第14話 個性の民

あなたは避けていた。

城に着いてからの君は、私の前に顔を出そうとしなかった。

私を、避けていると思った。

あらゆる理由を考え

その中に、君が敵であるという予想もあった。

でもそれは、ありえないという結論に属していた。

花の香るあの場所で

私は判断を誤り

君を、大切に思い始めたのだ。


あれは演技だったのか


今ではもう、

どうでも良いことか。


                ***


侍女が神を客室へと案内し、その存在が感じられなくなると同時に、

玉座の間にいた人々は、全身の力が抜けたように緊張を緩める。

「すばらしい。これでわが国は安泰だ」

武人然として直立不動に立ち、満面の笑みで話すのは左大臣・ジェームス。

左大臣とは、王を補佐する役割を持つ大臣職で

主に軍部及び他国政策を担当している。

「新たな役職を設けねばいかんのぉ」

そう右大臣ケストが続く。

彼は微笑みながら杖に寄りかかり、

ジェームスと共に玉座の一段低い位置に立っていた。

女神の退室を確認して、椅子に腰つけた彼は満70歳の年長者だ。

通称・じぃ(爺)と呼ばれるケストが勤める右大臣もまた、王を補佐する大臣職で

主に経済と国内政策を担当する。

「シラ、国を代表して礼を言おう。よくぞ神を連れてきてくれた。後で褒美を贈ろうぞ」

そう部下を労うはスイラ王国第21代国王ルシファン。

こちらもジェームスに負けない笑顔で、

シラから見て数段高い上座から、忠実な部下を賞賛した。

「ありがとうございます。陛下」

返しはしたが、賞賛の対象となる部下の顔色は優れているとはいえない。

顔色を見て取った王は、穏やかな人柄そのままに優しく微笑む。

「疲れただろう。シラ、今日はもう休みなさい」

言葉を受け取り、顔を上げた青年は

春の陽気のような、穏やかに微笑む王を見て、やっと笑顔を思い出す。

「はい。陛下」

右腕を優雅に身体の前で横切らせつつ、片膝を床につけて頭を垂れる。

「お言葉に甘えて、先に失礼させて頂きます」

「ゆっくり休みなさい」

青年はすっくと立ち上がる。

わいわいと穏やかに騒がしい王座の間に

コツコツ鳴る靴の音に続き、扉の開く重厚な音が響いた。

そして金の髪の青年が一人、玉座の間から姿を消した。



            *

           

神の到来は、一日のうちにスイラ国中へと広がった。

更には二日のうちに隣国へ、三日のうちに大陸中へ

疾風の如く知れ渡っていった。


「号外!!号外!!ついにあの希望の神が現れた!!!」

神の到来したその日のうちに、スイラの王都サリアの広間で

夕焼けの色に染まりつつ、男が声高々に紙の雨を降らして叫んでいた。

「号外!!号外!!」

「チョットっ邪魔だよ!!あたしにもおくれ!!!」

神の雨を降らす男の周りは、これ異常ないほどの人でごった返している。

がやがやと騒がしい中で、それにも負けじと男は叫ぶ。

「号外!!号外!!」


広間の混乱から少しはなれた場所に、黒のマントを羽織り

黒いフードを深くかぶる長身の男がいた。

隠れるように壁に寄り添う黒き者の足元に、

紙の雨が一つ、ひらりと吸い寄せられたように舞い落ちる。

『号外 ついに予言の希望の神がスイラ国へと参られた!!!!

      神は女神、目撃した者によると

      不思議な魅力のある美女らしい。

      女神は我がルシファン王の面前で、わが国に仕え

      共に世界に平安をもたらす。と宣言した      』  

「・・・ク、クククク・・・・・」

黒き者は号外を見るなり喉を鳴らして卑しく笑う。

恐ろしい笑みを消さないまま、城につづく裏道へ足を向けた。

「号外!!号外!!」

騒ぎの大きな広間で、黒き者を観止めたのは

大人達に弾かれ、暇を持て余していた子供だけだった。

子供は黒い影に興味を持って、こそこそ隠れながら黒い影の後につづいていった。

昔お爺さんに聞かされた、騎士や兵士がやったという悪い人の追跡捜査のように

気づかれないように、足音を立てないように、慎重に尾行する。

だが裏道の角を曲がると、黒は影も形も名残さえも無くなっていた。


                       ***



「女神様、ここが客室となります。

 女神様のお部屋の準備が終わるまでは、この部屋をお使いください。

 後で再び参りますので、何かございましたらお言い付け下さい」

「ありがとう。部屋の準備はゆっくりでかまいませんから、慌てないで下さい」

案内係の侍女は、深く一礼すると部屋を立ち去っていく。

キチリと結ばれた髪が、彼女の性質を物語っていた。

「クールビューティーだね、かっこいい」

それにしても、このまま私は「女神様」と呼ばれ続けるのだろうか。

まだ「美羽様」の方がいい。

・・・・・・・・・・・神って・・・・

いくら「貴方は神です」って言われようと、

私は人間以外のものとして生きた覚えは無い。

手に入れた力だってあの杖くらいだ。

たとえものすごい力を、私が隠し持っているとしても

神様というものが存在しているのなら、それは私以外だろう。

神呼ばわりはちょっと・・・・・・困るな、天罰が恐ろしい。

その肩書きを利用したのは私だから、今更何も言えないけれど。

あぁ・・・・神を騙るの、罪悪感あるなぁ

「本物の神様。いるんだったら

どうか私が神を騙ることをお許しくださいませ」

というか巻き込まれたのは私なんだから、許せよな。

って、こんな荒れた言葉使いじゃ

喧嘩売っているみたいじゃないか。

怖い怖い・・・・・

「フッ・・・・阿呆みてぇ」

どんな肩書きを持とうが、力があろうが、物真似人間だろうが

私はただの人間だ。

見えない力に恐れ、救いを求める。

ヨワイよわい、生き物だ。

でもただの人間のままで、一般ピープルでは終わらない。

レオンのように、生まれながらに枷を背負う者もいるだろう

シラのように、苦しみを一人背負う人もいるだろう

それでも、皆幸せになりたいと願うんだ。

それは、魂に刻まれた義務なのだと思うのは、可笑しいことだろうか。

レオンはレオンの人生を、シラはシラの人生を、作り上げていく義務がある。

幸せになる義務がある。

きっと、生きている限り、全ての人がその人生の主人公なんだろう。

なら私は、私の人生を出来うる限り最高のものとしてやろう。他人が幸せになることの手助けをしたい、と心の底から湧き上がってくるのは、それが私の義務とか、幸せへの道筋だと思いたい。私の勝手な希望だとしても、信じれば、私にとって真実だ。

数多な人の、数多な数の主人公達が織り交ざってこの大きな世界をつくっているのなら

それなら、最高の脇役になろう。

過去の私が求めていた脇役は、この世に存在していると私が示すのだ。

友を切り捨てなければ自分が壊れてしまうのに、切り捨てる覚悟を持てなかった幼い私は、

大丈夫だと、もっと良い友が存在していると伝えてくれる人が欲しかった。

だからそんな脇役が存在しているのだと残りの一生をかけて示す。

その信念が折れることこそ私が死ぬのと同義なのだ。



                ***


甲高い音が頭に響く。

早く仕事を進めたいというのに、戦場さながらの喧騒を繰り広げる、若干一名の同僚が小動物のような瞳を上目遣いで見上げてくる。そういう顔は男に見せてあげなさい。と言っても聞き入れないから言うのも面倒だわ。

「もーーっ!私たちがやります!って言ってるじゃない!!」

「客間の担当は私たちです。私たちに任せてください。」 

縋り付いてくる体を振り払い、背中を向けて言うと、背をぱかぱか書類で打ってくる。

ばら撒いて後でとばっちりを食うのも面倒ね。

振り向いて書類を取り上げ、また背を向けて歩き出すと背に抱きついてきた。

動けないわね。どうしようかしら。

「神が来たら私たちがお世話をすると、この前決まったでしょ!!」

うるさい同僚を引きずりながら、少しずつ歩を進める。

ああ、思ってはいけない事だと分かっていても、思ってしまう。

この子、邪魔。

「それは神の部屋の事。私は客間の仕事をしているだけよ。分かったら放しなさい」

「うぅ・・・・・・でも女神様がいるのはそこでしょうよー」

「神の部屋の準備が整えば、ずっとお世話できるじゃない。

 そもそも部屋の準備を怠っていたから、客間に案内する羽目になったのよ。

 いじける前に仕事をしなさいよ」

ついつい溜め息が漏れる。

この子は、いつになったら大人の階段を上るのかしら。

・・・・ダナエがいつまでも抱きついているから

マリアから好奇の視線を感じるわ。

困ったものね、また変な噂をたてられそう。

そして何故あの子は、あんなに嬉しそうな顔をしているのかしら。

醜聞好きにも困ったものね。

「・・・・とにかく、今はレオン様をお連れしましょう。

ほらダナエ、あなたも来て。頼まれたのは私たちなんだから」

嬉々とした大きな声が背後で放たれる。

耳元で叫ばなかっただけ、良しとしましょう。

「もちろん!今度こそ絶対女神様とお話しするわ!!」

「それから、あなたと同じ〈神の部屋〉担当のセレさんは既に準備を始めていますよ」 

期待を胸に私を解放したダナエから離れ、言い捨てると

後ろから蛙の鳴き声のような唸り声が聞こえた。

驚いてないで行動すれば良いのに・・・・

預かった子供を寝かしつけてあるベッドから、黒髪の赤ちゃんを抱き上げた。

すやすやと寝息を立てる子供は、その瞼の奥に

現れた女神と瓜二つの瞳を持っている。

予言は、我々には有難いものだったけれど

この子にとっては重み以外の何でもない。

純粋な寝顔は、いつか苦しみに歪むのか。

「かぁわいい~。さすがは女神様のお子ね」

静かに。と釘を刺すと口元を押さえてダナエが引き下がる。

今はまだ、その重みをあの方に預けたまま

その優しい腕の中、しあわせを一身に取り入れてお眠りなさい。

 

               *

王城が最も美しくなる時間。

闇が夕焼けを追い詰めていく過程の時間。

その時間の終わりの刻に、城と町の境にある正門で騒ぎが起きていた。

オレンジ色に染まる門付近には大勢の野次馬が群がり

群れに惹かれるように、人の数は制限無く増えていく。

諸般の原因は門番と話をする一人の女性。

闇が現れ始めた頃、南の空から一つの影が降り立った。

多少不安定ながらも、驚くほどの速さで遠くの空から門に辿り着いた女性は、

当然南にある町の上を通ることになった。

夕焼けの美しさに空を眺める者、時間の経過を知るようにそれを眺めた者、

周りの騒ぎに促されて空を眺めた者。理由は様々であるが

そのとき瞳に映ったものは同じであった。

その物体が正門に降り立つと、釣られたように人が正門へ押し寄せ、

人の波が押し寄せるのを背後に、

空から舞い降りた少女のように小さめの女性は、城を基調としたローブを翻し

風に当たりながら、臆することなく頭二つ分は大きいであろう門兵の前へ歩を進めた。

「私は鈴木美羽と申します。

 ちょっとした事情によりシラ・ラフィートとはぐれてしまい

一番近くにあったこの城へ来てみたのですが

 先ほどシラという人物がここに来ませんでしたか?」

問われた門兵は、毅然としており

周りの騒々しさにも引け目がない。

「何者かも分からない者に、むやみにお答えするわけには参りません」

門兵は生真面目すぎる軍人気質で、頭も固かった。

周囲の喧騒など気にせずに、生真面目に言う門兵へ女性は薄く微笑む。

「これでもですか?」

彼女はかけていたサングラスをはずす。

軽くサングラスを握った手を胸の前まで持っていくと、焦らす様に瞼を開いた。

「な・・・・金の、瞳―――」

無表情で有名な門兵が、動揺を露に声を上げる。

その場にいた者たちが、ここぞとばかりにつめかけて

女性の顔を覗きこむ。

「まぁ本当!!綺麗な金色!!!」

「おぉ!!!金色だ!ついに希望の神が!」

「おぉお!しかもえらいベッピンさんだなぁおい」

人々は口々に感想を述べる。

話しかける人々に軽く対応しながら、

現れた者は己へ押しかける人の波を、逆方向へ軽やかに進み行き

門番の元へと辿りつく。

「中に、入れてもらえます?」

「はっ」

きっちりと足も手も揃えた門兵の敬礼は、

現れた神の微笑を誘った。



騒ぎから抜け出、入ってきた神に呼び止められたのは

たまたま近くの水場で洗濯をしていたカレンとダナエ。

カレンは客間担当の侍女で、ダナエは仲間との取り合いの末「レート」という

オセロに似たゲームに勝ち、晴れて神の部屋の担当の一人となった侍女である。

「すいません、これから玉座の間へ行くのですが、

子連れでは少し無遠慮になってしまうでしょう。

 少しの間だけ、この子を預かってはいただけませんか?」

その瞳の色に驚き、放心状態におちいったダナエを放置して、

たくし上げていた服を戻しカレンが対応する。

「かしこまりました。あなた様のお名前は何と申されるのですか?」

「鈴木美羽といいます、この子はレオン。

 それから、この子は何者かに命を狙われているようでした。

 ここまでなんともありませんでしたが・・・・・・注意してください」

「かしこまりました、では後ほど御用がお済み次第お連れいたします」

事務的に答えるカレンに、金の瞳の女性は軽く苦笑する。

「お願いします」

子供は、ひたすらに眠っていた。

              *


黄みの強い赤毛が特徴的の侍女ダナエが、決意を胸に宣言すると

もう一人の黒髪に蒼い瞳を持つカレンに釘を打たれる。

「女神様は長旅でお疲れになっているのだから、話をするのは控えたほうがいいわ」

「そんなこと言わないでよぅ」

黒髪の侍女はひとつため息をつき、さらりと言った。

「そんなだから彼氏に振られるのよ」

「関係ないじゃない!!!」

「疲れている人に、気を使えないから振られるってことよ」

はぁ、と疲れたように溜め息をつく。

赤くなってゆくダナエの顔色には、気づかなかった。

「あいつと同じこと言わないで!!!」

言い捨て、己を抜かしてずかずかと歩いていく同僚を目にし、

カレンの血の気が引く。

「・・・・・・・・・・・ごめん、当たっているとは思わなかったの」

失態を犯した己を悔いて、先程から抱きたいといっていた赤子を渡すと

わずかにダナエの機嫌が直る。

ふぅ、と隠れて溜め息をつくと、蒼い瞳を正面に据えた。



                  ***


疲れた。

シラに置いてけぼりにされるし、道は分からないし散々な一日だな。

けど、面白かった。

街の人たちは陽気で、政に対する不安の色は薄い。門兵は堅物でからかいがいが・・・・いや

信の置ける者のようだった。なかなか良い国のようだ。

「・・・レオンはまだかな」

城の召使かなにかみたいだから、安心かと思ったけれど

ここはなにがあるか分からない異世界。レオンの身柄が心配だ。

「!!」

背筋が、凍った。反射的に振り返って、しんと静まり返った広い室内が見える。何も気になるものは見当たらない。

何かの気配を、今まで感じたことのなかったものを感じたけれど・・・・・。

無意味とはいえ予知夢なんて見るわりには、霊感とは無縁なはずの私。

でもこれは・・・・・・いや、そんなはずは・・・・・・・・・


コンコン


ビクッ、とするが嫌な気配は感じなかった。

さっきのは、気のせいということにしよう。それがいい。

これはレオン・・・かな?

「レオン様をお連れいたしました」

荘厳な扉の向こう側から、女性の声が告げる。

当たりか。

「どうぞ」

ひとつ深呼吸をし、開く扉を見守った。

「失礼いたします」

そして入ってきた人物は、城の入口で会った人達だった。

一人はさっき部屋の案内をしてくれたクールビューティーなお姉さん。

もう一人は、なぜか不機嫌そうな、でもうれしそうなオレンジ色の髪の女性。

こちらがレオンを抱いているようだ。

腰付けていた椅子から離れ、二人の元へ歩いて行きレオンを受け取る。

残念ながら

小さい方のオレンジ髪の女性は、私より数センチばかり大きかった。

「ありがとう。それで・・・」

オレンジ色の髪のかかった茶色い瞳を見上げる。

にこり、と笑うと女性は頬を染めた。

照れられたよ・・・あの、一応私、女なんだけどな。

まぁいいか。

「あなたはなぜ怒っているの?」

「え!?」

そしてダナエという名の侍女の愚痴が始まったのだ。



つまり

気遣いが足りなくて、彼氏に振られた訳だ。

「私は悪くないんですよ!あいつが浮気したんだから!!!」

・・・・・・・・、


恋は罪悪ですよ。by夏目漱石


・・・・なんてね。

「じゃあどうして浮気したのかな?」

原因究明をしないと、この子はまた浮気されそうな雰囲気がある。

可哀想だけれど。

「それは・・・・・・男だからよ!」

フフ、元も子もないことを言う。

生物学的に正しいけれど。

「私、あいつが疲れてるときに、励ましたりしたのに。

 それで気遣いが足りないって!?ただのいい訳じゃないっ!!!」

男と女の考え方の違いから来るくい違いかな?

詳しくないけど。言うだけ言ってみるか。

「女の人は、考え事をしている時、相談に乗って欲しいと考える人が多いらしいけどね、

男の人は考え事をしている時は、そっとしておいてほしいらしい。

だから、その人の場合は疲れている時も、そっとしておいてほしかったんじゃないかな?」

女性といえど、そっとしておいて欲しい人ももちろんいる。

思考の邪魔をされると、アドバイスでもない限り私は嫌悪を感じる。

おそらく、クールビューティーのカレンさんも、私と同じタイプだろう。

個人差とはいえ、面倒なことだ。


恋が入ってくると、知恵が出ていく。byローガウ


・・・・・なんてね。

「そんなこと・・・・フられてから言われたって、仕方ないじゃない」

口を尖らせているダナエにそっと笑って話しかける。

「これから直せば良い。

直した時まだその元彼が好きならもう、一度アタックしてみたら?

 その頃には気にならなくなっていれば、新しい恋を見つければ良い。

 あなたはかわいいから、その気になればいくらでも彼氏ができるよ」

言うと、ダナエはまんざらでもなさそうに、頬を少し桃色に染めた。

素直だ。

「そ、そうですか?」

「もちろん。だからがんばって直そう。それを直せば同じ失敗をしなくてすむでしょう?」

安心させるように、にこりと微笑んで見上げると、無邪気に笑う濃茶の瞳が見える。

不機嫌な様子は微塵もなくなっていた。


恋ってみんな催眠術でしょ?by明石屋さんま


・・・・・・これでいいのか?

「はい!ありがとうございます。女神様!」

「ダナエ、そろそろ戻りなさい。仕事があるでしょう」

良いタイミングだ。疲れていて、実を言うと話をしたくない。

どう切り出そうか、考えていたところだったが、

さすがクールビューティーなカレンさん。

これからは、認識をキャリアウーマンと改めよう。

「はーい」

嬉々として返事をするダナエは、扉の前で一礼すると

うれしそうに部屋を出て行った。

まぁ、元気になったみたいでよかったよかった。

ダナエが部屋を出で行くと、

「申し訳ございません。あの子はどうも感情を抑えられなくて」

心底申し訳なさそうに、眉間を寄せて頭を下げるカレンへ

微笑みを見せて言う。

「かまいませんよ、見ていて面白いですし」

カレンは少し苦笑をもらしたが、すぐに顔を引き締め

一通りの仕事をこなしてから部屋を出ていった。

「真面目な人だ」

そして、面白い人たちだ。

ここで育って、レオンの将来は大丈夫かね。



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