第2話 異変

「エミリア」

 櫛は呼びかけた。

「・・・」

 エミリアは顔をしかめて、問題集とにらめっこをしている。

「エミリアってば」

「はっ」

 エミリアは緊張から解かれたように、櫛を見た。

「何、クシ」

「大丈夫?ちょっと休憩したら?」

「大丈夫よ、でも、あー分かんないー」

「どれ?」

 櫛はエミリアの手元をのぞき込んだ。この世界の文字はやはり読めない。

「問題文読んでみて」

「ええと、メロウが3匹、ユニコーンが2匹います。足は何本?」

「・・・メロウって何か分かれば分かる気がする」

「メロウ知らないの?やっぱりバカなんじゃない」

 櫛は目を細めた。

「・・・じゃあ、あんた犬分かる?」

「?・・・知ってるよ!」

 エミリアは強がった。

「じゃあ何なの?どういう生き物?」

「・・・えっとまず足が3本でー」

「最初から違うわよ」

「ええ、私の認識ではそうなの」

「へえ、じゃあ雀は?」

「・・・足が一本」

「足の数から違うわよ。なんで全部奇数なの」

「私の認識ではそうなの」

「・・・へえ。じゃあね」

 櫛は意地悪そうな顔をした。

「飛行機は?どういう生き物?」

 飛行機は、生き物ではありません!という意地の悪い出題だった。櫛はにやにや笑った。

「さあ、飛行機はー」

「え?」

 エミリアは素っ頓狂な顔をした。

「飛行機は生き物じゃないよ」

「・・・え?」

 櫛は目を丸くした。

「飛行機はね、空を飛ぶための機械なの」

「・・・この世界にもあるの?」

「・・・?」

 エミリアは眉をひそめた。

「あるわけないじゃん。ここじゃない、空想上の世界にあるのよ」

「・・・何で知ってるの?」

「何で?・・・何でだろう」

 エミリアは腕を組んだ。

「誰かから聞いた、と思う」

「誰か?」

「うん。・・・・・・あ、れ?」

 彼女は思い出したように目を見開いた。

「・・・」

「どうしたの」

「・・・っ」

 エミリアは頭を押さえて、うつむいた。

「・・・」

「エミリア?どうしたの」

 櫛は心配そうに聞いた。

「頭痛いの?」

 エミリアの顔をのぞき込むと、ぎょっとした。眉をひそめ、顔をしかめ、下唇をかみしめている。

「大丈夫?エミリア・・・」

「・・・櫛はさ、忘れられたんだよね」

 エミリアは櫛を見つめた。

「私は、忘れてないよ、孤児になる前の記憶」

 櫛は目を見開いた。

「エミリア・・・」

「私は、殺されかけた。アリア先生は、見殺しにされた。フレイアお姉ちゃんも。そのとき、孤児院の先生になったばかりの男に!」

 櫛は彼女の次の言葉に目を見開いた。

「フダンジンセイに、殺されたの!」

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