4日目 変化
「はぁぁぁぁ〜」
静寂だけが残る洞窟内で、マシロは溜息だけを漏らしている。
「ああいうジャイアンを先に食滅(たべて)おけば⋯⋯あの生活⋯⋯もう少しぐらいは続いていたのかなぁ」
数週間のぐーたら生活を名残惜しみながら、綺麗になった洞窟内にただ寝そべっていた。
「ま、考えても意味ないし、どちらにせよ⋯もう一ヶ月持たなかったのかもしんないし、もういっか〜」
次に活かす為の反省点を考えていたのだが、結局その考える労力の方が疲れるので、さっさと気持ちを切り替える。
「て言っても⋯⋯まだ動くの面倒じゃのぅ〜」
運んでくれそうな動く物体はすでに跡形もない。それどころか洞窟内は虫1匹すらいない程、綺麗になっていた。
「にしても、ゴブリンの肉⋯⋯残念だった」
『ゴブリン』
肉質:硬い
臭み:強烈
味:生ゴミだけど所々美味な部分有った
総合評価:★☆☆☆☆
「あの巨大ゴブリンに関して言えば、骨のキワ周りのお肉は美味しかったと言える。他のゴブリンとは何か違う存在だったのかなぁ〜。まぁ、喰べれるのだから、そんな大差はないんだろうけど」
マシロの栄養補給は口内摂取による消化なのだが、ゴブリンの時にしていたのは分解してからの栄養補給である。
分解というのはマシロの体液が相手に浸透した時点で勝敗は決する。相手の体液をまずは奪いつつ自分の体液に変換して増殖。
マシロが体液の代わりになった時点で、身体の神経部分を侵入(ジャック)して、感覚機能を全て奪いとっていた。
先程のゴブリンのように痛覚を切らなければ、本来なら絶叫死してもおかしくない状態でも意識を繋げられながらじっくりと喰べられ、普段の動物達のように夢心地の中、食べたりもしていた。
(そもそも動物の肉に評価はつける必要ないよね? 美味しい以外ないもん)
「さて動くのもめんどいから、ここで適当に形成すっかぁ〜」
寝たままのマシロから水が大量に漏れはじめ、瞬く間に水かさが増し、洞窟内を圧迫しつつ入り口から鉄砲水のように吹き出し、吹き出した水は木にぶつかると枝分かれして地面を木を濡らしながら水浸しになっていく。
洞窟の入り口からは未だ水が衰えることもなく吹き出しつつ、地震が起きたかのように地面が揺れると、地面が陥没し、樹木は陥没した場所から避けるように外へと押し出されていく。
「ん〜崖の下にこの洞窟があったんか〜。この崖登れそうにないから押し出した土や木で斜面を形成しよっと。動物達が誤って落下したらそのまま食べれそうだし」
地鳴りと地震は数回繰り返され、それが止む頃には断崖絶壁のような崖は、斜面が施され崖の上からの景色は湖が広がり壮観であった。
「ふぃ〜なかなか良い景色じゃ〜」
早速出来上がった新しい場所を崖の上から見て満足する。
「移動した木も不自然にならず、栄養も私の水から摂れるし問題はないかなぁ。あとは食べ物がわんさかきてくれるだけじゃのぅ」
そう言いながら、崖の端っこまで歩き少し周りを景観した。
「テンテンテーン⋯⋯」
何かの曲を口で発しながら、後ろから声がかけられる。
「一連の殺人事件の犯人は貴女ですね。女将さん」
と、マシロが言い。
「えぇ。そうよ。全て私がやった事よ!」
と、マシロが叫ぶ。
「どうしてですか! なぜ?! 貴女はこんなに周りに慕われていたのに2人の尊い命を奪い取ったのですか!」
「そ⋯それは⋯あの人は! あの人は! 私の大事なプリンを勝手に食べたからよ!!」
「!!!!! 旦那を殺した犯行動機はそういう事だったのですか! ではなぜ? 2人目の彼女は! どうして殺したのですか!?」
「彼女は⋯⋯見てしまったのよ⋯⋯」
「見てしまった⋯⋯まさか⋯旦那を殺す場面(シーン)をですか⋯」
「違う! 私が1日一つしか食べてはいけないプリンを2つ食べてしまった場面よ! だから! だから彼女を口封じするために⋯⋯!」
「なんてことだ⋯⋯そういう訳だったのですね⋯⋯」
「でも、それももうおしまい⋯⋯私も⋯⋯この崖から落ちて死にます」
躊躇なく崖から飛び降りるが、ギリギリ手を掴まれる。
「はやまらないでください! まだ貴女は生きている! 生きてるなら償って下さい! だから! だからこの手だけは⋯⋯絶対に離しません!」
「お願い! 死なせて! 私にはプリンが食べられない生活なんて耐えられないのよ!」
「そんな事言わないでください! 確かにたくさんの時間を償いに費やすでしょうが⋯⋯それでも貴女にはまだ食べれる未来(プリン)があるじゃないですか!」
「!!!!!! わ⋯わたし⋯⋯未来(プリン)の為に生きていていいの?」
「えぇ、勿論です! 償いが終わったら私が一流のシェフを呼び最高級のプリンをご馳走しますよ!」
「!! ⋯⋯ふふ、ありがとう。でもやっぱり⋯⋯」
そういって掴まれていた手を振り解き、崖から落ちる。
「どうして!」
「最高級のプリンなんてプリンじゃないのよ。安くて美味しいプッチンプリンこそ至高。それが分からない人に助けられたくはないわ」
そのまま水中へと消えていった。
「ああああああああああ⋯⋯」
膝をつき、悔しんでいると、その後ろから更に声がかかる。
「はい、カット! マシロサスペンス完結じゃ。こういう崖があると一度はやってみたくなるよね。それに他のマシロを生成さえすれば瞬時に本体の意識を移せる事も判明。これはなかなかの収穫じゃ」
崖から落ちたマシロも、膝をつき悔しんでいたマシロの水となり消えていく。
「にしても、記憶は穴が空いてるから記憶同士を適当にくっつけただけなんだけど⋯⋯プリンでここまでの事件が起こるとは⋯プリン恐るべし⋯」
沈みかけている夕陽を見送る中。
「プリン⋯⋯⋯⋯一度でいいからたべてみたいな⋯」
記憶の中にある存在。味など一切分からないのだが、その魅惑的な姿を想うだけで、少しだけ哀愁を漂わせ夕陽だけが静かに沈んでいく。
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数日後。
樹木に群がる小動物達。湖で水分を得る動物達。新しくできた湖はマシロの思惑通りに動物達で賑わっており、ただその場にマシロの姿はなく、マシロ自身は湖と同化しユラユラとまったりしながら動物達の会話を聞いていた。
(最近、森が騒がしいよね)
(そうそう、侵入者が多くなって奥に行くしかなくなったし⋯)
「ふ〜む。森って騒がしくなるのかぁ」
会話は使わないと忘れてしまう。その記憶がある為、動物達の会話に合わせるように自分も独り言を言うようにして、情報収集と同時に喋る事を忘れないようにしていた。
(侵入者には本当に迷惑だよね。自分達の住む場所を作る為に木を切ったりするんだし。図体だけ大きいだけで私達みたいに森と共存もできないようなアホな種族)
(言えてる。ほんと⋯森があるから生きれてると自覚すら出来てないよね)
「木を切る種族かぁ〜けど、リスにアホって言われる種族ってどんな生き物だろ?」
『ほんと、いなくなればいいのに⋯⋯あのニンゲン達』
「とうとう⋯⋯この日がきたか!」
人の世界があるという確信、そしてやはりというべきなのか、少しずつ人の里へ近づいていたのだと実感したのであり、この時既にマシロの頭の中には、沢山の調理をされている料理を頬張る姿や、玩具に囲まれた空間でゴロゴロしながら本やゲームを堪能している生活を描いていた。
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『姫様! 私達の事は構わず⋯⋯蒼龍様の事だけを優先にお願いいたします!』
必死に逃がそうとする使用人達。
「分かったわ! すぐ⋯⋯戻ってくるから⋯⋯! 必ず蒼龍様の御加護を戻すから!」
使用人達は頷く。
燃え盛る城を背後に馬を走らせる一人の騎士と姫。
「なぜ⋯蒼龍様は⋯⋯私達を助けてくれないの⋯⋯噂通り⋯私達は見捨てられた⋯⋯?」
御加護を戻すというのは方便、姫はどうすればよいのかすら分からず、ただ馬を走らすしかなかった。
「姫様、今はその様な悪い考えにとらわれぬよう⋯⋯そして、皆の為に一刻も速く蒼龍様の御加護を元に戻すことだけを考えましょう」
「えぇ⋯⋯そうね。こうしてる間も⋯⋯私達の国が⋯⋯」
背後では使用人が捕まっており、私達が出た事を知る兵士が追撃の準備を大声で叫んでいる。
(蒼龍様⋯⋯⋯⋯私達をどうかあなたの元へ導いてください)
心の中で強く祈りながら、馬は森の中へと入っていった。
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