第18話 野次馬魂
「シラ・・・・・・・」
呼ばれて、細身の体が固まった。
逆に、本来なら怯え震え救いを乞うはずの犠牲者は、平静な顔で
その体に傷を負わせた剣に手を伸ばす。
何をするのかと、混乱する青年の頭が考えていれば
彼の震える手に、そっと冷たい手が重なった。
びくりと肩に力を入れる青年のことなど気にもかけずに、
ゆっくり立ち上がりながら、青年の手ごと掴んだ剣を持ち上げる。
困惑する青年をちらりと見ると、彼女はクスと微かに笑いを見せる。
二人の間で、天井から落ちる月によく似た明かりの光が、鋼に当たってぎらめいた。
感情を忘れたように、または何かを真っ直ぐ見据えているように
光をも吸収する金の瞳は、真意を読もうとする人の追従を許さない。
地上にある生命の周りを回っていながら、時折姿を隠す月のよう、美しくも謎を含んでいた。
彼女は無言のまま、己の首筋に刃を当てる。四つの手に持たれる剣は、
青年の動揺と共に動きを見せて、おかしいように震えていた。
血が頭から一気に落ちていく感覚がする、混乱する青年はもう、頭が正常に働かない。
それでも四つの、この手の内の一つでも動いたなら、青白い首は血を噴き出すと、容易に想像できる。
シラはまた、かたかたと震えを見せた。
一体何をしたいのか、目的を見失っていた。
***
「女神殿、到着致しました」
「わかった」
返事がして深い青色の扉を開けた。
ベリアルは、中の御仁が降りるのに手を貸そうと腕を上げる。
上げると同時に、いや、扉が開いたすぐ後に
優雅に腕を上げたベリアルなどよりも早く、美羽は軽やかに地上へと降り立っていた。
「あ」
彼女は驚いたように声を漏らす。
「・・・・ごめん。でも、ありがとう」
自分の招いた悲劇を謝ると、
赤銅色の彼はいいえ、と無表情のまま答えて足を動かした。
「こちらから御観戦下さい」
後に続いた美羽は、白いローブを張り出す枝葉に引っ掛けないようにと注意しながら
彼の隣にたどり着き、眺めて言葉を失った。
そこは断崖絶壁の、小高い崖の上であった。
「・・・・・・こわ」
つい思ったままが口をついて出た。
高いところが苦手なわけではないのに、彼女は恐怖を感じ、近くの木にしがみついたら放せない。
(なるほど、町とその周辺が良く見える。・・・・・・怖いだけの価値はあるかな)
彼女のいる場所が高いことを現すように、下に見える人々はマッチ棒のように見えた。
マッチな人の多くが向かう先に、湖に寄り添う町がある。
「ここでしたら木にまぎれ、敵の目から隠れながらでも観戦できます」
「確かに町の周りも良く見える。最適な眺めだな」
言いながら、こんな高い場所なら木など数本あれば事足りるのではないかと、ふと思う。
引こうとする腰を、意地で姿勢よく保ちつつ下を眺め、
町の正面を出た道は、平原の中へ伸びているのが分かった。
町は、後方に水源となる湖を配し、両脇を森に挟まれている。
平原を進む道は、町を離れるとすぐ、左右二手に分かれていた。
左へ伸びる道がスイラ国、右側は異国イバルラの領土だ。
二国間の狭間の町として、この町は国境の境目になっている。
だがスイラの民が住まうこの町は、国境故の問題がありそうではあるが
栄えていないためか、現実は平和なものだった。
近頃もっぱらの噂なのが、水源である湖を囲む国境の森で
スイラものとは違う色の軍服を着た者たちが目撃されたことである。
軍服の色が何色であったかが、上手く噂に乗ってくれなかった。
分からないなら考えれば良いと、皆が思い思いに黄色だ赤だ緑だ紫だと、
大陸の国中の色を上げて主張して、実際に何色であったのか確認するためには
警備兵が大変な苦労を要さなければいけなかった。
「森の中に攻め込むのか?」
美羽は隣の男に問うた。
少しは軍人らしく見えるようにと、威丈高な物言いを努めていたが
良い慣れない言葉は、言いつつも恥ずかしいのか、うすらと頬を染めている。
「いえ、引きずり出します」
「どうやって」
「森を焼いて」
ベリアルの声色に、感情の動きはなかった。
驚いた美羽が見上げた先の顔は、無表情のままだ。
その後、美羽たち一行は昼食をとりながら変化が起きるのを待った。
彼女が神だからなのか、辺りには沈黙が続き、原因であるその人は若干頭を抱えていた。
ここまでの移動中も同じであった。
居心地の悪いことであるが、美羽は皆と仲良くなるべきか否か、その時点から判断しかねていた。
本心としては気兼ねない関係を作りたいが、
神という立場上、威厳を感じさせなければいけないのだろうか、と思っていた。
けれど、ただ威張っているだけの上司についていく者は少ないよなぁ、と
彼女は悩み、意識は遠くへ飛んでゆき
真剣な顔でどこかを見つめる彼女に、周りの者たちは
何か人には考え及ばないような、難しいことを思案しているのだろうかと、気を使って声もかけなかった。
そんな周りの状況を見落としながら、
結局彼女の思考は、勝手に決めて厄介なことになるのは避けたいからと、
後で王に相談するという方向へ向かい、表情に緩みが生まれた。
解決へ意識が向かっていくと、緩んだ意識の中に何かが流れ込み、
ハッとして彼女はベリアルの方へと歩き出した。「ベリアル」と呼ぶと赤銅色の瞳が見返してくる。
「森は、どれほど燃やすつもりなんだ」
どうやら自然に対する誠意が見えないことに、彼女は腹を立てているようだった。
植物を愛するスイラ王妃を思い出しながら、ベリアルは無表情のまま事実を告げた。
「敵が出てくるまでです」
しかし、と続ける。
「魔術師が作る炎なので、森が燃えないよう操作するでしょう」
「操作?」
ベリアルは小さく首を縦に動かす。
彼は美羽が何も知らないということを知っていた。だからなのか、それともそういう性格なのか
この世界の者なら10歳児でも知っているような質問にも、彼は丁寧に教えた。
「炎の魔術を例に挙げますと、魔術師は素となる火に魔力を込めることで、
それを自在に操ることができるようになります。
本日、彼らはその素となる火を、強大に増幅し森を焼きますが
魔術師の意思により操られる炎が、木々を燃やす事はございません。
焼くという表現が分かりにくいかと思いますが、
森に火が入るので『焼く』と呼ばれることが一般的になっております。
今回、炎は木々の合間を燃やさぬよう進み、標的を見つけると追いかけ、外へと追いやり、
そこを騎士隊で捕らえるのです。
別の方法として、標的を跡形も無く焼き殺すこともできますが、それには大量の魔力と時間、
そして何より、いたぶり殺してゆく罪の意識を魔術師が感じないか、
それに耐えうる精神力が必要な為
めったに行われることの無い方法となっております」
いつ息をしていたのかも分からないほど、なめらかに言って説明を終える。
「そう、か・・・いらぬ心配をしていたようですね。説明ありがとう」
「いえ」
美羽は寒気を感じた。彼女は「めったにない事」の結果を見たのかもしれなかった。
そう、シラと出会った村だ。村は家々の残骸だけを残して、人すらもいなくなっていた。
何者による犯行なのか、証拠は彼女が赤い軍服のものを見たという、その記憶だけである。
思い出して、レオンを狙う敵の強さを感じ取る。
「そうだ・・・・ひとつ聞きたいことがあるんだが、赤い―――」
「隊長、女神様。始まりました」
町の見張りをしていた騎士が声をかけてきた。
ベリアルは「すぐ行く」と伝えて美羽に視線を戻す。
「聞きたいこととは?」
「後でかまわない。行こう」
太陽の柔らかな陽光が、木々の合間から二人の姿を照らしていた。
今にそれが、熱い陽光へと変わるのだろう。
美羽たちの歩く森の木は、日光が地にまで届くようにと、邪魔になる枝を刈られていた。
降りしきる陽光は地にある草花に力を与え、光にはない色というものを咲かせている。
二人が辿り着いたとき、絶壁から見た町の森に煙は上がっていなかった。
それでも炎の熱気で、森の周りが歪んで見えている。
「あそこか」
森のスイラ国側
そこに水色の軍服を着た人々がいるのが目に入る。
彼らの一番先頭に、3人の黒っぽいものが集まっていて、そこから炎が森へ伸びていた。
あれが魔術師か、と思った後で、美羽は新たに疑問を見つけた。
「魔術は3人で操るものなのか?」
訊ねると、また赤銅色の瞳が振り向いた。
「いえ、通常は一人で操りますが、規模の大きいものだと一人で操れる者は極まれなのです。
ですので、通常強大な魔術になりますと、魔術師数人が集まって術を使います。
そうすれば魔力の弱い者でも、より規模の大きい術も使えるようになるのです。
しかし欠点もございます。
術を使っている間は、魔術師それぞれが息を合わせて一つになり、
使う魔力の量を同じにし、安定させなければいけません。
ですので、絶対に立ち位置をかえてはいけません。
位置を変えれば、同時に魔力にも乱れが生じます故に、失敗を避けるための原則の一つと
なっております。そして、原則としてさだめられている事の一つでも間違えれば
術は解かれ、術者たちには行き場を失い逆流してきた魔力に呑まれ
結果、多くの術者は10日ほど昏睡状態に陥ります」
強弱のない彼の声は、教員であったら学生の良い子守唄になるだろう。
(詳しいんだな)
長い説明を真面目に聞いて、感心する美羽をよそに、言い終えたベリアルは視線を崖下に戻した。
分かった。と、終わりを告げる言葉を言って、美羽もまた熱で歪む森に視線を送った。
崖下は、野次馬が集まりだしているのと、森が熱で歪んでいる以外にはどこにも変化はなかった。
崖の上から十程度の人の視線を受け取りながらも、森はいつまでたっても変化を起こさなかった。
真上にあった太陽が、今は斜め上に見えている。
「何も起きないよ・・・・」
ぽつりと美羽が呟いた。
「・・・・・・・・・・・・・おかしい・・・・ですね」
ベリアルの感情の無い声が、可愛く思えてしまうほど、美羽は暇を持て余し始めている。
さらに待って、太陽がずいぶん下に落ちてきた頃
「ひまだ」と言って部下を困らせる。ベリアルの返答は無かった。
高さの恐怖にも慣れたのだろうか、美羽は崖の外に足を出し、崖っぷちに座り込んでいる。
(随分と我慢強い敵のようですねぇー)
はぁ、と一つ溜め息した美羽の二の腕が、ぐっと握られて
痛みと驚きで彼女は握る手の出所を見る。
「何をするんだ。ベリアル」
ずんと低い声になりながら、美羽は赤銅の瞳を睨む。
「・・・・・・危険です」
敵意を向けられたベリアルは、少しだけ眉間に皺を寄せ、美羽よりもずっと低い声で言った。
「・・・・・・・・・・・・ああ・・・そういうことね」
美羽は真顔で言う。
(崖から落ちるかも、なんて危険を心配しているのか)
理解を得て、ベリアルは掴んだ腕を解放した。
フッと、美羽は敵意と共に体に入れていた力をぬくと、
すっくと立ち上がり、数歩森の中に下がる。
見守るベリアルに、安心だと示すようにおどけて両手を広げてみせて
くすりと笑って小首をかしげる
「これでよろしいでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・」表情を変えないベリアルに、美羽は肩をすくめた。
「私が考えたことが、君の言う危険と違うなら、また崖に座っても良いか?」
真面目な顔で問いかけてみれば、ベリアルの目元がひくりと動く。
「・・・・・・・いえ。そのままで」
「そうか。それはよかった」
彼女は真顔のままで答えると、立ったまま近くの木に背をあずけた。
視線の先に、まだ変化は見られない。
「女神殿」
ベリアルの呼び声がして、美羽は彼を見返す。
おどけることをやめた彼女は、思慮深さを、隠さず瞳に宿している。
「なんだ」
何ともなく言った彼女の声は、軍人を気取ることを捨てていた。
出会って間もないが、それが彼女の自然な言葉だと気づき
ベリアルは気づいた自分にも内心で少しだけ驚いた。
「待つのが、つらい様でしたら・・・・・・」
言い出しにくいのか、少し目を泳がせて
「馬車でお待ちくだされば、変化が起きてからお呼び致しますが」
無表情だけれど、真摯な言葉は優しさを含んでいた。
言われた方は驚いたように目を少しだけ見開く。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、大丈夫だよ」
ふふと笑い。
「ありがとう」
言うと赤銅色の部下は、無表情のまま視線をそらした。
くすくす、としばらく笑ってから、美羽も視線を崖の下に向ける。
視線の先に変化はなかった。
ただ、森の中から兵士と騎士が、見たか聞いたかと、談笑している声が聞こえてきた。
それからさらに時間は進み、青い空の下に赤が差し込み始めた頃。
「・・・・・・・・・・・・」白服の女性は沈黙したまま木の根元に座っていた。
隣に立っていた部下は、騎士に呼ばれて場を離れている。
町を見下ろすのにも飽きた彼女が、ぼうっと夕焼けの迫る山を見ていると、
背後で人の足音を聞き取った。
「女神殿、令状が届きました」
低いベリアルの声が、美羽の頭に落ちる。
「令状・・・」
ぽつと呟き、立ち上がる。
「令状って、私も持っているやつでしょう?」
服についた土やごみを払いながら、続ける。
「届いたっていうのはどういうこと?命令が写し出されると聞いたけれど」
つと見上げた先の男は、表情を変えないまま。
「正しくは、令状が新しい情報に書き換えられました」
令状は王の命令を伝えるだけではないようだ。
へぇと関心の声を上げて、美羽は彼の手元にその紙が在ることに気づく。
「見せてくれますか」
許可の言葉の代わりに、紙を持っている手が差し出され、
受け取って開いてみると、彼女は渋い顔をする。
「・・・読めん」
裏返したり、夕日に透かしてみたりする。
(これは・・・・アラビア語、か?せめて英語にしてくれよ。どうせろくに読めないけれど)
渋い顔のまま、紙をもて遊ぶ。
「でしたら、ご自身の物ならば分かるでしょう」
冷めた声がして、金の瞳が隣を見上げた。
いつでも無表情の顔が、気の抜けた美羽には少しの寂しさを感じさせた。
「令状は、持ち主の最も親しんでいる言葉で書かれる様にできております故に」
魔術は本当に便利だ。
「それは良いな、見てみるか」
彼女は、足元に置かれていたバックを取って
中から質の良い紙を取り出した。
『アルザート国では王の名の下、赤子の神殺しを部下に命じていた。
理由はまだ明らかでないが、神の到来の知らせと共に
赤子の神殺しの命令が一時廃令とされ、新たに現れた女神殺しを命じた。
女神の近くにいる者は、彼女に怪しいものが近づかないか気をつけるべきだろう。
また、赤子殺しの任を受けていた騎士は、
隊長ではないが信の置かれる腕の持ち主であった為
任務中に彼が死ぬことがあったなら、もしかしたら引き下がっただろうと思われる。
新たに女神殺しの命を受けた者が誰かは、明らかになっておらず注意が必要である。』
「なんだこれは」
「あなたのお命が狙われているということです」
ああ、とそっけない声が返る。
「それより、この内容だと国を挙げてレオンを殺そうとしていた
ということになるんじゃないか・・・?」
「そのようです。しかし今はあなたのお命を狙っています」
美羽は薄く微笑んだ。
「私のことなら、とりあえず今は安心だろう」
ベリアルを見返し、にっと笑う。
「君たちがいるんだもの」
「・・・・・・・・・・・」ベリアルの顔に変化はない。
「レオン・・・・・・よく生き延びたな」
軽い口説き文句に反応のないことなど、気にもしていないのか、美羽は憂いの瞳で空を見る。
今はまだ姿を現さない暗闇が、世界全てに降りてきた夜の中、
抱きながら眠った子供は怪我の一つもしていなかった。
「・・・・・・・・」
美羽は空に顔を向けたままで瞼を下ろす。
「・・・・・・・・・・・」死者の冥福を祈って、ただ、護ると再び誓いを立てる。
「・・・・・・・・ご無事で、何よりです」
部下の精一杯の声に、彼女は薄く微笑んだ。
二人の足の下、炎を操る魔術師や騎士達のそばに群がっていた野次馬達は
だいぶ少なくなっていた。他に変化は見られない。
〈隊長が困ってる!〉
ベリアルの弱った顔を見てしまったブルートは、
隣の男の背中をバンバン叩く。
〈いって、やめろ〉
ザインに払われた手が、近くにしゃがんでいたグラッツの頭に直撃した。
「いってぇ!」
〈おい!〉
シィ―と言われて反論しようとすると、叫んだグラッツは皆に口を押さえられ、もごもごと騒いでいる。
*
そして更に時が進み、太陽が赤く染まり、差し込む陽光の熱が弱くなってきた頃。
「あーーーもう・・・まだかっ」
キッと緑の所々で炎の覗く森を睨む。黄金の瞳がギラと光る。
「・・・・・・・何も起きませんね・・・」
どうしたことかと自身も思いながら、ベリアルは美羽の気を治めようとした。
「そろそろ魔術師も疲れてくる頃でしょう。それが狙いやも」
確かに、と頷く。それでも彼女には嫌な予感がして、
その予想は違うような気がしていた。
「この近くで・・・・・・」
美羽の呟きは夕焼けと共に溶けたよう、しずかだった。
「民家が密集しているところは?」
言って答えを求めた先の人は、何も言わずに森を見ている。
聞こえなかったときがついて、声を大きくし再度問いかけると
ベリアルは軽く目を見開いた。驚いた顔を見て、今度は美羽が驚いた。
驚く彼女をよそに、ベリアルはトーンの安定した声で答える。
「・・・・・・・・・第5騎士隊が、遠征に行っていた町です」
ベリアルの目が弱さを纏う。
同じことを考えていると分かりながら、声に出さずにいられなかった。
「こっちは囮だ!どうして今まで気づかなかったんだ。私はっ」
ギリと噛み締める美羽に、ベリアルは努めて無表情を装い
「しかし、魔術師を疲れさせるまで隠れているのやも」
「もし囮だったら町はどうなる、取り返しのつかないことになるぞっ
こっちはあの騎士さんらに任せて、私たちでいくぞ」
言うが早いか、林の中をするすると走っていく。
白いローブは、偶然なのか枝に引っかかって破けることが無い。
「神っそんな危険な―――」
ベリアルが呼びかけても振り返らない。
呼びかけられたはずの人は、答える代わりに己が目に付いた騎士や兵士に呼びかけ、
驚く彼らと手短に話をすると、何事かの指示を出している。
そうして何人かが動き出したのを見た後に、美羽は白いローブを翻しベリアルに向き直る。
「危険でも無駄足でも良い、私は後悔するのは御免だ」
変わらず無表情の男の顔が、動いたような気がした。
「・・・・・・・御意」
馬の嘶きが、夕焼けの中に響き始めた。
昼に響いていた音は、残らず太陽に攫われていくなか
音の塊が林を抜け、闇の迫る空の下を進んでいく。
「頼む、間に合って・・・っ」
儚い誰かの願いは、駆ける塊の中に浸透している。
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