6日目 出会い
「なぜにゃ〜!!」
水の中でマシロは叫んでいる。無論、誰にも聞こえる事もなく、声が漏れない入物の中で一人で叫んでいる状態である。
「はやい! 早すぎる。まだ数日しか経ってにゃいのに動物達の足が離れていくのが早すぎるっちゃ!」
マシロは、自らの水を口内摂取する。
「美味し! 混ぜ物なし、栄養素満点、美容にもよく効くし、更には体内の毒浄化も良好。糖度もさる事ながら一口含めば味わい豊かな旨味が広がる最高のマシロ水。これまで、沢山の命から作られたこの水に動物達が寄ってこないわけがにゃい!」
だが、現に数日で動物達の姿がなくなっている。
「うわぁぁぁ。極上のマシロ水なのに寄ってこないというのは営業か! 営業が足りないのか! いやだぁ〜! ゴロゴロして美味しいもの食べたいよ〜! ていうより、湖を創って土地をいじった早々にまだ移動したくにゃい〜⋯⋯」
ひぃぃ〜と、顔を両手で塞いで悶えている。
「いや、寄ってこなくてもいい! せめて崖から美味しいものが落ちてくれればそれでいいんや! 神様仏様、どうか崖から天の恵を!!」
天に祈りが届いたのか、空から何かが降ってきた。
「おおぅ! 祈り最高! で、何が降ってきたのかにゃぁぁ〜? 音的には太めの棒みたいなものだから少し大きな蛇かなにかにゃぁ〜」
ルンルン気分で落ちてきたモノを回収して真顔になる。
「⋯⋯ふむ。これは手と言われるものじゃな」
自分の手と見比べても一緒である。
「ひとまず流れ出てる血を⋯⋯⋯⋯ん〜美味し! 新鮮すぎるから血生臭さがなく、傷口から溢れる血はまるで新鮮なフルーツから滲み出る果汁のよう! 高級な栄養を吸っているかんじじゃ。肉質は⋯⋯うむ! これまた美味し! 筋肉量がすくないが、ほどよい伸びに肉の甘味は動物クラスに匹敵する!」
ある程度、口内摂取をすると分解して吸収する。
「はぅぁ〜♪ やっぱ動物系の肉はいいよねぇ。だが、にしても⋯女性の手という事は⋯⋯まだ上に本体がいるのではないか?」
様子を見にいって食べるか迷いはしたものの、働かずして食べたいマシロは様子を見に行く事を断念する。
「そうさ。自分から獲物を獲りにいくなんて働いているのと一緒じゃぃ! だから、あえて言わせてもらおう!」
両手を合わせる。
「神様仏様、今一度⋯どうか! 崖から天の恵みを!」
おでこまわりで手を擦り減らすような勢いで必死に神様に祈った。
そして願いが聞き入れられたのか、再び巨大な音と共に湖に何かが落ちた。
「フゥー♪ マシロ祈りは奇跡をYOぶぜ!」
落ちてきたモノを再び拘束すると、男が女を抱きしめていた。
「あらぁ〜⋯⋯? 本当にあの崖でマシロサスペンスがおこったのかしら? あ、さっきの手はこの綺麗な子のだね。男子のほうは至る場所に傷とお腹周りを剣で無数で刺されてる」
二人とも意識はすでにないが辛うじて生きていたので、少しマシロが観察する。
「ふむ。なんか⋯こう⋯記憶に引っかかる⋯⋯ん〜何だっけ?」
頭に手を当て自分で揉み解す。
「お! 思い出した。アレだ! 男の子は黒髭危機一髪みたいな事されてた感じの傷だ! ふぅ〜、思い出せてよかったぁ♪」
思い出したのに満足をした為、早速食べようとしたが、女の鞄から不思議な匂いがしたので開けてみると四角い白いフワフワしたパンと具材が水中にゆっくりと出る。
それは記憶の断片に確かに残っていた物で、マシロは眼を見開きスローモーションのように感じながらもゆっくりとその物体を目で追った。
そして、具材を元の形に戻るように手で優しく挟む。
「ふぉぉぉぉぉぉぉ!! こ! これわぁぁ!!」
マシロにとって今までにない程、目が輝かせる。
「さんどうぃっちじゃ! これは確か⋯さんどうぃっちと言う食べ物じゃったはず」
鞄の中は中身の具材が違うサンドイッチがあった。
「はわわぁ〜。ど⋯⋯どれ、早速一口⋯⋯」
一口、本当に一口頬張った瞬間、マシロの目からビームで出そうな程光ったのである。
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「ちっ、落ちやがった。最後にあの餓鬼(ウォル)の前で姫を色んな意味でぶっ刺そうとしたのによ」
「そういうな。蒼龍の秘宝である指輪は入ったのだ。それにココから落ちたのなら助かりはしない」
「フン、それは補佐官であったお前に渡したのだから、城にある最高の武防具は俺に寄越せよ」
「いいさ。俺にはこれだけあればいいからな。これを研究すれば⋯⋯いずれ蒼龍と同等の力がつかえるかもな」
「ちっ魔導オタクが⋯⋯。まぁいい、撤収するぞ」
帰ろうとするが、突如周囲に影がかかる。
「なんだ?」
全員が太陽の方を見上げようとすると、そこには巨大な水の龍がいた。
「ひぃ!」
翼の音すらなく何処から現れたのも分からず、傭兵達はあまりにも突然の事に腰を抜かす。
「おい、お前がやったのか!」
「な⋯⋯何もしていない!」
龍の一番近くにいた補佐官が腰を抜かしながらゆっくりと後ずさる。
水龍の口がゆっくり開くと同時に、目からビームが出そうな勢いで輝きはじめる。
「ひぃぃぃぃ!!!」
攻撃を仕掛けてきたと思い込み、全員が青ざめる。
「てめぇ! その指輪持ってるんならなんとかしやがれ!」
「そ、そんなこと言われても分かるわけないだろう!!」
口からも光が溢れ出す。
「うわぁぁぁあっぁっぁ!! 消えろ! この指輪が分かるだろ! お前はもうお呼びじゃないんだ!! だから、さっさと消えてくれ!!」
半ベソをかきながら補佐官は指輪を前に突き出し必死に叫ぶ。
水龍は上を向き、光を放つ直前に人間には耳鳴りにしか聞こえない高い咆哮(んまーーー!)と共に爆散し、周囲に雨を降らした。
「は⋯⋯はは、はははは。やった! やったぞ!」
雨に当たりながら、補佐官は腰砕けながら立ち上がる。
「すごい! この指輪は本当にすごい。あんな姫より俺が調べて使ったほうが本当の価値を知れる。さぁ、早く帰ろう!」
「ちょっと⋯待て。おい、ここに湖なんてあったか?」
「何を言っているんだ? この下の周辺は毎年ゴブリンキングが湧くだろう?」
崖から下を覗くと、湖が現れていた。
「どういうことだ? ここは確かに⋯⋯それよりも⋯⋯」
「あぁ、もしかしたら姫を守る為に水龍が力を貸したのかもしれねぇ」
「だとすれば⋯⋯生きている可能性がある⋯⋯。傭兵達よ。いますぐこの下に向かう」
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「ん〜〜ま〜〜い〜〜!!!」
マシロは身体をくねらせながら、サンドイッチをハムハムと頬張っている。
「むむむ⋯⋯余りの美味しさのせいで龍の姿を一瞬で作ってその喜びを声にしちゃったじゃん! なんというか大声でうんまぁ〜い!! は流石に恥ずかしいけど、それぐらいじゃ足りないほどの気持ちは未だに溢れかえっているね!!」
マシロがサンドイッチを食べてる後ろで、死にかけていたはずの2人の男女は破損部位や傷一つも無くなっており静かに寝息を立てていた。
「た⋯たまごしゃん⋯生のドロドロではなく⋯こんな立派な形になっちゃって⋯⋯くっ!」
目頭に涙を溜めつつ、卵のサンドイッチを頬張る。
「はうぁ〜!! プリっとした噛み心地に身体の芯から疲れが抜き出るようなやさしい甘味⋯⋯ここが私の終着地点か。もう思い残す事はなにもにゃい」
などと言いつつも、鞄の中にまだサンドイッチは残っており、心はすでに未知なる味へ先走っていた。
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「ん⋯⋯んん」
上体をゆっくりと起こす。
「私⋯⋯一体⋯」
辺りを確認し上を向くと絶壁があり、意識がゆっくりと覚醒していく。
「そうだ⋯⋯私⋯⋯ラギ補佐官に腕を斬られて母様の指輪とられたんだ」
すでになくなったはずの右手を上に向ける。
「そして、私が捕まっていたせいでガヴ団長にいいようにウォルが攻撃⋯⋯そうだ! ウォル!!」
隣でウォルが寝ている。
「ウォル⋯⋯あぁ、よかった⋯⋯」
右手でウォルを揺する。
「え? あれ? 右手がある?!!」
「う⋯⋯⋯はっ!」
ウォルが起き上がる。
「姫さま!!」
周囲を見渡すと隣で姫が座っていた。
「姫⋯ご無事⋯⋯? 右手が生えてる? まさか偽物?!」
「そんなわけないでしょ! 指輪は取られたまんまだもん。それを言うならウォルの傷もどうしたのよ!」
そう言われて自分の腹筋を晒してみる。
「どういうことだ? 俺達は助かったのですか?」
「私にも分からないわ⋯⋯ただ一つ言えることが⋯⋯」
姫が後ろを見ると釣られてそちらの方に目を向けて見ると、髪の長い人間が姫の持っていた鞄を開けて何かを食べているのである。
「声はかけたのか?」
「ううん。なんか後ろ姿だけなんだけど、身体揺らしたり、満足感のあるため息をはいたり、本当に美味しそうに食べるから邪魔したら悪いとおもって声をかけられなかったの」
「ならば、私が聞いてきますので、一応姫様は警戒をしておいてください」
ウォルがマシロに近づいていこうとするが、森の中から傭兵達が現れる。
「本当に⋯生きてやがった。ゴキブリのようなしぶとさだな」
「挨拶は必要ないな。どうやって回復したのかは知らないが、さようなら」
手を前にサッとだす。
「しまっ!! 遠距離か」
ウォルが姫の前に立とうとしたが、身体が動かない。
「身体が⋯? なんだ? そんな魔法はしらない」
「何をしておる。さっさと遠距離魔法と矢を放て!」
ラギ補佐官がおかしいと感じ後ろを向こうとしたが、足に根が張ったように地面に張り付いており振り向く事はできなかった。
『お前たちなにをした!?』
一瞬の間が空いた後、お互いが息を合わせたように質問をする。
が、すぐにどちらでもない事を感じ、この状態で唯一動いてる人物が注目される。
「カツ!! これがカツ! 外はサクっと中はじゅーしぃ〜、肉の中にはチーズがトロリ、それに加えパンに塗られたソース、全てが混ざり合って一つになってる〜♪」
一口、一口をゆっくりと味わい尽くすように堪能するマシロ。
「きさま! 何者だ!」
「こちらを向け!」
「この拘束を解かんとぶち殺すぞ!」
傭兵たちがいくら言葉をかけても、トリップしているマシロには伝わる事はなかった。
「そうか⋯⋯なぜ人の姿になっているかは知らないが⋯⋯お前が蒼龍なのだな!」
補佐官が何かを悟ったように叫ぶ。
「だが、残念だったな! 先程の水龍は蒼龍(おまえ)の指輪で木っ端微塵になったわ! 分かるだろう? この指輪の持ち主は既に私であり、そこの姫(クズ)はただの人間だ。分かれば私達の拘束を解き、その二人をさっさと殺せ!」
傭兵達もその言葉を信じたのかニヤリと勝ち誇りはじめる。
「返して! その指輪にそんな効力はないわ! それはお母さんの形見なの」
「馬鹿か! 親から代々仕えてきた龍の眷属。その証は必ずあるのを知っているだろう!」
「そんなの知らな⋯⋯い? え? いや、私は⋯⋯知っているはず」
頭を抱える。
「姫様?」
ウォルが声をかけるが、何かをぶつぶつと言っている。
「ウォル⋯⋯先程いっていた『龍の記憶領域』⋯⋯本当だったかも。確かにあの指輪は蒼龍の指輪で間違いはないけど⋯⋯あれはただの⋯⋯お母さんからもらった普通の指輪だったはず⋯⋯」
記憶に混濁が見えるのか、信じると嘘だった両方の感覚が姫を悩ましていた。
「蒼龍! 聞こえないのか?! さっさとこいつらを始末して拘束を解けと言ったの⋯⋯⋯⋯だ?」
ラギ補佐官の頭だけが地面にボトリと落ちる。
「え? あれ? 私は一体どうなっているのだ?」
状況が理解できていない全員が、沈黙と困惑に固まる。
頭だけになった人間が生きている訳がない。なのに、足は根が張って動けないが手は自分の頭があった場所を確かめるように動かしている奇妙な状態。
先程まで離れていた場所にいた筈の少女(マシロ)は音も無くいつのまにか補佐官の前に立っていた。
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