第3話 昼の中の夜

3階の倉庫を一通り探し回り、一階に降りてきた桜のもとへ櫛が息を切らして駆け寄ってきた。

「桜!」

 櫛は桜にすがるような目を向けた。

「エミリアが!」

 桜は櫛と一緒にエミリアの部屋に急いだ。エミリアはベッドで、息を荒くして横になっている。

「・・・」

 桜はベッドの横に近づいて、エミリアの額に手をやった。もの凄い熱だった。もしかすると、40度は越えている。

「つめたい・・・」

 エミリアは息を漏らした。

 桜は先ほどのシャーロットとの話を思い出した。エミリアの出自はガルバナムの里・・・。

 もしかすると、エミリアは。

「エミリア・・・」

 桜は青ざめた櫛の顔を見て、首を振った。

 そんなことを考えている場合じゃない。

「エミリアのそばについていて、櫛。僕は、シャーロットさんに相談してくるからー」

「どうしよう、桜!」

 櫛は泣きそうな顔をしている。

「あたしのせいだ。あたしが変なこと思い出させたから」

「・・・いいから、そばについててあげて!」

 桜は眉を潜めた。

「彼女は、君を実の姉のように思っている」

 櫛は目を見開いた。

「・・・姉」

「だから、姉としてけなげに振る舞ってればいい」

「・・・・・・分かった」

 櫛は桜を見つめて言った。

「ありがとう。桜は、意外と人のことを見てるね・・・」

 桜は目を見開いた。それは、誤解だ。シャーロットからすべて聞いたことだ。だが、訂正する暇はなかった。

 廊下に出て、シャーロット婦人の部屋まで急ぐ。 

 そのとき、ジャックの部屋の入り口が開いた。

「あら?どこへ行かれるんです?」

 ローズが首を傾げた。

「そんなにあわてて」

 桜は眉をひそめた。

「実は、エミリアが熱をー」

「・・・あらあら」

 ローズの表情が微かに緩んだ。桜はぞっとした。

「・・・」

「・・・あら、大変。どうかしました?」

「いいえ。・・・・・・畏怖嫌厭の情を起こしただけです」

 桜の小声にローズはおかしそうに笑った。

「何か言いました?」

「いいえ」

「エミリアさんの熱なら、心配しなくてもいいですよ」

「どうしてです?」

「彼女はたびたびああなりますから。少し、体が弱いのでしょう」

「・・・」

 ローズは部屋の中にいるジャックたちに言った。

「今日は、部屋から出ないようにしましょう」

 ローズは、桜に手を振った。

「じゃあ、エミリアさん、よくなるといいですね」

 扉はばたん、としまった。

「・・・」

 桜は、構わずシャーロット婦人の部屋に向かう。

 桜が部屋に入るなり、シャーロット婦人は眉をひそめた。

「どうしたんですか、今日は頻繁ですね」

「すいません」 

 桜は頭を下げた。

「エミリアがすごい熱なんです」

「・・・そうですか」

 シャーロット婦人は目を見開いた。

「分かりました。時々、彼女はああなります。しかし、困りましたね」

「困る?」

「ええ。いつもは、治癒の心得のある者が屋敷に常駐しておりますが、間の悪いことに昨日でひまにしたのです。新しい者は明後日に来る予定になっておりました」

「・・・どうすれば」

「街に行って、医者を連れてくることです」

 シャーロット婦人は言った。

「仕方ありません。お願いできますか」

「・・・」

 桜は内心、困っていた。異世界のことなんて、多少放って置いても構わない気もしていた。けれど、エミリアは熱にうなされ苦しんでいるのだ。

 仕方ない。桜はうなずいた。

「僕が、街に行って、医者を連れてきます」

「ありがとう。よろしく。使用人を一人貸しますから、彼女と一緒に街へ向かってください」

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