合唱部始動!④

 控え室に戻った俺達は、楠木さんが饅頭をカウントする間に雑談する。


「里村君。さっき弾いたのって、確かショパンの曲だったよね!?」

「うん。ショパンのエチュードで『木枯し』って呼ばれている曲」

「へ~! 木枯しって言うのかぁ……、確かに葉っぱがパラパラと舞い踊るような感じだったかもしれない!」


 どうやら、俺の曲はそれなりに秋の風景を表現出来ていたようだ。

 少し嬉しくなる。


「私、コッソリ録音したよ。後でYouTubeにUPしてもいい?」


 染谷の聞き捨てならない言葉に慌てふためく。


「ゲェ!? しなくていい!! 低評価付けられて、心が死ぬから!」

「何で……? 凄かったのに」

「俺の事はどうでもいいんだよ! それよりも楠木さん。今回俺達は合唱を披露する予定でしたが、最後に俺がピアノを弾いてから貰った饅頭は無効扱いになりますか?」

「いや。理事長に出された条件の中には、“最初に決めた演奏方法以外でパフォーマンスをしてはならない”という文言は無かった。大丈夫だと思うよ!」

「そうなんですね。良かった……」


 彼の言葉にホッとする。


 それにしても、籠の中の饅頭は幾つなんだろうか。あの時、ホールの中に居たかなりの人数が立ち上がり、饅頭を投げてくれたけれども……。

 楠木さんは食いかけのモノを包み直したりしているが、それは二分の一扱いだったりするのか?

 考え始めるとキリがない。


 ハラハラと見つめる俺達の目の前に、饅頭タワーが積み上がった。


「獲得個数は全部で五十二個! 残念ながら八十個までは二十八個足りていないね。悪いけど、理事長に預かっていた楽譜は渡せないよ!!」


 その言葉を聞き、江上はガクリと肩を落とした。

 勝手にピアノを演奏し、変な期待を持たせない方が良かったのかもしれない。

 落ち込む彼女の姿を見ていると、無力感が襲いかかってくる。


 控え室の空気は俺と江上の所為で鬱々としていたのだが、勢い良く開いたドアがそれを打ち消した。


「ちょっと待ちなよ!!」


 入室して来たのは、受付担当の怖いオバちゃんだ。

 何故か中くらいのサイズのダンボール箱を持っている。


「華さん、一体どうしたんだい?」

「どうしたも、こうしたもないよ。この子達に饅頭を持って行ってもらうのさ」

「え……」


 呆然とする俺達の前で、彼女は箱を逆さにした。

 テーブルの上にドサドサと落ちた丸い和菓子は、パッと見三十個程ありそうだ。


「華さん、困った人だね……」

「何言ってるんだい! 食って無くなる物を投票に使ったあんたが悪いんじゃないか! あたしは饅頭を食っちまった人等に相談を受けて、意を汲んでこれを持って来たんだよ!」

「うーん……。やれやれ。そういう事にしてあげようか」


 よく分からないけれど、楽譜を貰える流れなんだろうか。

 俺達は顔を見合せて、ニンマリと笑い合った。

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