現代ラブコメはスマートフォンを通じて

山神 拓真

第1話 現代ラブコメは全校集会を通じて

 紅葉が散り始め、冬という季節が顔を覗かせる季節。制服のブレザーを着るべき脱ぐべきか迷う季節。

俺はいつもと同じように自転車で学校に向かっている。どうやら今日の空は機嫌が悪いらしい。この空も余程ストレスが溜まっているのか今日の天気は最悪。雨の日の登校は一苦労だ。あいにく学校と家とでそこそこの距離があるため毎日自転車通学だ。

カッパを着ても顔の全体は隠れない。


「最悪、ベタベタじゃん」


スピードを出せば出すほど顔が濡れる。

まったく、お天道様のその日の機嫌で雨にしてもらっちゃ困る。こんな、学生の敵である雨も、なかなか降らず、降ることを祈られる国があるから不思議なものだ。

地球は広いなと朝から感じ、ベタベタの顔を拭きながら教室に入ると家が学校から徒歩数分の距離にあるかけるが声をかけてきた。


「おっはy……? まさか朝風呂の途中で学校来たな?」


「朝風呂はハゲるとかいう迷信信じてないからなー……っておい! 外見ろよっ! 雨だよ雨っ!」


「じょーだんだってー朝から絶好調だねー」


 やれやれ、きっとこの気持ちは自転車通学の同志にしか分からない。学校と家との距離が個人によって違うから自転車通学の人や公共交通機関を利用して通学する人、ましてや徒歩で通学出来てしまう人もいる。もうこれはいっその事、全員が自転車を利用しないと登校できないような山奥とかに学校を建設すべきだよね、うん。いや、それだと自転車で坂とか登らないといけなくなる感じ? ムリムリ。絶対ムリ。

 タオルで髪の毛の水気を拭き取りつつ席に着くと俺らのクラスの担任、結城先生が教室の前扉から中に入ってきた。結城静ゆうきしずか先生。女性にしては珍しく170cm前後の身長を持つモデル体型。容姿端麗ようしたんれい八方美はっぽうびじん人。おっと、失言。完璧と言わざるを得ない人気教師だ。

マンガなどでは扉の上に黒板消しを挟んで先生にイタズラする、という光景は鉄板ネタであるが実際そんなことを結城先生にしようとでもした奴がいたら、先生のファン達が黙ってないだろう。


「おはようございます」


「「おはようございます」」


 先生の挨拶で、朝のSHRが始まる。


「昨日言い忘れてたんですけど、一限は急遽体育館で全校集会をやることになりました。SHRが終わったら体育館に移動してくださいね」


 笑顔でSHRを始める結城先生はさながら太陽のように眩しい。今日は太陽隠れちゃってますけどここにいらしたんですね。

 すると突然、後ろの席の翔が背中をつついてきた。


「なーなー、たくまん!」


 振り返るとニヤニヤと笑う翔の顔があった。


「やっぱ結城先生、いいよな~。朝から目の保養すぎるわ~。完璧美人教師って感じ?」


 どうやら似たようなことを考えていたらしい。そんなことより、『完璧美人教師』ってパワーワードすぎん?


「たしかにな。でもホントに完璧なのかな。完璧な人なんて居ないだろ?」


「結城先生の場合、完璧じゃ無かったとしても完璧じゃない部分はおっちょこちょい、とか天然、とかそういう言葉で補われて完璧美人教師っていう印象は不変なんだよ!」


 なにそれ、最強。っていうかやっぱりその『完璧美人教師』っていうワード気に入ったの? うん、俺も。

 気づくとSHRは終わっていて、クラスメイト達はまばらに体育館へと足を運び始めていた。






 俺らはクラスを出ると人の流れに従って体育館へと向かった。体育館に入ると、クラス順に並ばなければならない。俺の名字は齋藤で、『さ』だからわりかし前の方。後ろは『せ』の、清宮翔せいみやかける

 全校生徒が、この体育館という名の箱に集まってくる。今日の天気は雨の為、湿度が高い。人口密度 × 雨の日とか最悪じゃないですか。夏の暑い日も最悪だけどね。なんなら体育館で全校集会をやること自体が最悪まである。

 教頭先生や校長先生、教務主任の先生などの話が流れるように行われているが、どれも話は右耳から入って左耳へと抜けていく。話の度に立ったり座ったりさせらるのは正直しんどい。

 同じことを思っていたのか翔が背中をつついてきた。どうせ「しんどくね?」とかそーゆーことだろう。振り返って雑談してるなんてのが先生たちにバレて怒られる方がしんどい。ここはスルーしよう。それが気に食わなかったのか翔は遂に僕の肩を揺さぶる。


「なぁ! なあって!」


 小声で声をかけてくる翔に面倒くさがりながら振り返る。


「おい! 見ろってあれ!」


 振り返るとニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる翔の顔があった。


「なんだよ――――」


 すると突然身体に雷でも落ちてきたかのような衝撃が走った。

 翔の顔から視線を外したその先にいる少女に目を奪われたのだ。


「隣のクラスの足立さん! あれ、ブラ透けてね?」


 左後方。有象無象うぞうむぞうの顔の奥にその少女がいた。

 位置からしてクラスはわからないが学年は2年生だろう。彼女にだけスポットライトが当たっているかのように目が引き寄せられた。


「おいっ! たくまん? 聞いてる?」


美。

純粋にそう感じた。逆にそれ以外の言葉が思いつかないほどの美しさ。黒い艶やかな髪。千年に一人のなんちゃらと隣にならんでも引けを取らないほど美人だ。少なくとも俺はそう思った。

彼女の名前はなんだろう。彼女はどんな子なんだろう。自然と知りたくなった。

ずっと見ていたからか、彼女がこちらの視線に気づく。


「……はっ、!」


慌てて視線を外す。


「おーい! 聞こえてますかー? たくまさーん?」


 翔が顔を覗き込むかのように声を掛けてきた。


「あっ、ごめん。なんだった?」


「なんだよ~。せっかくラッキーを共有しようと思ったのによー」


「えー、ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてたわ」


しばらくすると、全校集会は終わって各自解散となった。生徒は友人と集まっては話しながらな教室に戻っていく。

……はっ!

さっきの人は、、。

少女が元いた場所に目を向ける。

いない。

周りを見渡す。

いない。

どうやら、もう既に体育館を出ていってしまったらしい。

さっきの人は、、いったい……??

俺はしばらくその場に呆然と立ち尽くし、動くことが出来なかった。






―――― そう。これは、俺が秋か冬かもよくわからない季節に、体育館で見かけた1人の少女に、一目惚れしたお話。

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