城壁突破、五秒前!
伊崎夢玖
第1話
真っ暗闇。
その中を突っ走る。
ただひたすらに。
灯りがないから、何も見えない。
今どこを走っているのかすら分からない。
でも、俺達は走り続けなければならない。
◆ ◇ ◆ ◇
「位置について、よーい……ドン!」
スタートを切られ、一斉に走り出す。
スタートダッシュする者、のんびり自分のペースで進む者、周りのスピードについていけず遅れる者…。
数が多ければタイプもさまざまである。
俺も周りの隙をついてスタートする。
栄光を手にする枠はたった『1』。
その一つの座を狙って多くの者が争う。
しばらく走り続けていると、早くも脱落者が出たようだ。
どうやら奴らはスタートダッシュを決めた奴らだった。
スタミナがなかったのか、倒れて動かない。
そんな奴らを横目に、俺はただ走り続ける。
――人は人。自分は自分。
誰だって栄光を手にしたい。
そのためには何だってやる。
どれだけ走ったか分からない。
どこを走ったのか分からない。
この道で合っているのかすら、分からない。
真っ暗闇で、何も見えないから。
でも、まだライバルが多くいるのは気配で分かる。
がんばらないといけない。
ここが踏ん張りどころだった。
ようやく見つけたのは、大きな城だった。
城を取り囲むのは強固な城壁。
それを突破して、中にいる姫に出会うことができた者が栄光を手にする。
ここからが本当の勝負だった。
ほとんどの者のスタミナは当の昔に切れている。
でも、ここでがんばらなければ栄光を勝ち取れない。
体当たりする者、薬品で溶かす者、漁夫の利を狙う者、諦めて脱落する者…。
一人、また一人と、次々に脱落していく。
ライバルが減るのは嬉しいが、自分も限界を超えていた。
いつ脱落してもおかしくない状況。
なんとか持ち堪えているのは栄光を手にしたいという気力だけだった。
俺の近くで城壁にアタックしていた奴が目の前で脱落した。
そいつは城壁に穴を開けていた。
あと少しというところで、奴は命尽きた。
目の前で脱落したのを見たからショックを受けていないと言えば嘘になる。
しかし、俺は『これはチャンス!』と、己を奮い立たせ、急いで奴を払い退かせると、穴を開け始めた。
程なくして穴は開き、俺は城の中に一番乗りで入り込んだ。
そして姫と出会い、栄光を手にすることができた。
◆ ◇ ◆ ◇
「こうやって赤ちゃんは作られます」
「へぇ~」
「先生!コウノトリさんが運んできてくれるんじゃないんですか?」
「実際にコウノトリさんは運んできてくれません。物の例えですね」
「へぇ~」
学校の保健の授業。
どうやって子供が作られるのか。
きちんと知るべきである。
日本ではこのような類の話は恥ずべきこととして、あまり公の場ではしない。
だから知らない児童・学生もいるらしい。
きちんと知らないから本人の知らない間に妊娠していたりする。
気付いた時には手遅れということもあると聞く。
確かに言いにくいことではある。
口に出して言うには恥ずかしいことかもしれない。
でも、この出会いがなければ我々が生まれることはなかったのだ。
――男がいて、女がいる。
――父がいて、母がいる。
――精子があって、卵子がある。
その出会いは運命的なもので、二度と同じ出会いはない。
同じ出会いがないからこそ、我々一人ひとりはその命を大事に生きていかなければならない。
だからこそ、今の教育現場ではちゃんと教えるべきなのだ。
性教育を。
城壁突破、五秒前! 伊崎夢玖 @mkmk_69
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