夜中の焼うどん②
「江上は何でこの学校の理事長になりたいんだ?」
こうして二人きりで喋ることはあまりないので、前から気になっていたことを問いかけてみると、何故かビックリされた。
「驚くような質問でもないような……」
「えっと……ね。里村君が私自身に関心持つのが意外だなぁって思っただけ」
「興味示したらキモイと思うだろ?」
「思わない! 思うわけないじゃん!」
「どーかな」
「だって、今では里村君のこと、ウチの学校で一番凄い人だって思ってるし!」
「それって、今だけだろ。近々中間試験があるし、江上の中での俺の評価はガタ落ちすると思うけどな」
話が脱線したな、と思いはしたが、江上の心情を聞ける珍しい機会なので、突っ込まないでおく。
「前はね。何でも卒なくこなす人が凄いって思ってたんだ。だけど、君と関わってみて、考えが変わっちゃった」
「何でも卒なくこなす人の方がうまく生きていけると思う。以前のお前の評価は何も間違ってない」
「えー」
「お、この茄子の煮浸し旨いな!」
茄子の味わい深さに大袈裟に驚いてみせると、江上は少し首を傾げてから、ニッコリ微笑んだ。
無理矢理話題を終わらせたのがバレたか。
「……理事長になりたい理由について聞きたいんだったね」
「うん」
「この学校を守りたいんだよ。昔、ここでお姉ちゃんや幼馴染と毎日みたいに一緒に遊んでたんだ。私は両親から存在すら忘れられちゃってたけど、ここでは孤独を感じずにいられた」
「ああ。理事長の家が敷地内にあるから、ここが遊び場になってたのか」
「そうなんだよ。他の学校と合併になるって聞いて、この学校の中から生徒の姿がなくなるのかなって想像したら……、凄く嫌だった。寂しくなった」
てっきり、彼女は将来への不安から、就職先をキープしておきたいんだろうと考えていた。
だけど、実はもっと純粋な願望によるようだ。
いままで俺は“思い出の場所を守りたい”って気持ちを持ったことがないけど、支援しない理由はない。
「ちゃんと協力するから、守ろう。この学校を」
「うん!!」
元気良く返事をした後、江上は予想もしていなかった事を口にした。
「そうそう。私のおじいちゃんが、是非里村君と話してみたいって言ってたんだけど、会ってくれないかな?」
「は!? 理事長と!? い……嫌だ」
「明日のお昼にね、私達二人を料亭に連れて行ってくれるんだって! 一緒に美味しい物食べよう!」
「お前の料理で充分だし」
「……!!」
江上は赤面し、目を彷徨わせる。
何でそんな反応をするのかサッパリ分からないけれど、もう一押ししたら、休日を潰されずに済みそうな感じだ。
「それに、最近ずーと、お互いの顔見てるし、お前だって飽きてきただろ? 一日会わない日が有った方がいいと思うんだ」
「………………明日の十一時に、君が住むマンション前に迎えに行くから、準備してて」
眉間に皺を寄せた彼女は、一本調子で明日の予定を告げ、足取りも荒く理事長室を出て行ってしまった。
その後ろ姿に、俺は目を瞬かせる。
――江上も怒ることあるのか……。
いつもニコニコしている彼女の意外な一面を見た。
俺に容姿を貶されたと勘違いしたのかもしれない。
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