overture-after-

Act:0.5

-June-


蛍「ここわかんねえ」

唯「ふむ、これは案外簡単な問題だよ」

蛍「そうなのか」

唯「ここをこうやったら……ほら」

蛍「おお、解けた」

唯「……そういえば、なんだけど」

蛍「ん?」

唯「進路は、どうするんだい?」


蛍「……進路?」

唯「先月頃に進路説明会があっただろう。

  もう中学三年生だし、そろそろ決める時期だと思ってね」

蛍「そうだなー……」

唯「就職はしないだろう?」

蛍「まあな。……進学するとしたら、近所がいいな。電車には乗りたくないし」

唯「最悪自転車通学までとなると、学校数は限られてくるね」

蛍「そうだな」


唯「近くで言うと、御十時おとときとかかな」

蛍「御十時って……お前あそこの偏差値知ってんのか?」

唯「うん。ちょっとした進学校だね」

蛍「俺が行けると思うか?」

唯「? うん」

蛍「なんで『どうして行けないの?』みたいな顔で頷くな」

唯「そんな『どうしてイケないの?』みたいな顔なんて……」

蛍「やめろ」


唯「でも、あそこなら本当に近いし、良いと思うよ。

  君なら少し勉強すれば届くだろうし」

蛍「簡単に言うじゃねえか……」

唯「それに、ボクもいるんだしさ」

蛍「……え、お前も御十時にするつもりなのか?」

唯「うん。ダメかな?」

蛍「高校入ってもお前の顔を見るのかよ」

唯「ふふっ、ボクの顔だけじゃなく色んなところを見てもいいんだよ?」

蛍「遠慮しとく」


唯「一つの選択として、だよ。もちろん、

  他にも学校はあるのだから、じっくり考えた方が良いさ」

蛍「うーむ……」

唯「近さならあそこが一番だけどね。うん……アソコ……?」

蛍「何考えてんだ」

唯「いやいや、ナニも」

蛍「……はぁ」


唯「ボクはね」

蛍「ん?」

唯「君と同じ学校なら、どこでもいいんだよ」

蛍「俺に合わせるなよ、お前ならあそこだって余裕だろ?」

唯「そうかもしれないけれど、行くなら君と一緒がいいな」

蛍「……俺と、ねえ」

唯「ふふ、ボクの個人的な意見さ。気にすることないよ」

蛍「……」



舞「御十時高校!?」

蛍「おう」

舞「あのおっきな学校でしょ! 入れたらお兄ちゃん凄いよ!」

蛍(舞でも知ってるくらいだもんなあ)

舞「あそこなら近いし、お寝坊のお兄ちゃんならちょうど良いかもだね!」

蛍「う……酷いなぁ」


蛍「つっても偏差値は俺の行けるようなところでもないんだよ……ほら」

舞「うわ、偏差値たっか! 進学校だ!」

蛍「だろ? そこが問題なんだよ」

舞「でも、入れるかもよ?」

蛍「ん、なんでだ?」

舞「唯さんがいるもん!」

蛍「え……」

舞「お兄ちゃん、唯さんに勉強見てもらってからすっごく成績いいじゃん!」

蛍「そ、そうか?」

舞「きっと唯さんの教え方が上手だからだよー」

蛍「……」


舞「唯さんと一緒の高校に行きたくないの?」

蛍「なんでそんな話になる」

舞「だって、仲良しだし」

蛍「別に高校まで一緒じゃなくてもいいだろ」

舞「でもさーやっぱり三年間違う学校に通ったら関係だって変わるよ~」

蛍「……」

蛍(俺が御十時以外の学校に行っても、

  アイツは本当に俺と同じ学校に行くつもりなんだろうか?)



舞「あ、お兄ちゃん!! ご飯は私が作るから! 台所どいてー!」

蛍「……あ、すまん」

舞「もー、私ももう小六だよ、お兄ちゃん」

蛍「まだ早いと思うんだけどなぁ」

舞「早くないー!」

蛍(舞も来年は中学生か……)



蛍「……なあ」

唯「なんだい?」

蛍「家の近くにもう一つ公立の学校あるだろ? ほら、綴城つづるぎ高校」

唯「あるね」

蛍「あそこにしようかと思ってるんだが」

唯「うん、それならボクもそこに行くよ」

蛍「……そんなことしなくても」

唯「ボクの意志だから」

蛍(って言ってもな……)


蛍「なんつうか、俺に合わせられると困るっつうか」

唯「どうして?」

蛍「……お前はもっと上の学校にもいけるだろうし」

唯「そんなこと関係ないよ。ボクと君は友達だろう?」

蛍「友達だからこそ、お前のことを考えてんだよ」

唯「……ボクのことを?」


蛍「お前の成績ならどこでも行ける。だから俺に合わせるのはやめろ」

唯「……」

蛍「今だって、俺に勉強教えてる。

  俺とお前じゃ、レベルが違う」

唯「……そうか」

蛍「……」

唯「……このテスト期間だけは、君の勉強を見てもいいだろう?」

蛍「ああ、わかった」



蛍「……」

舞「どうしたの、お兄ちゃん?」

蛍「! あ、いや、なんでもない」

蛍(……アイツ、どうしちまったんだ?)

蛍(アイツが、俺よりも低い点数を取っちまうなんて)


唯『ちょっと、勘が鈍ってしまったかな』


蛍(なんて言ってたけど、常に満点取ってるのに……)


舞「ねえ、何かあったんじゃないの?」

蛍「平気だって」

舞「ううん、ぜーったいに何かあった」

蛍「……」

舞「唯さんのこと?」

蛍「……まあな」

舞「……ふふっ」

蛍「ん?」

舞「本当に仲が良いんだなーって思ってね」


蛍「仲が良い?」

舞「うん。だって、喧嘩してそんなに落ち込んじゃうなんて、仲が良いからだよ」

蛍(喧嘩してるわけじゃないんだけどな)

舞「お兄ちゃんが落ち込んでる分、きっと唯さんも落ち込んでるから」

蛍「……舞」

舞「仲直りするなら、早くしないとね」

蛍「ああ……」

舞「じゃあ、今日はご飯私一人で作るね!」

蛍「えっ、いや、俺も手伝うよ」

舞「いいの! お兄ちゃんは待ってて♪」

蛍「……わかった」


舞「できたー!」

蛍「待ってました!」

蛍(……って、量が多いっ!)

舞「ふふーん、お兄ちゃんに元気になってほしいから、いっぱい作ったよ!」

蛍「舞……お前ってやつは……!」

舞「えへへ、召し上がれ♪」

蛍「ああ、いただきます!」

蛍(でも、やっぱり量多いなっ!?)


-August-


蛍「おい」

唯「なんだい?」

蛍「ちょっと、寄り道していいか?」

唯「え、ホテルは近くにないよ? それに用意も……」

蛍「なんの話だ、なんの!」

唯「ふふ、冗談さ。それで、どこに行くつもりだい?」

蛍「それは……」



唯「いやあ、懐かしいね。ここの公園」

蛍「そうだな」

唯「君と初めて出会ったことを思い出すよ。……もう二年か」

蛍「……」

唯「どうしたんだい?」

蛍「……今から勉強して……御十時に入れるか?」

唯「え?」

蛍「俺は……お前と、同じ学校に行けるように、努力する」

唯「……」

蛍「だから、また、勉強教えてくれ。」

唯「……うん。もちろんだよ」



蛍「うお、全教科満点……!?」

唯「ふふっ、今回はいつも通りやれたよ」

蛍「すげえ」

唯「ボクは夜も凄いけどね」

蛍「なんのこっちゃ」

唯「でも、君だって良い点数を取ったね」

蛍「……まあな」

唯「ふふっ、あとはもう少し模試で取れていれば安心なんだけどね」

蛍「う……」

唯「ふふっ……。もっともっと頑張ろう。

  ボクもこの期間、更にみっちりずっしり教えるから」

蛍「最後だけすごく怪しく聞こえるが……頼んだ」


-March-


唯「やあ」

蛍「よう」

唯「ボク達もついに卒業だね」

蛍「そうだな」

唯「そうだ、ついでにもう一つ卒業しようよ」

蛍「あ?」

唯「どうて――」

蛍「うるさい、さっさと行くぞ」

唯「ふふっ、了解」


唯「実はローターをつけて、よがっていることを誰にもバレなくて良かったよ」

蛍「嘘をつくな」

唯「もう、ここに通うこともないのか」

蛍「……ああ」

唯「寂しい気持ちは、やっぱり変わらないかな」

蛍「……」

唯「さて。家に帰って、買い物にでも行かないかな?」

蛍「何を買うんだ?」

唯「入学の準備、早速しようよ」

蛍「……そうだな」


-April-

舞「お兄ちゃん起きて! もう唯さん来ちゃってるよ!」

蛍「ん……うお、もうこんな時間か!」

舞「もう、早くしなきゃダメじゃない!」

蛍「ついつい睡魔に負けて……」

舞「そんなことはいいから早くご飯食べる! 支度する!」

蛍「わ、わかったわかった……って、なんだこれ……」

舞「朝食だよ。これからはご飯、ぜーんぶ私が作るから!

  ……って、私も入学式だった! じゃあねー!」

蛍(量が多いっつーの!!)


蛍「うぷ……よう」

唯「おはよう。……おや、朝からどうしたんだい? 昨夜抜きすぎた?」

蛍「黙れ……」

唯「ふふ、冗談さ。これから、また一緒に登校だね」

蛍「そうだな」

唯「……はい」

蛍「なんだ、その手は?」

唯「これからもよろしく、の握手さ」

蛍「……」

唯「……」

蛍「……よろしくな」

唯「うんっ」


End.

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