2日目 ゴブリンとの生活

 前回、ゴブリンが放った矢に見事的中をして、殴られて気絶した⋯⋯のが普通なのかもしれないけど。ぶっちゃけて、私は気絶とかできませんーーというよりできないのである。それと同様にわたしには、基本的に睡眠なども必要としないのだが、これは使ってない部分が休息をしていると思われる。


 そもそもドラゴンに飲まれても死ななかった私に死が訪れるのかどうかも謎な訳なんですが⋯⋯まぁ、それはおいといてーーそのゴブリンに担ぎながら運んでもらっていると、とうとう集落らしきものに到着。


 祝! 初(はつ)人型(?)の集落へ!


 私の頭では盛大なパレードが開催されている。人ではないにしても初ゴブリン! 武器を使うって事は知能があるって事だ。


 ゴブリン達は私の様子を見た後、歓喜の声を上げる。矢が刺さっていた場所と頭を見て、傷が無いことに多少の疑問を持ちながらも檻の中に放り込まれた。


 もちろん両手両足には粗末な鎖っぽい物を付けられてはいるが、動く事はできる。


(きゃっふー! 鎖があるって事は、鍛治っぽい技術もこの世界には存在することやん! となると、人がいる希望が湧いてきたんじゃない!)


 いまはとりあえず、情報がいる! けど、その前にゴブリン達を満足させておこう。


「ん⋯んん」


 周りを見渡すと自分の現状を理解して絶望の表情を浮かべながら檻をガチャガチャと揺らし許しを求める女の子を演じる。


「なにこれ?! たすけて! だれかたすけて! ここから出してよ!」


 その様子を見ながらゴブリンは歓喜し、さらに私を恐怖に陥れようと、骸骨の頭をカタカタと動かして笑う。


「ひっ!!」


 尻餅をつき顔を伏せる。


 それから暫く遊ばれていたが、ゴブリンはあきたと同時に去っていく。


 私は、側から見れば生きることを諦めた絶望に陥った少女に見えるだろう⋯⋯と思う。


 けど、実際は⋯。


(あ〜もう⋯なんか飽きちゃったなぁ⋯)


 情報が欲しいが演技するのも飽きた為、俯いたまま力なくダラけていた。


 辺りを見渡すと、他に捕まっている人の姿はなく骨もそこまで数があるわけでもなく、人かどうかも怪しい様子。


 結果、もし人がいた場合、何者かがこの森に死体を遺棄、もしくは人がたまたま迷い込んだ所を捕まるぐらいだろうと推測はしてみるが、どうでもいいのですぐに考えるのをやめる。


 実際、檻の前を通り過ぎるゴブリン達は、私をチラ見しながら涎を流し喉を鳴らしているので、食べたいのをかなり我慢をしているのだろう。


(チラ見すんなし)


 などと考えていると、ゴブリンが果物が入った木皿を檻の中にいれる。


(⋯⋯ふむ)


 恐る恐る果物に手を伸ばすと、採ってきたばかりなのか艶とハリがある美味しそうな果物だったのですぐに食べる。


(⋯⋯ふむ。ふむふむ)


 一口食べれば、あとは皿にある果物を次々と食していく。


(⋯もぐもぐ⋯もしかすると、先程のゴブリン達はご馳走があるのに、この姿では食べ応えがない為、太らそうとしているのかもしれない⋯⋯もぐもぐ)


 皿が空になると、ゴブリン達は新しい果物を入れてくる。


(⋯⋯もぐもぐ⋯⋯こう考えてみると、やはりゴブリンの知能はそこまで高くないのか。この小さな姿で太らしてもたかがしれてるし、こんな不衛生な場所なら味はどんどん劣化していくだろうに⋯⋯もぐもぐ)


 全て平らげると、手を合わせご馳走さまをする。


(⋯⋯ふむ。だが、まぁよかろう! 私を太らせて食べるつもりなら、その挑戦に乗るのも一興じゃ!」


 ゴロンと横になりだらける。


(あえて! ここではあえて私はなにもしない! だから、食事だけどんどん持ってくるがいい! その全ての挑戦を受け止めてあげよう)


 タダで食事がでるなら文句はなく、元より湖になってゴロンとするのと状況は変わらないので、私は檻の中でゴロゴロとする事に決心したのであった。


 大切な情報収集? 食べ物が勝手に出てくる以上の情報って、生きるために必要ないよね?


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夜になると、マシロは体から一滴の滴を落とす。


 その一滴の滴は地面に落ちると即座に一回り大きくなった。


(う〜ん。やはり不衛生じゃのぅ)

 ぐーたらは好きだが、汚いのは好きじゃない。動くことは苦にはならないし嫌いではないはずなのにぐーたらしたいなど、記憶の持ち主はどんなめんどそうな人格をしていたのか疑う程、変な意識なのかこだわりを持ってしまっている。

(にしても、この記憶の人物ちぇ⋯⋯絶対にモテなかっただろうなぁ⋯⋯)


 まぁ、記憶の残滓については、所々の場面は思い出せるがその全ては技術に関してであり、本人の生活や友人関係、何をしていたかなどは全て思い出す事はなかった。


(こう考えると⋯⋯思い出せないではなく消去されている感じかもね。けど、その場合になるとなぜ全部じゃなくて本人の記憶だけなんだろう? う〜ん、そうなると消去の線はなさそう⋯⋯?)


 などと考えていると、背中にフヨンと柔らかいクッションの感触ができたので、そのままもたれかかる。


(ふ〜む。消去ではなく記憶によって抑え込むーー封印の強度が違うとか?)


 クッションの中を沈み込むかのように、もたれかかりながら暗い天井をただ暫く眺め、ふと身体を起こして立ち上がる。


 するとクッションはマシロの中へと吸収され、再び指先から一滴の滴を地面に落とすが、先程のように一回りおおきくなる事はなく、そのままマシロの元に還っていく。


 それは、この辺りの細菌類や汚れなどは全てマシロにより支配・吸収された証拠であったが、先程と洞窟内の見た目は変わってはいなかった。


(これで新しい汚れが出そうならすぐに浄化・洗浄もできるし、衣食住のうち食と住は済んだと。あとは衣類なんだけど⋯⋯こればかりは当分、この服に頼るしかないね⋯⋯)


 衣食住の食住は、どんな状況でもクリアできる自信はあるのだが、それを実感するたびに衣だけはどうしようもないとひどく痛感する。


 この姿がおっさんなどであれば気にすることもないのだが、今の姿で奴隷みたいな格好をさせるのは、誰に対してなのかは分からないが、なぜだが失礼な気がして堪らないのである。


(まぁ、考えてもどうしようもないんだけどねぇ)


 ゴツゴツした洞窟内だが、マシロが横になると同時に薄い水のマットが発生し、まるで空を浮いているかのようにフワフワした感触の中、幾多の考えを整理していき、最終的にはーー。


(明日の朝ごはんは何かなぁ)


 などと、食べ物の事を考えながら夜が明けていくのであった。

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