第2話 入学式
ブレザータイプの制服に身を包んだ私は珍しく緊張して学校が用意したパイプ椅子に座っていた。
合格発表の日は落ち着いていた。私の本当に気になるのは今日じゃない。合格はある程度分かっていた。自己採点を見れば合格なのは分かっていた。
封筒にしまわれた合否の判定にはたっぷりの余白が設けられていて”合格”の二文字が記されていた。その紙にも私の欲しい情報は書かれていない。
「はい、じゃあ合格した人は事務手続きがあるからこちらに進んでください」
落ちた人を横目に事務手続きのために校舎に入る。校舎の中は歓喜の声が聞こえてくる。
「はいはい、速やかに手続きをすましてね~」
さっきまで丁寧語だった教師が生徒を扱う口調になる。まだ正式にはそうでは無いけど私はここの学生になったのだと実感する。
結局、私が欲しかったものは手に入った。それは風町高校に入学するというのは当然として、1位という順位だった。
家に届けられた封筒には新入生代表の挨拶をお願いしたいとの旨の手紙が入っていた。私だって勉強をしてきたのだから1位になると嬉しい。
その手紙を胸に抱いてベットに寝転がる。次の日に私は入試勉強で使った問題集などを捨てた。もしあれだけ頑張って1位じゃ無かったらこの問題集を見て心を落ち着かせたかったのかも知れない。
恐らく、今日の入学式で誰よりも緊張しているのは私だろう。
同じ高校を受けた名前も知らない同じ中学の生徒は落ちてしまったらしく今年この高校に進学したのは私だけ、それに新入生代表の挨拶はとにかく緊張する。
原稿を確認したい欲求に襲われるが何度も出し入れをして紙にシワが出来てしまっては恥ずかしい。ただでさえ親戚の人などからは幼く見られるため舐められたくないのだ。
式は順調に進んで、新入生代表の言葉となる。
「新入生代表、新見 真智」
生まれてからずっと一緒に生きてきた名前を呼ばれて短く返事をする。そして用意されたマイクの前に上がる。用意された原稿を取り出して読み出す。
奇抜なものは用意していない。一般的な普通と呼ばれる類の無難な言葉。しかしそれでいいのだ。私が入試で一番だということを周りにアピールしておきたかった。
私が生徒会に入りたいと思ったときにこの結果は役に立つだろう。
次に在校生代表の言葉。
「在校生代表、七里 響子」
講堂の隅まで通るような大きい声で返事をした後に立ち上がる生徒は女子生徒でショートカットで活発そうな人だった。代表は生徒会長。
私も、あそこに行きたい。
私の目標は生徒会長。自分は身長も声の大きさも今の生徒会長に比べると劣るけど優秀だという点は負けないようにしたい。
私のこれが普通というスピーチとは違った内容だった。所々に笑いを入れてるのに式の厳かな雰囲気は壊さない上手なスピーチ。流石生徒会長と声が後ろから聞こえてきた。
その後、学校に新入生の私たちが慣れてきた頃についに生徒会の役員の募集がかけられた。
”学校を中心で引っ張りませんか?”というキャッチコピーには賛同できない。中学の生徒会活動を振り返って私が考えたキャッチコピーは”学校代表の雑用係募集”が正しい。間違っても誰かに話したりはしないけど。
しかし、そんなことは気にしない。中学では慣れなかった生徒会長になるんだ。それに生徒会では学べることも多いのも知っている。
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