2-2
時が経つのって本当に早いなと感じる夏休みも終盤にきた今日。私は、あの日から来栖くんの言葉が頭から消えなかった。
来栖君が私のことを好き? 考えてなかった。というより、来栖くんが私に気づかれないようにしていただけなのかもしれない。だとしたら……、気持ちに応えられなくてごめんね? って、言いたい。
そのとき、一件の新着メッセージが来た。仰向けになっていた体を起こし、スマホを開くと、
その時、家に一本の電話が来た。電話に出ると
「えっ先生?」
電話の相手は、桜庭先生。大好きな人。電話の内容は、進路の話が聞きたいからどこかに出かけようとのこと。進路の話なんて、二学期が始まってからすればいいしそもそも生徒を連れ出していいのかって疑問に思った。だけど、先生に会えるからすごく嬉しくなった。
待ち合わせ場所は、人混みが少ない公園。時間より少し前に来ていた先生は、いつもと違った雰囲気でかっこよかった。
「どこに行くんですか?」
「ん、着くまでのお楽しみ」
先生の車に乗って、分からないところへ。ドライブが始まってから数時間。きれいな海が見えてきた。
「海だ!」
車から見えた海から少し離れたところに車を止めて、海へ行く。
「人、いないな」
「まあ、あまり有名じゃないからね。ここ、穴場スポットだから」
好きな人と海に来るなんて、ずっと前からあこがれだった。そんな所に先生と来れてすごく嬉しい。
「橘、聞いてほしいことがあるんだ」
ん? 私の進路の話じゃなかったの?
疑問が頭に浮かびながら、先生の話を聞くことに。先生は、春に新任デアは行ってきた話から始めた。それから、私のクラスの担当になった話もして、そして。
「数学が嫌いで授業もまともに受けてないけど、他の場面で頑張っている橘を見てたら、元気になれたんだ。その元気、これからも分けてくれないか?」
「えっ?」
それって、どういう……。
「俺、橘が好きだ」
えっ。
「私が告白したとき、あんなこと言ってたのに?」
「あれは、突然すぎてどうしたらいいかわからなくて。本当は、好きになりかけていて。でも、仕事上ダメだって踏みとどまって、あんなこと言っちゃったんだ。でも、そのあと気づいた。好きなんだって」
今、すごく嬉しい。今までで一番。
「橘、俺と付き合ってほしい」
「はい。お願いします」
「ほら、おいで? 美波」
大好きな人からの名前の呼び捨て。一番聞きたかった。
「先生……」
夏休みが終わって新学期が始まった。二学期は、三年にとってとても大事な時期に入る。夏休み中、自分の進路について考えてみた。今まで自分がやってきて楽しかったこととか将来につながりそうなことを。そしたら、ある一つの答えにたどり着いた。
私は、絵を描きたい。
二学期が始まって最初の二者面談。自分の番の日が来た。
「では次、橘さん」
「はい」
先生との二者面談が始まった。
自分のやりたいことが見つかってから、夏休み中はネットで調べて大学に行ってみたりなどをした。少しでも、自分のやりたいことができるように。
放課後、とあるところに向かった。私が来たところは、数学準備室。
「お、橘」
「先生。今日、ちょっとお話したいことがあって」
自分のやりたいことがわかったんだということを直接言いたかった。だから、私は数学準備室に来た。
「そっか。好きな人のことは全力で応援するから、頑張れよ」
「うん、ありがとう」
「橘」
先生が優しく抱きしめてくれた。
「先生」
私は、今が幸せすぎて全く気付かなかった。
この状況を、誰かに見られていたなんて───。
二学期に入ったら、翌月には文化祭がある。私たちのクラスは、縁日をやろうということになった。文化祭の準備は、今月の半ばから始まる。
準備期間は、みんな、部活が終わった後に手伝いに来たり部活に入っていない人は帰りのホームルームが終わってすぐに準備に取り掛かったり。この学校の文化祭は、それぞれ賞があって、教室内のデザインのナンバーワンを決める『ベストデザイン賞』、最もお客さんを楽しませられたクラスに贈られる『ベストゲスト賞』などがある。
準備期間中、私たちのクラスはいい感じに団結できた。部活の人たちの半分は、手伝いに来てくれてみんなでいいものを作ろうという気持ちがひとつになったおかげでとてもいいものが出来た。
そして、文化祭当日。朝から、お客さんがたくさん来て文化祭は大盛況。
「橘」
来栖くんに呼ばれた。
「桜庭、あそこにいるけど」
「えっ?」
まさか、来栖くん。
「来栖くん」
「ん? なに?」
まさか来栖くんに、バレてる?
文化祭中、先生と私は、まわりに変な風に思われないようにすれ違ってもあいさつ程度にしていた。ほかの生徒はともかく、教師にバレてしまったら元も子もなくなる。佐奈にも、付き合っていることは隠しているから逆に誰にも話す人がいないから必死だ。だけど、きっと、来栖くんにはバレてしまっているだろう。
来栖くんは、私のことが好きだから。好きな人のことにはすぐ気づくんだろうな。
非常に盛り上がった文化祭は、無事に終わった。軽く片づけをしているとき、先生からLINEがきた。
『終わったら、いつものところ来てくれないか?』
先生からくるなんて珍しいな。なんだろう? 可愛いスタンプを返して先生からの既読がついたことを確認して、片付けにとりかかった。
「美波ー、帰ろう」
「ごめん、ちょっと用事あるから先に帰ってていいよ」
「そうなの? じゃあ、待ってようか?」
「ううん、大丈夫! じゃあね!」
佐奈にさよならをして、いつものところに向かった。
「先生」
「雅翔」
「えっ?」
「二人のときは。名前呼びって決めただろ?」
いくら二人きりっていったって、今は学校。呼び捨てなんて、そんな。
「美波」
先生……雅翔からの呼び捨て、すごく嬉しくなって恥ずかしくなる。
「はい、これ」
「ん? なにこれ」
「お菓子」
「あ、私のこと子供扱いした!」
「違うわ。今月、ハロウィンだろ? 見回りでいったクラスでお菓子のつかみ取りしてて。そこで取れたから。俺からのプレゼント」
すごく特別を感じる。嬉しすぎる。
「ありがとう。雅翔」
「美波から呼び捨てされるの、すげえ好き。美波は? 俺からの呼び捨て好き?」
そんなの、決まってるじゃん。
「好きだよ。大好き」
「美波……。おいで?」
文化祭が終わった放課後、私たちは優しく抱きしめ合った。
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