
もし、おれが貴族の事情を理解していたなら。
彼女と一緒になりたいというのは本心だったが、結果全てに迷惑をかけてしまった。果たしてこれが正解が何かは分からない。もし、俺が他の女性と愛し合えば彼女は助かるのだろうかと毎日思う。
3年と言ったが、その毎日が苦難と後悔に苛われている。そしていつも最後には、彼女からの本心が聞けない以上、5年後に彼女から断罪をしてほしいとさえ思い、この地獄のような日々を耐えることにしていたのである。
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