第3話 心中
「じゃあさ」
彼女は額に汗を浮かせながら、優しく微笑んだ。
「・・・・・・じゃあさ」
彼女はカーテンを開けた。
「・・・・・・ア、リア?」
陣聖はとっさには彼女の考えを読むことができなかった。
アリアはふるえる手を延ばし、窓を開く。窓のそとには黒い女たちが踊っている。
「・・・アア」
アリアは彼女らと視線を交わし、微笑んだ。
陣聖はしまった、と気付いた。窓を閉めようとしたが、もう遅かった。
中にメデューサの大群がなだれ込んで来た。
「ァァァァァォォ・・・・・・」
「きゃあああ!」
エミリア、ジャシャは悲鳴をあげて、地面に伏した。
彼女は陣聖に手を延ばし、肩に手を回した。
「アリア、なにを考えて!!」
「ずっと、一緒なんでしょ」
アリアは目を伏せて、陣聖を抱擁した。
「一緒に死のう」
アリアは下唇を噛みしめて、自分の頬を陣聖の頬にくっつけた。
「アリア先生!」
エミリアは目を瞑ったまま、アリアの元に駆け寄った。
「ごめんね、エミリア」
アリアは首を振った。
「もう、食べ物はないの」
「食べ物なんてどうでもいいの、アリア先生も逃げようよ!」
「逃げられない」
アリアは首を振った。
「ここからは誰も。どうせ、ここに吹き戻される」
アリアは陣聖を抱きしめる手を強くした。
「ジン、一緒にいて」
陣聖は下唇を噛みしめた。アリアの足が固く石になり始めていたのが見えていた。
「私とー」
「ごめん!」
陣聖は目を伏せた。アリアは顔を上げた。「・・・何で」
「エミリアとジャシャは、まだ石になっていない・・・助けなきゃ」
「・・・・・・私を見捨てるの?」
「・・・・・・」
アリアは、陣聖を見つめて、ぎこちなく微笑んだ。
「ねえ、嘘でしょ?ずっと一緒だって言ったじゃない」
「・・・」
「ねえ」
アリアは下唇を噛みしめた。陣聖は目を伏せた。
「俺はー」
「ふざけるな!」
アリアは陣聖を突き飛ばした。
「下手な嘘ならつかないで!」
陣聖は、床に倒れ込み、アリアを見上げた。アリアは泣いていた。首の下まで、石化が進んでいる。
「何で、いっつも、私ばかり」
3体のメデューサは一斉に子供たちに接近した。けれどエミリアは目を閉じていなかった。ただ、ショックで呆然としている。
陣聖は舌打ちした。
「・・・すまない」
メデューサたちを、二人の体から振り払い、エミリアとジャシャを両脇に抱え、陣聖は部屋を飛び出した。
「ありがとう・・・」
部屋を飛び出す直前、彼女が石になる直前、アリアがか細くそう言ったのを、陣聖は聞いていた。
「いや・・・・・・」
放心状態だったエミリアが、言葉を発した。
「・・・」
「下ろしてよ!先生!」
エミリアは泣き出した。
「アリア先生のとこに行くの!」
陣聖は目を瞑って、孤児院の窓に近づき、窓を破ってそこから抜け出した。そのまま、タルンカッペの街まで、走り抜ける。
「ねえ、戻って!」
エミリアは叫んだ。
「ねえ、ジン先生!アリア先生を助けてよ!」
「・・・・・・お姉ちゃん」
ジャシャはうつむいてつぶやいた。
「・・・」
「・・・ジン先生の人殺し!」
エミリアは泣き叫んだ。
「全部先生のせいだ!フレイアが死んだのも!先生が死ぬのも!」
「そうだよ」
陣聖はつぶやいた。
「・・・・・・おれのせいだ」
3人は何とか生き延びた。
そのあと、陣聖はエミリアをタルンカッペで出会った裕福そうな老人に預けた。エミリアは、陣聖を憎みすぎた。どう構ってやっても、自分のそばでは彼女はこれからまっすぐに育つことはできない。そう思った。
もしかすると、本当は、彼女を手放したかったのかもしれない。彼女は自分を、いつでも、自分を責め続ける。そして、いつか彼女が諦めて、自分を責めることすらなくなっていく。そんな日々が耐えられなかっただけなのかもしれない。
ところで、陣聖は風下博士の残したSDカードを、騒動のうちになくしていたことに、数年たって、気づいた。
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