第一章:歯車の瞳
穏やかな朝陽
「お~い、ハウ、起きろ。今日の水汲みの当番は君だろ」
戸の辺りから聞き慣れた青年の声が流れてくる。
「くか~~」
「寝たふりしても無駄だぞ。さっき開けといたカーテンが閉まってるんだ。良い感じに目が覚めたんだろ?寝ぼけてないで、早く行ってきなよ」
彼の
「くか~~」
またいびきを鳴らしてみる。狭い部屋の中に
「いいから起きなって、もう朝ご飯も出来てるんだよ。それも、ハウの大好物のサデュル(猪のような体躯に雄々しい鹿の角を有した動物)の肉の塩漬けと水鳥の卵焼き。早くしないと冷めちゃうぞ」
彼の囁き声が耳に入ってくる。すぐ近くに彼の気配を感じる。どうやら寝台の近くに寄ってきたようだ。こそばゆくて少し身体が震える。
もう一度寝返りをうつ。私の寝台は壁際にあって、一度目の寝返りでは壁と見つめ合う形になった。二度目の寝返りでは自然と戸の方に正面が来るようにする。そして、瞼を開く。眼前に
「うん、どうかしたのハウ?まだ夢の世界に散歩中かい?」
にこっと
「ずるいよ…」
薄く、そう呟いてから私は身体を起こす。寝覚めは良い。寝足りない時の
「さっ、美味しい朝ご飯がお待ちだよ。眠り姫」
「もう、フラム、揶揄わないでってば。誰だって眠さには適わないものなの」
フラムは寝台にかけていた腕を離して、軽く手を振りながら部屋から出て行く。戸は開いたままで、床の木目が陽光でくっきりと見える。
フラムが出て行ったのを確認して、私は髪を一束に
出っ張った窓枠の上に置いてある髪留めを手に取る。私の髪に似合うと言って、フラムがプレゼントしてくれたもので、
もう片方の手で零れた髪を掬い上げて、唇に挟んだ髪留めをもう片方の手で取り、急いで髪を結わく。回数を重ねた慣れがあって、髪の零れはない。
朝のルーティーンを終えた私は寝台から出る。獣の毛を集めて、ある植物から採れる糊を皮に貼り付けたフラム特製の毛布の温もりが名残惜しいけど、仕方が無い。
グウウウウ
私のお腹の狼が遠吠えをあげる。まあ、待ち給えよ。直ぐに美味しい朝ご飯が君を満たしてくれるはずだからね。
リビングの方から漂ってくる香ばしい匂いに引っ張られて、私は部屋を後にした。
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