10日目 探索1

 次の日、傭兵に占領されたはずの水都はものの見事に通常の賑わいを取り戻していた。


『⋯⋯⋯⋯⋯⋯』


 ただ、加害者と被害者の関係性上、和気あいあいになれるわけでもなく、場所によっては両者の空気は重いままであった。


「皆さま、まずは最初に此度の騒動に関して我らはこれ以上干渉しない事に致します。これは蒼龍様のご意志であり変更の余地はない事とご了承ください。そしてこの街を襲った傭兵に関しては、蒼龍様のご意志により、街の復旧などの協力を罰とし、客人として扱うようにお願い申し上げます。怒りなども勿論あると思いますが⋯⋯どうか矛を抑える⋯⋯⋯⋯」


「むぐむぐ」

 姫様が城の広場にて演説をしている最中、マシロは大量のお菓子を貪りながら、数人のメイド達におめかしをされていた。


 白く長い髪は綺麗に結られ、完成されたみずみずしい肌には、新たな手を加える必要もなく、ほんの少しの紅とチークをするだけで見栄えが格段に変わり、神々しさしら感じている。


 外から誰かが走ってくる足音がする。部屋の前で止まり、トントンと鳴ると同時に扉が開く。


「姫様、完成致しましたよ。どうでしょうか?」


「巫女装束、最高!!! 最早、マシロ様は神様と呼べるでしょう!」

 急いで走ってきたせいなのかは不明だが、なぜか興奮気味にハァハァと息をきらしていた。


「本当にでないといけんの〜? 適当に紹介だけでいいよ。マシロは人に注目されたくないのじゃよねぇ」


「ダメです。挨拶だけはしておかないと納得しない人もおおいですから」


「う〜ん⋯⋯分かったよぅ」

 しぶしぶ承諾する。


「では、参りましょう!」


 広場に着くと、マシロのその姿に驚きと歓声が響き渡る。


「では、マシロさま。挨拶をお願いいたします」


「ワタシ、ソウリュウ。コレカラヨロシクネ」

 ロボットの様に右手を90度に挙げ、首も左右にカクカクしながらカタコトに喋る。


「マシロさま、ご冗談はほどほど⋯⋯⋯⋯」

 ここで姫はハッと気づいてしまう。先程までの神々しいオーラはすでにないという事に。

「これはマシロ(偽)! やられました!」

 

 どのタイミングで変わったのか分かるはずもなく、既にどこにいったのかも検討がつかない。


「マ⋯⋯マシロさまーーーーー!!!!」

 姫の叫び声はマシロに届く訳もなく、虚しく空に溶けていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一方の逃げたマシロは、水路に中に紛れ街の中へと現れる。


「ふひぃ〜。私にとっちゃ〜人に見られる中での挨拶なんてものは紛い物じゃよ。やっぱりやるなら⋯⋯ 『現地に赴いての直接っしょ!』


 きらりーんとポーズを決める。


「まぁ、残念ながら⋯⋯服装は水都(ここ)に来るまで愛用してたボロボロの服しかないんだけどねぇ⋯⋯」


 側から見れば孤児、貧民、奴隷にしか見えない格好に着替える。


(正直に動物さんシリーズの着ぐるみは捨てがたいんだけど⋯⋯なんか常に見られている感覚があるから、追跡の魔術っぽいのがかかってるんだよね)


「さーて、食事処(あいさつ)にいくよん!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「⋯⋯⋯⋯」

 俺の名前はルイス。ちょっした事情で貴族達が使用するレストランのボーイをしている。


 しているのだが⋯⋯なぜか目の前に奴隷みたいな格好をしたちっこいのが店の前に意気揚々として立っている。


(元⋯⋯貴族か何かか⋯⋯?)

 格好はともかく、白く長い髪は首に巻いてマフラーみたいにしているが、絹のようなサラサラとした髪に、髪の合間に見えるダークブルーの瞳は宝石のように見えてしまう。奴隷のような格好をしているが、少女の雰囲気は何か神々しさを感じられずにはいられず、言葉にだせない奇妙な違和感を感じてしまう。


「ちっす。お客様1名入ります」

 

「⋯⋯は? まてまてまて!」


 少女は馴染みの店に入るかのようにテクテクと歩いて入ろうとするのを、一瞬呆気に取られながらもすぐさま止めにはいる。


「んお? ああ、あいさつが違うのか。なら⋯⋯お疲れで〜す。今日も頑張りましょう!」


「おまえはいつから俺の仕事仲間になったんだよ⋯⋯」


「えっと⋯⋯今からでいいよ?」


「なんで俺が思われなきゃいけない立場なんだよ。よく見ろ! この店の中にいるお客様を」


「ん〜体脂肪率が多い人が多い?」


「おま! 失礼なこと言うな! あ〜もう、ならあそこの背の高い婦人を見てみろ!」


 スレンダーな身体だが、身体のラインは芸術的に美しくその高貴なドレスが更に引き立っている。

(これなら流石に分かるだろう⋯⋯)


「ん〜。チミにいいこと教えてあげる。おっぱいは成長と共に程よく成長していくんだよ? 男の子だから仕方ないけどあんまり胸を求めちゃいけないよ?」


「ちげぇよ! どこをどうみたら⋯⋯その言葉にたどり着くんだよ⋯⋯。あぁ、もう服だよ! 服! ドレスコード! 元貴族ならわかるだろ? ここは貴族が出入りするための場所であって、元貴族は入れないんだよ」


「貴族? ウチは貴族じゃないよ? どちらかというと食べ物を求める狩人(ハンター)さ!」


「⋯⋯⋯⋯」

(なんだ、この自信満々にいう孤児は⋯⋯! ⋯⋯⋯⋯ただ、元貴族でもないのに⋯この姿は⋯⋯)

 ルイスは少し考え、頭を少し掻く。

「あぁ! もう! しょうがねぇな」

 少女に銀貨を渡す。


「んお? これは?」


「ここじゃ、どちらにせよ食べさせてやらねぇから、ここから真っ直ぐ景観がかわるまで行って、『緑の丘』て言う店に行ってたらふく食え」


「え〜、ここって一番美味しいんでしょ?」

 しゅーんと元気があからさまに落ちているのが分かる。


「いや、確かに材料はここの方が上だが、味は緑の丘の方がいいぞ」

 これは内緒な。と、少女に言う。


「ふむ。ありがとう。なら、そっちに行ってみるよ〜。君は貴族なのにいい人だね」

 

「君じゃねぇ、ルイスだ。俺みたいなのが例外と思えよ? おまえみたいなのはいい商品になりそうだから貴族は基本的に信用はするな」


「わかったー。マシロはルイス君の言葉を信じるよ〜。じゃあ、まったね〜」


「おう。またな」


 少女(マシロ)が去ったのを確認し、すこし安心をする。


 最後に言った言葉は本音だ。あの容姿でさらに孤児なら貴族に見つかれば、言いようにはならないだろう。特にこのレストランのオーナーに見つかれば確実に捕まる。


 緑の丘で食事するのに、正直に銀貨は必要がない。それを渡した理由は緑の丘で働いているアノ人であれば、少女(マシロ)を保護すると確信があり迷惑料も込みだからなのであった。


「にしても⋯⋯へんなやつだったな⋯⋯」

 完成された容姿なのに喋り方は品性のカケラはない。だが、憎めずスゥ〜と身体に浸透するかのように昔から友達だったかのように喋れる。


「マシロか⋯⋯ん? なんか、どこかで聞いたような気もするんだが⋯⋯。まぁいいか」


 深く考えず、緑の丘に行ったときにでも聞けばいいかぐらいに思い、ボーイの仕事へと戻っていった。

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