私の先輩に関すること

おじん

第1話 志望校を決めた理由

この苦しさの原因はどこから来ているのだろう。それは分かっていた。私の不自由な真面目な性格からだろう。


八月の残暑が残っているのか空から降り注ぐ光が体にぶつかって不快な汗が生まれる。


家の姿見で何度も身だしなみを確認したのに最終チェックをしたら不備が見つかった。そのせいでバスの時間に間に合わなくて暑い中歩いているのだ。人気の無い路線のバスの間隔は残酷だった。


もうすぐ中学校生活最後の役割が終わると思っていたセーラー服に汗が滴り落ちる前にポケットからハンカチを取り出して拭う。副会長を務めた私がこんなところでセーラー服を汗で濡らすわけにはいかない。


暑い、暑いと思っていたが周りは青々とした緑に包まれていた。

バブル時代に開発が開始されて中途半端なところで止まってしまったニュータウン計画の場所に目的地の高校はあった。交通量が少ないのに道は幅広に設けられていた。緩やかな坂はまだまだ続いている。駅からも遠く、公共交通機関というものはバスのみ。


少なくとも立地は微妙…という評価になるだろう。


しかし私の評価はそんなところに重点を置いていない。私が輝ける場所、それだけ活発な学校。


やっとのことで目的地の風町高校の正門に到達する。

風町という名前は旧地名から取ったらしい。つまり今のニュータウンが出来る前に既にこの高校は存在していた。


同級生は、この高校が駅から離れていて立地が悪いという理由で見学にも来ないが私は歴史あるこの高校に興味が出たのだ。何故だろう、偏差値が高いからかもしれない…。どうなのだろうか行ってみると分かるかもしれない。


私の高校選び誰よりも早く始まった。

私が行くなら退屈な高校は嫌だ。そう思った私は動き出した。しかし高校の案内パンフレットが部屋に山のようにに積み上げられていった。高校を見る目は上達したようだが目指す高校は見つかっていない。


そろそろひとつの高校を見つけて受験勉強に専念したいところだがここで妥協したくない。



飾られた校門には多くの人が入っていく。汗を吸い込んで湿っているハンカチを顔に当てると文化祭を見て回ることにする。今日は文化祭を利用して学校見学に参加するのだ。


入り口ではパンフレットを貰い展示を見てまわる。私立の学校なのもあって展示は豪華で面白いものが多いと思う。それと生徒が楽しそう。


緩い坂を登ってきたこともあって足に疲労が溜まってきた頃に中庭に向かうと複数のベンチの真ん中に生徒会の展示が置かれている。パンフレットで確認すると展示物の名前が書いてあった。


捨てられたモノのモニュメント


そう書かれた展示物はらせん状に天に伸びた塔のようなもの。


キレイ…


素直にそう思った。赤いらせん状の塔は綺麗な赤色でキラキラと光っている。思わず駆け寄ってしまう。休もうと思う要因になっていた足の疲労がもう気にならなくなっていた。


近くによるとタイトルの意味を理解する。

キラキラと光っていたものはゴミだった。捨てられていたであろう塗装が剥がれた空き缶に金属片、それが埋め込まれている。それらのゴミは遠くから見ると綺麗に光って見えていたのだ。塔全体の表面も赤色の塗料で着色されたゴミを細かく砕いて貼り付けたものだった。


遠くから見ると綺麗だけど近くで見るとゴミ。なんでこんな展示物を作ったのだろう。私は既にその作品の虜になっていた。


側にあった説明が書かれた看板を眺める。文章を読むのは生徒会活動で慣れている。興奮していたこともあって時間をかけず読み終わる。


これらのゴミは生徒会の清掃活動で拾ったもののようだ。学校周辺に捨てられているゴミをこうやって綺麗なモニュメントにすることで注目してもらってゴミがこれだけ捨てられているという現状を知ってもらう目的のようだ。


合理的で賢い…それに美しい。


この高校の生徒会はなんて素晴らしい。私は気が付くと学校のパンフレットを貰っていた。


帰りのバスの車内でこっそり風町高校の偏差値を調べる。スマホの小さな画面に予想より高い偏差値が表示される。静かにボタンを押して画面を消す。


まあ、しっかり勉強すれば大丈夫か…


普通ならば少しは臆するのだろうが、到達点がしっかり定まれば後は努力するだけなのだと前向きに捉えることが出来た。


努力は好きだし得意だと自信があった。部屋にあったパンフレットの山を処分して毎日同じように勉強をしていたら時間の流れるのはあっという間だった。

 

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