第2話 おうちの案内
まず、一階ね、とエミリアは二人の前をとことこと歩いていく。
「まず、サクラのためにトイレの紹介」
「いいよ、実をいうと、僕はそこまでトイレが好きじゃないんだ」
エミリアは微笑んだ。
「いいわよ、恥ずかしがることないわ」
何だ、その優しさ。桜は、眉をひそめた。
「トイレは、この廊下を左に曲がって突き当たりです。そこまで、植物とか火とかついてるけど、何も部屋はありませーん」
エミリアは言った。
「で、逆方向に進みます。大叔母さんの書斎に突き当たる方です。エミリアの部屋はここ」
彼女は丁寧に一つずつ部屋を指さしていく。
「ここが、アリスちゃんの部屋。まだ2歳なの。で、養母のアナベルさんが一緒に泊まってるわ。ーここは、アメリお姉ちゃんの部屋。今は、ちょうど、魔法学校の合宿で、街のほうに出かけてるわ。ーここはジャックアンドルカの部屋ね。こいつらはどうでもいいから、まとめて紹介するわ。ジャックは確か私の2つ上で、ルカは、忘れた。二人とも、喧嘩っ早くて、いっつも中庭で戦いごっこしてるわ」
そして彼女は、廊下の突き当たりの手前で足を止めた。
「ここは、さっき、サクラも来たでしょ。とっても優しい大叔母様の、書斎と寝室。中でお仕事とかやってるの。大叔母様は世界でもっともすごい魔法使いなのよ。そして、政府の偉い人。魔法の絨毯を持っていると聞いたことがあるわ」
「へえ」
櫛は微笑んだ。
「エミリアはみんなのことが好きなのね」
「なんで?」
エミリアは首を傾げた。
「みんなのこと、そんなに一生懸命しゃべるもの」
「・・・ジャックとルカは戦うから嫌い」
でも、他は好き、とエミリアは微笑んだ。
「ーさて、これで一階は終了です。分かりました、二人とも?」
エミリアは腰に手を当てて言った。
「ああ、助かった。ありがとう」
「エミリア、教えるのが上手ね。先生みたい」
櫛は彼女の頭をなでた。エミリアはそれを払いのける。
「うるさいなあ」
「何よ、せっかくほめて上げたのに」
「頼んでないわ」
エミリアはふんと鼻を鳴らした。
「それに先生みたいなのは当たり前よ」
「え?」
「私、教師目指してるの」
「へえ、そうなんだ」
エミリアは胸を張った。
「だから、教える練習してるのよ」
「・・・じゃあ、補助輪なしでほうき乗れるようにならないとね」
エミリアは櫛をにらんだ。
「・・・それは、そうだけど」
「午後からは、ほうきに乗る練習したら?」
「ううん・・・」
エミリアはうつむいた。
「・・・そうする」
「・・・意外と素直だな」
櫛は感心して言った。
エミリアによる屋敷の案内が一通り終わり、昼食をとったあと、櫛はエミリアとほうきの練習に行ってしまった。エミリアは、素直ではないものの、櫛を親密に感じているようだし、櫛のほうも楽しそうなので、二人の水は差さないことにして、桜は部屋に戻っていた。
「なぜ、ずっと黙ってるんです?」
桜はポケットに入ったままの球体に話しかけた。
「邪魔しないようにしただけよ。色々と」
ヒクイドリは言った。
「さて、そろそろ捜索に取りかかるわよ。この家のどこかに聖体があるはずだから」
「断言できるんですか?」
「多分ね。この家は、どうやら魔法世界では名のある家のようだし、この近くにあれが保管されてそうな建物なんて見あたらなかった。まさか、森の中にぽん、て置いてあるわけないだろうし」
「どこが怪しいと思います?」
「そうね。・・・あなたはどこが怪しいと思う?」
桜は腕を組んだ。
「んー。そうですね。案内の結果なんですけど、この家の部屋は、寝室と物置と、トイレとキッチン、風呂場、あと、食事をするためのダイニング、併せて30くらいの部屋があるんです。その中で、怪しいのってやっぱり物置だと思うんですよ。だって、寝室とかにそんな希少なもの置かないだろうし」
「物置ね」
ヒクイドリは不満そうだった。
「私は、シャーロット婦人の書斎と寝室が怪しいと思う」
「なんでです?」
「物置に、パンが置いてある様子がちょっと想像し難いから」
「・・・なるほど」
それもそうだ、と桜は思ったが、
「宝物庫みたいなところなら、十分可能性はありますよね」
「・・・まあ、そうだけど」
ヒクイドリはうなずいた。
「そうね、シャーロットの書斎は入るのが難しそうだからどちらにせよ最後に回しましょう。最悪もうそこにしかない、と思ったら、捨て身で侵入して、見つかったら逃げちゃえばいいし」
「できれば、そういう方法は取りたくないですけど」
「・・・悠長なことを言ってる余裕はない」
ヒクイドリは厳しい口調で言った。
「妖精カラスも、その相棒も裏で動いてる。もうあまり時間はないわ」
櫛には悪いけれど、と言った。
「あまり、ここにはいられない」
桜はうなずいた。
「・・・早く探しましょう。まずは2階の物置から」
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