第2話 ストーカー的行為は姉さんを通じて

「……いとう!」


さっきの人は何者なんだろうか。

一限にあった全校集会の一件から彼女の事が頭から離れない。


「齋藤。授業中だぞ。1番前の席で心ここに在らずとは凄い勇気だな」


頭に軽い衝撃を受ける。数学教師の田中先生に教科書で頭を叩かれたらしい。


「……すみません。」


ぺこりと頭を下げる。平謝り、と言うやつである。


「次、ぼーっとしてたら反省文だぞー」


田中先生は笑みを浮かべることなく、無表情でそう呟く。


「ちょっ、それだけは! すみませんでしたー!」


今度は平謝りではなくちゃんと謝罪する。

そんな俺を横目で見て、「教科書開け。」と言うと、再び授業を再開する。

漫画やアニメの主人公と言えば教室の窓側の1番後ろが定石であるが、俺はというと、窓から3列目の1番前の席という、先生の目に一番付きやすいハズレ席である。

どうやら俺は主人公にはなれないらしい。1年間席変わらないってマジですか? 1回くらいは主人公にさせて下さいよ。

視線は前、思考は数時間前にある状態でしばらくすると六限、数学の授業がチャイムの音と共に終わりを告げた。





この学校は、朝のSHRから帰りのSHRまでは携帯の使用は許可されていない。進学校である本校は、勉学に力を入れさせる為スマホの使用には口うるさいのだ。


・ゲームアプリは入れるな。

・SNSに顔写真をアップするな。

・SNSなどで人の悪口を書き込むな。


この3ヶ条に関しては特に口うるさい。

にしても、ゲームアプリを入れるなはさすがにやばい。ゲームアプリ全部消せとか言われたらもうスマホとかただの板と化すからね。

ちなみに放課後であろうと、校内でのゲームは禁止。

隣のクラスの子で、先生に「ポケモンGOやってますかー?」って図鑑を開きながら聞いたそうな。そしたらそのまま先生に現行犯逮捕されて、夜に親が呼び出されるという事件が発生したらしい。

いや、先生の無慈悲っぷりといったらなんとまあって感じですね。

今日は、帰りのSHRが終わると全速力で家に帰った。教室を出る時、かけるが俺に何か話しかけている様な気がしたが構わず前に進んだ。

朝降っていた雨も、帰宅時には止んでいた。

それでも空は決して晴れることなく、曇りのまま、自宅につくまで曇りを貫き通した。






自宅に着くと空は晴れ、夕日とともに日のない世界へのカウントダウンを始める。


彼女と話してみたい。


今の1番の感情である。今すぐ出来る最善の手は、彼女と連絡をとること。即ち、メールをすることである。

しかしながら、メールアドレスや電話番号は愚か、顔という情報以外は何も俺は知っていない。

現時点では詰みか。また、偶然出会えるチャンスにかけるしかない。

絵に書いたような落胆の表情を浮かべると、俺は部屋を出て階段を下り、リビングへと向かった。

リビングには俺の4つ上の姉が暇そうに携帯をいじっていた。大学生って暇なんですかね。


「コーヒー飲む?」


姉に声をかけると、俺の顔を見ることなく「飲むー。」と一言。

コーヒーを入れる為にお湯を沸かす。

コップを取り出し、個包装になったドリップコーヒーの封を切る。

沸いたお湯をゆっくりと注いでいく。

コーヒーは飲むのもいいが、個人的には入れている時が1番リラックスできる。カフェの店員とか俺にとっては天職なんですけど。

入れ終わると姉にコーヒーを渡し、ソファに座る。

安いコーヒーだと香りがなー、、などと考えていると椅子に座っていた姉が突然携帯を見ながら笑いだした。


「ははははー」


「こわっ、なに??」


「いや、友達のインスタ見てたら面白い動画があってさー」


なんか、すごくアホっぽいよ、姉さん。外ではやらないでね。

コーヒーを1口口に含み、ゆっくり喉を通す。

インスタかぁ。

俺はSNSという媒体は活用していない。LINEはやってるけどね。あれ、LINEってSNSに含まれるんだっけ?

ふと思いたつと、携帯を見ながら笑っている姉に問いかけた。


「インスタって、写真とか投稿したりするんだよね?」


「そーだよー」


興味無さそうに姉は答える。

それでも俺は続ける。


「じゃあ写真を投稿している人がいたら、その写真は誰でも見れるってこと?」


「基本的にはねー。……え、なに? 気になる子のインスタでも見つけよう的な感じ? いやー、若いねえー」


今度は食いつき気味にニヤニヤとこちらを見ている。


「……いやっ、ちげえよ」


図星である。

怖いよ、我が姉。エスパーか何かで?

話終えると、カップを持ったままリビングを後にし、2階の自室へと戻る。

なるほど、その手があったか。

考えもしなかったな。

携帯を手に取ると、ふぅーっと息を吐く。

アプリをインストール。

完了。

アカウントの設定画面が表示される。

なるほど、めんどくさい。

なんとか設定を終えると、そこで我に返り手が止まる。

まて、今の俺、凄くストーカーってないか?

我ながらちょっと引く。

でも、ここまで来たら後戻りは出来まいて。

説明画面などをとばしていくとどうやら最初のチュートリアル的な画面は終わったらしい。

ここで再び手が止まる。


「この後どうすればいいんだ……?」


とりあえず翔をフォロー。写真をたくさん投稿していた為わかりやすかった。待て、めっちゃ俺の顔も写った写真載せてるじゃん。3ヶ条、どこいった?

翔のフォローしている人から同じ学校の人をとりあえずフォローしていく。

SNSってこんな感じなのか。

フォローしている人がフォローをしている人を見れたりと、たいぶオープンな媒体らしい。

適当にインスタをサーフィンしていると (使いこなしてる感やばい) 、一際目を引くアカウントがそこにはあった。

アカウントを押すとプロフィール画面のようなものが表示される。

そこには友人と思われる人と笑顔でピースをしている女の子の写真があった。

再び身体に雷が落ちてきたかのような感覚に陥り、

硬直した。

これだ。

彼女だ。

体育館で見かけた「彼女」がそこにはいた。

やはり全校集会の時感じた感情と全く同じものが再び俺に襲ってきた。


美。


この気持ちにはこの1文字が1番合っているようで、それと同時にどこか物足りないような気もした。

今の感情を1番ふさわしい言葉で表すことが出来ない自分の語彙力を恨んだ。


しばらくして、スマホから顔を上げると窓の外を見上げる。空は再び曇っていた。今日の天気は忙しない。

明日は晴れるといいな。

そんなことを思い、スマホの灯りを消す。





俺は結局、彼女を「フォロー」することが出来なかった――――。













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