第3話 フラッシュバック
エミリアと櫛は同じベッドで身を寄せ合って寝ていた。
「フレイア・・・」
櫛はエミリアのうとうとした顔を見て、自分も目を瞑った。
明日は、エミリアに勉強を教えなければならない。
だから、余計なことを考えてはいけないのに。櫛は下唇を噛みしめた。
それなのに、思い出してしまう。まぶたの裏に、「あれ」が写り込む。
焼けた渋谷。壊れた世界。私の居場所は、私の世界は、もうないんだ。一体、どうして、こんなことが。
「・・・っ」
唇に立てた歯がさらに食い込む。だめだ。意味が分からなくて、頭がおかしくなりそうになる。
櫛は目を開けた。エミリアの寝顔を見よう、と思った。そうしたら、きっとうまく眠れる気がした。
「・・・クシ?」
エミリアは目を開けていた。
「眠れないの?」
「・・・ううん、ごめん。大丈夫よ」
「ばか、眠れないんでしょ」
エミリアは櫛に抱きついた。その体温で、思わず胸が締め付けられそうになる。
「・・・」
「泣いてんの?」
「え?」
言われて、櫛は自分の目元をこすった。泣いていない。私は泣かない。
櫛は強く言った。
「泣いてないわよ。あたし、特技だもんそれ」
「泣かないのが、特技?」
「うん。あたしもね、孤児だって言ったでしょ?」
櫛は、エミリアの髪をなでた。
「孤児になったときの記憶がないんだ」
「・・・」
「その前に、何かがあって、あたし、涙が出ない病気になっちゃったんだって」
「何かって?」
「・・・分からない」
たぶん、ひどいことだ。記憶を消して、現実逃避したくなるほど、ひどい出来事。
「そうなんだ」
エミリアはただ聞いていてくれた。
「櫛は泣けない病なのね?」
「泣かない病よ。それじゃ何か切ないじゃない」
櫛は微笑んだ。
「泣けないんじゃなくて、泣かないのよ」
「ふうん」
エミリアは目を細めた。
「櫛は悲しい人間だね」
「8歳児が哀れむんじゃない」
櫛は彼女をにらんで、頬をつねった。
エミリアは小さく笑った。
「元気出た?眠れる?」
櫛は目を見開いた。のどの奥が狭くなっていくような感覚がした。この感覚は、いつも苦しい。どんな痛みよりも。
櫛は、微笑んで言った。
「・・・うん、ありがとう」
今は、この子のことだけ考えよう。今のあたしは彼女の姉だから。
櫛は、そう強く思った。
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